放射線というと、何となく恐いもの、危ないものとネガティブなイメージを持つ方が多いと思います。それは人間には見えず、匂いもせず、音も聞こえない、未知なものに対する恐怖心から来るものだと思います。
このようなネガティブなイメージが、福島での「放射能は人にうつる」といった誤った認識を生み出し、学校でのいじめに繋がり、また風評被害に繋がっています。
そもそも放射線は自然界で身近に存在し、また医療や農業など様々な分野で私たちの生活に大いに役立っています。
先日、掛川市で放射線と健康への影響をテーマとした講演会に出席しました。そこで放射線の専門家から、放射線の説明と気になる健康への影響を聴くことができました。
「放射線を正しく知り、正しく恐がることが、放射線に対する誤解を防ぎ、福島のようないじめ問題や風評被害に繋がることを防ぐ上で重要である」という主張をされていました。
放射線被ばくの意味を理解する
放射線被ばくの意味を理解するためには、まずはいくつかの用語の意味と関係性、その特徴を正しく理解することが必要です。
■用語の意味
・放射性物質
放射性セシウムや放射性ヨウ素など、放射線を出す物質。
・ 放射能(単位:ベクレルBq)
放射性物質が持っているエネルギー。1ベクレルは、放射性物質から1秒に1個の放射線が出ること。
・ 放射線(単位:シーベルトSv)
放射性物質から出される、ガンマ線やベータ線など。胸部レントゲンで使うX線も放射線。放射線を浴びて、どれくらい人体への影響があるかという単位がシーベルト。1Sv=1000mSv(ミリシーベルト)。1mSv=1000μSv(マイクロシーベルト)。
放射性物質はもともと不安定な状態をしており、安定した構造になろうとする性質を持っています。この安定した構造になろうとする過程で放射線が放出されます。
半減期という言葉を聞いたことがあるかと思います。上記の過程で放射性物質がもつエネルギーが半分になるまでの期間のことです。半減期には下記の2種類があります。
■半減期の種類
・物理学的半減期(半減期)
放射性物質が時の経過で自然にエネルギーが半分になるまでの期間。
・生物学的半減期
放射性物質が食品と一緒に体内に取り込まれ、そのエネルギーが半分になるまでの期間。生物の代謝により、尿などからも放射性物質が排出されるため、物理学的半減期より半減期は短くなる。また代謝の良い子供の方が大人より半減期は短い。
下記は放射性物質セシウム137での比較
・物理学的半減期:30.4年
・生物学的半減期:大人 3ヶ月 子供 1~2ヶ月
放射性物質が安定構造になろうとする過程で放射される放射線の被ばくには、以下の2種類があります。
■被ばくの種類
・外部被ばく
体の外から放射線を浴びること。宇宙や大地から自然に出ている放射線やレントゲン写真のX線など。原爆による人体への影響も外部被ばく。
・内部被ばく
食品と一緒に体内に取り込まれた、体の中の放射性物質からの放射線で被ばくすること。チェルノブイリ原発事故の被ばく原因は、汚染された食べ物や水などを食べたり飲んだりしたことによる内部被ばく。
また放射線の特徴を知ることも放射線被ばくを理解する上で重要です。
■放射線の特徴
・放射線の強さは距離の2乗に反比例する(距離)
・鉛の板やコンクリートなどの遮蔽物で被ばく線量を減らせる(遮蔽)
・放射線を長く浴びれば浴びるほど被ばく線量は高くなる(時間)
放射線被ばくの線量
放射線被ばくの線量が人体へ与える影響は、以下を目安にすると分かりやすいです。
■放射線防護、規制(~1mSv)
・胸部X線 0.1mSv
・年間公衆被ばく線量限度※1 1mSv
■医療放射線被ばく(~10mSv)
・年間日本自然放射線レベル(平均) 2.1mSv
・CT検査 7mSv
■低線量被ばく(~100mSv)
■急性放射線障害(~10Sv)
・急性被ばくによる人体でのがんリスクの増加 100mSv~
・年間ラムザール(イラン)自然放射線レベル 200mSv
・骨髄の細胞が死亡 500mSv
・脱毛、皮膚熱傷 1~2Sv
・2~3週間で死亡 6~7Sv
・1~2週間で死亡 8~10Sv
・5~12日で死亡 10~20Sv
・局所照射による放射線治療※2 15~100Sv
・0~5日で死亡 20~100Sv
※1
自然放射線および医療放射線以外の受けてよい放射線被ばくを年間1mSv以下に設定(食品衛生法上の放射性物質検出の基準値もこれを目安に設定)
※2
強い放射線をがん細胞のみに照射して殺す
放射線による癌・白血病の増加リスク
日本人の死因の30%が癌ですが、浴びた放射線量と癌によって死亡する人の増加割合が、原爆被爆者のデータをもとに推定されています。
・100mSv以下 → 増加なし
これより低い線量では、放射線が癌を引き起こすという科学的根拠はない。
・100mSv → 0.5%増加
1000人が100mSvを浴びた場合、がんで死亡する人の数が生涯で300人(1000人×30%)から305人(300人+1000人×0.5%)に増える可能性がある。
・100mSv以上 → 100mSV増加するごとに0.5%増加
放射線被ばくの遺伝的影響
現時点では被爆二世について、癌やそれ以外の疾患が増加していることは確認されていないようです。内部被ばくが問題となったチェルノブイリ原発事故から30年が経過していますが、事故後に生まれた世代の健康影響も確認されていないようです。
