八ヶ岳へ
9月の三連休(9月21日~23日)は山に登ろうと決めていた。
連休初日、125㏄のバイクに大量の登山道具を積み、昼過ぎに静岡県の三島を出発する。
下道を延々と長野に向かう。目指すは八ヶ岳。
八ヶ岳は、長野県と山梨県にまたがる山塊の総称で、八ヶ岳という名の山は存在しない。日本百名山のひとつで、最高峰は赤岳で2899m。
登山者にはとてもポピュラーな山で、登山コースもたくさんある。僕は、長野県茅野市にある美濃戸口の登山口から登り始め、赤岳鉱泉を経て、硫黄岳、赤岳、権現岳、西岳を縦走をし、長野県諏訪郡富士見町にある立場川キャンプ場の登山口に、下山することにした。日程は1泊2日。キレット小屋でキャンプをする。
歩行時間は、1日目はおよそ9時間、2日目は6時間半の予定だ。途中、それほど危険な箇所はないのだが、初日、キャンプ地到着が遅くなるかもしれないことが心配だった。
登り口と下り口が異なるので、ゴール地点の立場川キャンプ場にバイクを置いた後、スタート地点の美濃戸口までは歩いて移動して、そこから登り始めようと考えていた。
連休初日、立場川キャンプ場の登山口に着いたのは、夜の8時だった。あたりは真っ暗。翌日が早いので、到着するとすぐにテントを張ってさっさと寝た。
出発
翌朝は4時起床。日の出前だ。
通常ならば真っ暗なはずなのだが、この日は満月に近く、月明かりで懐中電灯がなくても歩くことができるほどだった。
寝袋から這い出ると、まず水を沸かす。
月光に照らし出される森が幻想的で美しかった。しばらく、森の中で月明かりに見とれていた。
お湯が沸いたので、朝食となるアルファ米のパックを開けて、熱湯を注ぐ。アルファ米とは、一度炊いたお米を乾燥させたもので、お湯や水を加えると、再び炊いた直後の状態に戻る。アルファ米が入ったパックに指定量の熱湯を入れると、袋の口を閉じてザックにしまった。朝食は後でとるつもりだ。
テントの中にある荷物をザックに詰め込んでいく。全て片付けると、最後にテントをたたみ、ザックの中に押し込んだ。今回はテント泊山行のため、ザックの重さもそれなりになった。
明るくなり始めた5時過ぎ、美濃戸口の登山口へ向けて出発した。登山口までは歩いて1時間半ほどの距離。
日没が早くなってきているので、今日のキャンプ地であるキレット小屋の到着が遅くなってしまうことが気掛かりだった。早歩きをする。だが、いくら早く歩いたとしても、短縮できる時間は限られている。美濃戸口までは、車で行った方が良さそうだと思った。
しかし、そうは言っても場所と時間を考えると、バスもタクシーもあるとは思えない。
そこで、ヒッチハイクを試みることにした。キャンプ場の前の細い道から県道に出ると、歩きながら車が通るのを待った。
ヒッチハイクで美濃戸口へ
県道にでて、2、3分歩いていたところで、最初の車がきた。高そうな黒色のRV車だった。僕は、歩くのをやめて立ち止まると、右腕を水平にあげて、ヒッチハイクのアピールをする。
正直なところ、最初の車ということで、停まってくれるとは思っていなかった。ところが、ヒッチハイクのサインを見たのかどうかは不明だが、その車はゆっくりと減速し始めた。まさかいきなり1台目では停まるわけないよなと思っていると、
3、4m先に車は停車した。半信半疑で停まっている車に近づく。車内には2人の男性と1人の女性が乗っていた。
車のすぐ脇まで行くと、助手席の窓が開き、運転をしていた男性が、
「ヒッチハイク?どこまで行くの?」
と聞いてきた。40代半ばくらいの方だった。僕が
「すいません。美濃戸口の登山口まで行きたいのですが。」と言うと、
「自分らも今から行くところだよ。いいよ。乗りなよ。」と言ってくれた。
僕は御礼を言って、後部座席のドアを開けて乗り込む。まさか1台目で止まってくれるとは、思ってもいなかった。ヒッチハイク人生で初めての経験かもしれない。
流石はヒッチハイク天国「日本」だけはある。
後ろの席には、もうひとりの男性が座っていた。歳は50代かと思われる。助手席には女性が乗っており、恐らく運転手の男性と同年代位だろう。みなさん感じの良さそうな方だった。
車に乗ると、まず挨拶をした。すると運転手の男性が、
「こんなところでヒッチハイクやってる人、初めて見たよ」と笑いながら言った。僕も笑いながら、
「国内でヒッチハイクしたのは学生の時以来かもしれないです。」と言って八ヶ岳に登ること、立場川キャンプ場入口にバイクを置いて、美濃戸口に向かっていたことを説明すると、男性も
「なるほどね。」と納得したようだった。
男性達は、東京在住の登山仲間で、八ヶ岳に登りに来たとのことだった。彼らも同じく美濃戸口からのスタートだと言う。運転をしている方は、今回で6回目の八ヶ岳だという話だった。僕が、八ヶ岳を登るのは初めてであることを言うと、
「どういうコースで登るの?」と尋ねてきた。今回の登山行程を説明すると、男性は、えっ?大丈夫?という表情を一瞬して、
「硫黄岳から縦走するの?」と少し心配そうに言った。
恐らく、テント泊の重装備で日没前にキャンプ地までたどり着けるかどうかを心配してくれているのだろう。
「はい。硫黄岳も行きます」と返事をすると、
「気を付けてね。八ヶ岳は良い山だよ。コースもたくさんあって飽きないし。途中で下山したくなったらエスケープルートにも困らないよ。」と教えてくれた。確かに八ヶ岳は登山コースが豊富だ。
いったいどのコースを歩くか迷った位だった。僕はおすすめのコースを聞いてみた。すると、
「行こうとしている、硫黄岳から権現岳の縦走コースが一番いいんじゃないかな」
と教えてくれた。
八ヶ岳の縦走コースはいったいどのようなものだろう。期待が高まる。しかし、それと同時にキレット小屋への到着時間も気になった。
八ヶ岳登山についての話をしていると、5、6分程で美濃戸口に到着した。登山口の駐車場はいっぱいだった。ゆっくり車で移動しながら、駐車する場所を探していると、
「私たちは、車を停める場所を探すけど、時間がないんだから、 ここで降りて早く先に行った方がいいわよ」
と助手席の女性が、気遣ってくれた。運転手と隣に座っている男性二人も同調して、先に行くことを勧めてくれた。心遣いに感謝した。
僕は御礼を言って車を降りる。お互いに
「お気をつけて。」と言った後、僕は、最後にもう一度お辞儀をしながら御礼を言って登山口へと向かった。
気さくで優しい人たちだった。気持ちのいい一日の始まりだった。なんだか、良い山行になりそうな予感がした。
<山登りのススメ Vol.5 ~八ヶ岳 その2~ へ続く>
立場川キャンプ場
Text & Photo:sKenji
最終更新: