「放射能について ~前編~」では、放射能の基礎知識について書きました。後編では、放射能の人体への影響などを中心に調べてみます。
人体が放射線を受けるとどうなる?
人体が放射線を受けると、放射線のエネルギーにより、細胞内の遺伝子(DNA)が損傷を受けます。損傷を受けた細胞は、少量の被曝で損傷が少ない場合には、備わっている修復機能でDNAを修復することができますが、損傷が大きかった場合は修復しきれずに、細胞死もしくは遺伝子が損傷した状態になります。
細胞の死や、遺伝子の損傷は、身体的障害(身体的影響)、遺伝的障害(遺伝的影響)を引き起こす恐れがあります。身体的障害(身体的影響)など、放射線の人体への影響についての説明が、公益財団法人原子力安全研究協会・放射線災害医療研究所のWEBサイトに書いてあります。
放射線の人体への影響には、「身体的影響」と「遺伝的影響」があります。
身体的影響は本人(個人)に現れる障害で、「急性影響」と「晩発影響」が
あります。
1)身体的影響
・急性影響
一度にたくさんの放射線を受けると、人体に影響が現れます。人体の中には影響を受けやすい部分と受けにくい部分があります。一般的に同じ量の放射線を受けても、長い間にわたって少しずつ繰り返し受けたときは、一度にたくさんの量を受けた時に比べて影響は少なくなります。
・晩発影響
放射線を受けて数年から数十年後に人体に現れる影響を「晩発影響」といいます。その主なものには、白内障、がん等があります。
2)遺伝的影響
遺伝子を通して子孫に伝わる影響です。遺伝的影響は、動物実験でのみ認められており、人間については確認されていません。広島・長崎の原爆被爆者で100mSv以上の線量を受けた人達から生まれた子供に見られた影響(重度精神遅滞)は、その子供が胎内にいる間に子供本人が受けた身体的影響(胎児被ばく)であって、遺伝的影響ではありません。
人体への影響については、「確定的影響」と「確率的影響」という分け方もあります。「確定的影響」とは、低線量では影響はないが、一定量(しきい値)の放射線を受けると必ず症状が現れ、線量が高いほど、症状も重くなる影響のことで、脱毛、皮膚病、白内障などがあります。「確率的影響」とは、放射線を受ける量が多くなるほど影響が現れる確率が高まります。がんや遺伝的障害などがあります
被ばく線量と人体への影響について
震災による原発事故発生以前においても、宇宙から降り注ぐ放射線や、天然の放射性物質を含んだ食物を摂取することにより、自然放射線とよばれる自然界に存在する放射線を受けてきました。
自然放射線以外にも、レントゲン撮影や航空機に乗るだけでも被ばくしています。人体への影響について、はっきりしない部分もありますが、一定以上の放射線を受けた場合に障害の発生やがんの確率が高くなると言われています。
放射線被ばく量と人体への影響について、国際放射線防護委員会(ICRP)データによると、下記のとおりです。
■放射線被ばく量と人体への影響
0.05 胸のX線検診
0.19 東京・ニューヨーク間航空機による往復
0.6 胃のX線検診
2.4 一人あたりの自然放射線量(世界平均)
6.9 胸部X線CTスキャン
500 全身被ばくで抹消血中のリンパ球減少
1000 全身被ばくで10%悪心(おしん)・嘔吐
3000 全身被ばくで50%死亡、皮膚への局部被ばくで脱毛
5000 水晶体への局部被ばくで白内障
7000 全身被ばくで100%死亡
(※数値はミリシーベルト)
実際にどの程度、放射線を受けているのか気になるかもしれません。人工的に作り出された人工放射線ついては、生活環境、生活スタイルなど、人によって大きく異なりますが、自然放射線量については、日本の年間平均は1.5ミリシーベルトと言われています。内訳は、空気の吸入から0.6ミリシーベルト(主にラドン)、大地から0.4ミリシーベルト、宇宙から0.3ミリシーベルト、食べ物から0.2ミリシーベルトです。
自然放射線量は場所によって異なります。世界の自然放射線量の高い場所を調べてみると、
イラン・ラムサール:17.5mSv
ブラジル・ガラバリ:5.5mSv
などがあります。これら自然放射線量が高い地域と他の地域とのがんの発生率の違いは、特に見られないとのことです。
ちなみに、自然放射線と人工放射線の人体への影響ですが、2つに違いはなく、受ける放射線量が同じであれば人体への影響は同じです。