今のところ、体細胞が被ばくしても放射線被ばくの影響は次世代に伝わらないとされています。なお、昆虫などの下等生物については次世代への影響が認められています。人間などの高等生物には影響が認められていません。
ただし、今後被爆二世の世代が癌年齢に到達するため、継続的な評価が必要とのことです。
チェルノブイリ原発事故と福島原発事故の比較
チェルノブイリ原発事故から30年が経過しています。原発30km圏内の住民は避難したまま、戻ってきた自治体はないそうです。現在、ごく一部を除いて周辺の放射線量が高い所はないようです。戻って来ないのは30年も経つと、戻ってもインフラ等の復興ができないためです。
チェルノブイリの汚染範囲(面積)は福島の10倍以上です。また放射性物質の総放出量は、ヨウ素換算で6.8倍となっています。
チェルノブイリでは発電所周辺地域の内部被ばくが拡大しました。
大量に大気中に放出した放射性ヨウ素は風に乗って広範囲に放射性降下物として大地に降り注ぎました。放射性ヨウ素は水に溶けやすい性質があります。その結果、草や水が汚染されます。草を食べた家畜が汚染され、牛乳が汚染されます。また汚染された水中に住む魚も汚染されます。
これらの汚染された食べ物や飲み物を摂取した結果、放射性ヨウ素が体内に入り込み、内部被ばくの拡大に繋がりました。甲状腺ホルモンはヨウ素から作られるため、放射性ヨウ素は甲状腺に集まります。そのため甲状腺癌を発症する結果となったようです。
チェルノブイリの甲状腺被ばく量の中央値が200~500mSvと推定されています。100mSvを超える放射線被ばくは癌の発症リスクが増加します。チェルノブイリ事故周辺地域の12万人を対象とした調査では、細胞分裂が活発な子供の方が甲状腺癌の発症リスクがかなり高くなっています。
このように原発事故が起こった場合、若い世代に大きな影響が出る可能性があります。
福島の場合、事故直後の空間線量は最も線量の高い飯舘村で最大45μSv/時を計測しました。その後半減期の短い放射性ヨウ素は急速に減少し、6日後には10μSv/時となっています。また半減期の長い放射性セシウムは除染が行われました。
以下は放射線防護の線量の基準です。
・屋内退避 10mSv
・避難 50mSv
事故直後、すぐに外部被ばく低減対策として段階的に原発30km以内の住民11万人に対して避難指示または屋内退避指示が出されました。放射線の特徴で書いたとおり、放射線を低減するためには距離・遮蔽・時間が重要だからです。
その結果、福島県民平均(放射線業務従事経験者を除く)の外部被ばく線量は0.8mSvとCT検査の被ばく量(7mSv)の約1/9程度となっています。最高値で25mSvでした。最高値でも癌発症の増加リスクが認められる100mSv以下という結果です。
チェルノブイリの教訓として、子供の内部被ばくを抑えるために福島では食品管理がなされました。
暫定基準値500ベクレル/kgを上回る食品と水について摂取制限、流通制限が行われました。この措置によって首都圏においてもコンビニやスーパーからミネラルウォーターが消えるというパニックが起こりましたが、福島県民の内部被ばく線量の低減化が図られました。
福島第一原発周辺地域の1000人超の小児甲状腺被ばく線量評価では、99%が15mSvより低いという結果が出ました。チェルノブイリの200~500mSvと比較すると、適切な食品管理で内部被ばくは防ぐことができることが分かります。なお、最高値でも40~45mSvで、癌発症の増加リスクが認められる100mSvを下回っています。
放射線セシウムによる内部被ばく線量については32万人超が検査を受けた結果、ほとんど検出されていないようです。
講演者より、チェルノブイリと比較すると、事故のスケールが小さいこと・避難や屋内退避による外部被ばく対策・食品管理による内部被ばく対策を行ったことから、福島はそもそもの線量が低く、将来の健康への影響は観察されないだろうと仰っていました。国際機関でも同様の評価だそうです。
そのように言うと、すぐネットで叩かれるそうです。しかし被ばく線量をきちんと評価した上で言っているため、そこを周知していきたいとのことでした。
今回の講演会で得た教訓
我が家の20km圏内にも浜岡原発があります。万が一原発事故による放射能漏れが起こった場合どう行動するか、家族会議を行いました。
1. 外部被ばく低減対策
・原発から1秒でも早く1mでも遠くに避難する
・地下かコンクリート製の建物内に避難する
2. 内部被ばく低減対策
・非常用の飲み水や食べ物を用意しておき飲食する
3. 過剰な心配をしない
・放射線を正しく恐がり、あらぬ心配でストレスを溜めない
最後に講演者からこんな言葉がありました。
「放射線を正しく知ることで、過剰な心配や不安が無くなります。放射線を正しく知り安心して福島を応援してください。福島から出回っている食品は検査済みです。買って応援してください。私は福島のマラソンに参加しています。どんなことでもいいので応援してください。」
本日、福島第一原発20km圏内に行ってきます。講演会で学んだ放射線の知識のもと、原発周辺の今を見てきます。
また、福島を応援できる何かを見つけて来たいと思います。
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