初めてのヒッチハイク ~その2~

sKenji

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これまでの話

 初めてのヒッチハイク ~その1~
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マーセド川にて

マーセド川は静かに美しくヨセミテの自然に調和して流れていた。
川に架かった木橋からは少年たちが川に飛び込んでいる。

川遊びに誘ってくれた学生クライマーと川のほとりに行くと、僕は草むらで海パンに着替えて、勢いよくマーセド川へ飛び込んだ。少年たちに交じり、しばらくの間、川遊びをして満足すると川辺に上がった。すると、学生クライマーが

「泳ぐのが上手だな」

とおそらく御世辞と思われる言葉を投げかけてきて、ヨセミテバレーの景色を眺めながら話を始めた。彼は法学を専攻しているらしく、橋から飛び込む少年を見ながら

「本当は、橋から飛び込むのは軽犯罪法にあたるんだ」と言っているようだった。

日本の俳句についても話した。最初は何のことを言っているのか分からなかったが、どうやら松尾芭蕉が詠んだ「古池や蛙飛び込む池の音」の句のことを言っているらしかった。

「よく知ってるね」と言うと、昔つきあっていた日本人の彼女から教えてもらったとのことだった。

絵にかいたようなヨセミテの景色と川遊びをするアメリカ人を眺めていると、彼らのライフスタイル、人生の楽しみ方がとても羨ましく感じた。

再びヒッチハイク

川遊びのあと、学生クライマーの彼と別れる。

さて、このあとはどうしようか。フレズノ行きのバスはすでにない。そして、泊まるところもない。どうしようもないので、ヒッチハイクでフレズノに向かおうと思った。

さきほどは、ヒッチハイクがうまくいかなくてもバスを使えばよかったのだが、今は、そんなことを言ってはいられない。フレズノまで出れば、泊まる所はなんとかなるだろうが、ヨセミテバレーでは無理だろう。

僕は先ほどの場所に戻ると、再びヒッチハイクを始めた。今回は、それほど恥ずかしさもなかったし、車が停まらない覚悟もできていた。けれど、ヒッチハイクを再開して少しすると、旧式の車に乗った若いアメリカ人カップルが停まってくれた。
運転をしていた男性が行き先を聞いてきたので、

「フレズノ」と答えたのだが、彼らの目的地とは異なっていた。すると、彼女の方が

「目的地を書いたほうがいいわ」と言って、車に積んであった1枚の紙を取り出すと、それに大きく「Fresno」と行き先を書き、おまけに「スマイルマーク」を描いてくれた。僕は、彼女が作ってくれたヒッチハイク行先ペーパーが一発で気に入ってしまった。行先に笑顔のマークを書く彼女のセンスが素敵だった。僕が御礼を言うと、彼らは

「ヒッチハイクは危険だから気をつけて」と笑顔を残して、走り去って行った。

曇空から日が差し込んできたかのようだった。生まれて初めてヒッチハイクの楽しさを知った。

そのあと、スマイルマーク入りの行先ペーパーをかざしてヒッチハイクをしていると、すぐに1台の車が停まってくれた。二人乗り用のピックアップトラックだった。

車の中には、30代前半くらいのアメリカ人男性が一人乗っていた。僕が駆け寄ると
「どこまで行くんだ?」と尋ねてきた。
「フレズノです」と言い、その後にサンフランシスコ行きを考えていることを説明した。

彼はヨセミテ国立公園の入り口あたりに住んでいるらしくフレズノには行かなかった。しかし、とりあえず彼の家に行きバスのことなどを調べて、もし必要ならヒッチハイクのしやすいところまで送ってもらうということになった。

僕は背負っていたザックをピックアップトラックの荷台にほうり込むと、車に乗り込んだ。助手席に座ると、運転していた男性は、ティムと名乗った。僕も、自己紹介をする。

ティムはヨセミテ国立公園で働いていて、ちょうど仕事帰りだった。

車はかなりの年代物で、先程の若いカップルよりもさら古い車で日本では走っていないという代物だったが、人はとても良かった。アメリカでは車の良さと人の良さは反比例するのではないだろうかと、勝手に思っていた。

彼は私でも分かるような簡単な英語を使ってくれるために話しやすかった。おかげで、すぐに打ち解けることができた。

少したつと、車を運転しながら、ティムがぽつりと言った。

「ヒッチハイクのやり方が間違っているよ」

「ん?」最初、何を言っているのかがわからずに、僕がきょとんとしていると、
「ヒッチハイクの親指は上に立てるもんだ」と言って彼がやってみせてくれた。

その時、初めて自分が間違ったヒッチハイクのサインを出していることを知った。
僕は手のひらをグーにした状態で立てた親指を上ではなく、どうやら地面、つまり下向きにして、アピールしていたのだ。

上向きはヒッチハイクのサイン。下向きは、ブーイングや喧嘩を売る時のサインだ。どうりで車で通りすぎていく人たちがあのような反応を示していたわけだ。

ティムは家に向かう途中、世界最大の花崗岩、エル・キャピタンの前で車を停めてくれた。

夕焼けがヨセミテバレーを美しく照らしている。僕は、そこに神々の遊んでいる姿を見た。

<初めてのヒッチハイク ~その3~ に続く>

 初めてのヒッチハイク ~その3~
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マーセド川

Text:sKenji

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