放射線量の安全基準値について
国や国際的な団体・組織では、人体への影響を考えて許容される放射線量の基準値を定めています。
日本では、追加被ばく線量は、年間1ミリシーベルト、毎時にして0.19マイクロシーベルト以下と決められています。この数値は、平時の一般的な人に対してであり、放射線事業に従事している方や原子力施設で事故があった場合は、別の数値が決められています。
追加被ばく線量とは、自然放射線や医療放射線による被ばく線量を除いた被ばく線量のことです。
国際的な安全基準値としては、
■国際放射線防護委員会(ICRP)
緊急時:20~100ミリシーベルト、
緊急事故後の復旧時:1~20ミリシーベルト
平常:1ミリシーベルト
などがあります。
食品の放射性物質の基準値は、体格、代謝、年齢、性別も考慮して、通常の食生活を送った場合、1ミリシーベルト以下となるように定められています。
放射線防護の3原則について
放射線から身を守る方法として、放射線防護の3原則というものがあります。
被ばくには、身体の外部にある放射性物質から放射線を受ける外部被ばくと、放射性物質を体内に取り込んで放射線を受ける内部被ばくがあります。外部被ばく防護の3原則は、「距離」「時間」「遮へい」の3点です。
1.「距離」
放射性物質から離れる。
放射線の影響は、距離の2乗に比例して弱くなります。例えば、放射線の源から100メートル離れると、放射線の影響は1メートルの所の1万分の1になります。
放射線量が部分的に高い場所(ホットスポット)の可能性として、下記の場所ががあります。
・側溝
・排水溝
・マンホール周辺
・水たまりの乾燥跡
・さびた鉄材
・切り株や木材
・草木やこけの表面
・枯れ葉や土がたまった場所
・雨どい
・屋根の材質がさびたトタンや凹凸が激しい瓦
極力、ホットスポットを避けるようにしましょう。
2.「時間」
放射性物質のそばにいる時間を短くする。被ばく線量は時間に比例します。例えば、一定の放射線を出す放射性物質の近くに2分間いた場合は、1分間いた場合の2倍の放射線量を受けます。作業が必要な場合など、やむを得ずホットスポットに近づく際には、できる限り作業時間の短縮をすべきです。
3.「遮へい」
放射性物質と体の間に遮へい物を置く。放射線は物質を透過する性質がありますが、鉄板やコンクリートで止めることができます。
内部被ばく防護の3原則は、下記の3点です。
1.放射性物質をつけない(ついたら洗い流す)
つけないように気を付けていても、ついてしまうこともあるかもしれません。 もし、体に放射性物質がついてしまった場合の除去方法について、広島大学の放射能対策基本情報ポータルサイトに下記のように書いてありました。
■体に付着した放射性物質の除去(除染)
○衣服
衣服を脱ぐことで、放射性物質の90%以上が除去される。
脱いだ衣服はビニール袋に密封して保管する。(洗濯することにより汚染は
除去されます。)
○頭髪の除染
湿った布で毛先に向かって拭き取る。
シャンプー(または中性洗剤)を用いて洗い流す。
○傷がない皮膚の除染
湿らせたガーゼ等で拭き取る。
汚染が残存する場合は、中性洗剤や除染剤(オレンジオイルクリーム等)を
使用して拭き取る。
2.放射性物質を吸わない
花粉用のマスクを使用するだけでも、一定の効果はあるようです。できる限り、顔にぴったりと密着したものがいいです。
3.放射性物質を口に入れない
食品について、消費者庁のWEBサイトによると
食品中の放射性物質が暫定規制値を超えた食品及び基準値を超える食品については、出荷や摂取の制限が行われています。
とのことです。
放射能について調べてみて
今回、放射能について基本的なことを調べてみました。まだまだわからないことばかりで、調べれば調べるほど、知識習得の必要性を感じています。
原発事故による放射能問題について、放射性物質に対して気を付けなければいけないと思うと同時に、必要以上に気にしすぎるとかえって精神的、健康的に悪影響となる可能性もあるのではないかとも思いました。
食品を始めとして、根拠のない風評もいろいろとあり、信憑性について意識しながら、正確な情報を収集しなければいけないと改めて感じています。
<終わり>
参照WEBサイト
Text :sKenji
最終更新: