スリランカ旅行記 Vol.2 ~ベンツをヒッチハイク (その2)~

sKenji

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恩返し

シルヴァ(※)は、車を自動車修理屋の前に停めると、僕にも一緒に来るように促して店の中に入って行った。

彼の後に続いて入る。

店には、2、3人の若い男性スタッフがおり、部屋の一番奥の椅子に、一人の中年男性が腰を掛けていた。どうやら、この人が店のオーナーのようだった。すぐ近くには、取引先のお客さんだろう、もう一人、男性がいてオーナーと話をしていた。

シルヴァは、お構いなしにその話の間に割って入り、挨拶をすると、オーナーと言葉を短く交わした。

そして、オーナーに僕を紹介する。オーナーは物腰が柔らく、紳士的な印象を受けた。彼は僕が挨拶をする前に、

「こんにちは。」と日本語で挨拶してきた。

僕が「えっ?!」っと少し驚いた表情を見せたため、

「スリランカへようこそ。私は昔、日本で働いていたことがあります。」と流暢な日本語で説明してくれた。

どうやら、オーナーは日本で10年近く働いていたらしい。スリランカでは近年まで内戦が続いていたのだが、終結したのに伴い、帰国し、ダンブッラで店を構えたとのことだった。続けて、

「何か飲みたいものはありますか。」と尋ねてきた。最初は申し出を断った。しかし、

「遠慮はしないで下さい。私は日本人に大きな恩があります。」と再度言われると、彼の言葉に甘えて、

「すいません。それではコーラを下さい。」と遠慮せずにお願いをする。

実を言うと、灼熱の太陽の下でシーギリヤ観光をしていたために、持っていた水は全て飲み干して、喉がからからに乾いていたのだ。

オーナーは、店の若いスタッフに指示すると、そのスタッフは店からすぐに出て行った。

シルヴァは店の入り口で、別のスタッフの一人と話をしていた。取引先のお客さんは、日本語で行われている僕とオーナーの会話を静かに聞いている。

出て行ったスタッフは、すぐにコーラーのビンを1本持って戻ってくると、僕に手渡した。

ビンには滴がびっしりと付き、キンキンに冷えていた。栓をあけてもらい、ゴクリと喉に流し込む。美味しかった。生き返るような気分だった。感謝の気持ちに満たされた。

嬉しそうな僕の表情を見ていたオーナーもにこやかに笑って、言った。

「私は日本人に本当にお世話になりました。今の私や、このお店があるのは日本のおかげです。これはお世辞ではなく、本当のことです。少しでも日本人に恩返しがしたいのです。」

と静かに熱のこもった言葉で言う。

オーナーは神奈川県の工場で働いていたらしい。日本での暮らしは大変だったが、日本人はみな親切で、よくしてくれたらしく、心から感謝しているようだった。

「日本人は礼儀正しく、街は清潔で人々はルールをきちんと守る。」とリップサービス込だろうが日本を褒めてくれる。

海外で母国を褒められることは、とても嬉しいことだった。

旅行をするといつも思うことがある。莫大な経済援助や各国に駐在する外交官が、
国際交流や日本のイメージアップに果たす役割は大きいと思う。しかし、それ以上に大きいものは、一般の人と人による交流だ。

海外旅行中に、日本人にお世話になったから、その恩返しがしたいという外国の方に何度も助けられてきた。彼らは見返りを求めず、無償で精一杯のことをしてくれる。見知らぬ外国を独りで旅行している際に受ける親切ほど、身に染みてありがたさを感じることはない。ぜひ彼らにお礼をしたいと思うのだが、帰国してしまうと、せいぜいメールでお礼を伝えることしかできずにいる。けれども、彼らの優しさに対する一番の恩返しは、今度は、私が困っている人の手助けをすることなのではないかと思う。

ダンブッラ中心地付近
ダンブッラ中心地付近
ダンブッラ
ダンブッラ

一枚のメモ用紙

オーナーとの会話はその後も続いたが、最初は聞いているだけだった取引先のお客さんも、オーナーの通訳で時折、会話に参加してきた。

話の中心は常に日本についてのことだった。日本の物価が高いことや日本人は時間に厳しいなどなど。取引先のお客さんは、僕がしていた腕時計に興味を示した。時計は、電波式のGショックだったのだが、これは、太陽電池で動き、落としても壊れないし、決して1秒も狂わないと説明すると驚いていた。

ただ、腕時計の話題に続けて、オーナーが日本の電車もとても正確で一秒も遅れないと説明したらしいのだが、それは言い過ぎだろうと訂正をいれておいた。

もっと話をしていたかったのだが、仕事の邪魔をしても悪いので、お礼を言って出発することにした。

シルヴァは相変わらず、店の入り口で話をしていた。

オーナーはシルヴァを見て、

「彼はいいやつですよ。」と言った。

「でも、シーギリヤからここまでくる間に、変な話ばかりしていましたよ。」と言うと、苦笑いして、

「確かに口は良くないかもしれませんが、悪いやつではないです。車だって、きっとお金なんか求めないですよ。」と笑って言う。

なぜだかわからないが、直感的にこのオーナーは人を騙したりする人ではないだろうと勝手に思い込んでいた。その彼も、シルヴァをいい人だと言っている。

シーギリヤで車に乗せてもらった直後は、どのような人物か疑念を持っていたシルヴァだったが、彼に対するオーナーの言葉と、ダンブッラまでの車中で知った憎めない彼の性格で、僕はシルヴァを信用するようになっていた。オーナーは別れ際に

「スリランカで、もし困ったことがあれば、いつでも、どんなことでも言って下さい。私にできる限りのことをします。」

と言って、一枚のメモ用紙に連絡先を書いて渡してくれた。

僕はお礼を言い、彼の優しさが込められたメモ用紙をポケットにしまうと、オーナーやスタッフ、取引先のお客さんに別れを言って、シルヴァと共に店を後にした。

<「スリランカ旅行記 Vol.2 ~ベンツをヒッチハイク (その3)~」へ続く>

(※)シルヴァは仮名です。

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Text & Photo:sKenji

ダンブッラ

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