日本の滝百選にも選ばれている名瀑「浄蓮の滝」は天城山中にある。石川さゆりの名曲「天城越え」の歌詞に書かれていることもあり、訪れたことはなくても、名前だけは耳にしたことがある人も多いかもしれない。今日は伊豆の名瀑「浄蓮の滝」をご紹介したい。
浄蓮の滝について
浄蓮の滝は、静岡県伊豆市湯ヶ島の標高310mの山中にある。高さ25メートル、幅7メートルの滝で、滝つぼの深さは15mある。水は冷たく、水温は真夏でも16℃程度である。
同滝は約1万7千年前、南東約2.5㎞の所にある鉢窪山(674m)が噴火した際に溶岩が本谷川へ流れ込んでできている。滝の名称は本谷川の左岸に浄蓮寺があったことに由来する。
今でこそ、誰でもたやすく滝へ行くことができるものの、明治末期、湯ヶ島で生まれた安藤藤右衛門が私財を投じて道を拓くまでは、断崖と木々により人間が簡単に近づくことはできなかったという。ちなみに、安藤藤右衛門は作家・川端康成が「伊豆の踊子」を執筆した宿、湯本館の創業者であり、湯ヶ島温泉の礎を築いた人物と言われている。
浄蓮の滝にまつわる、女郎蜘蛛伝説
浄蓮の滝にまつわる話に「女郎蜘蛛(ジョロウグモ)の伝説」がある。以下、浄蓮の滝の入口にある「浄蓮の滝観光センター」の説明板の要約である。
昔々、浄蓮の滝には女郎蜘蛛の化身が住んでいると恐れられていた。
ある時、浄蓮の滝近くで木を切っていた1人のきこりが、誤って斧を滝つぼに落としてしまった。きこりは滝つぼに潜って斧を探したものの、結局見つからずに諦めて川岸へと上がった。すると、そこにひとりの若い美しい女が斧を手に持って立っていた。女は、会ったことを誰にも話さないこと。もし話してしまった時には命をもらうことを条件に斧をきこりへ返した。
きこりはその後、女が滝の主・女郎蜘蛛であることに気づき、誰にも話をしなかった。しかし、ある時、仲間と酒を飲んでいる際に酔って口を滑らせ、滝での出来事を話してしまった。
きこりは話を終えると、炉ばたに横になり眠りについたが、二度と目を覚ますことはなかったという。
浄蓮の滝をあるく
滝へは同センターの裏側にある遊歩道を歩いて行く。道はコンクリートで舗装されており、歩きやすい。遊歩道の入口付近で滝の音がする方を見みてみると、木々の間から浄蓮の滝が見えた。
浄蓮の滝へと続く道は渓流沿いの急斜面に作られているものの、傾斜は比較的緩やかである。道を切り開いた安藤翁には頭が下がる思いである。
坂を下りて行く途中、美しい渓流を木々の間から見ることができる。渓流は浄蓮の滝がかかる本谷川である。同川は伊豆を代表する河川・狩野川の源流部にあたる。本谷川は伊豆市湯ヶ島で猫越川と合流すると、狩野川と名前を変えて駿河湾へと注いでいる。
遊歩道の入口から標高差約40m、距離にして200mほど歩いた場所に浄蓮の滝がある。豪快な直瀑(※)であるものの、山奥というロケーションのせいか、どこか幽玄さも感じさせられる。
滝の周囲には、県指定の天然記念物ジョウレンシダ(ハイコモチシダ)が自生している。
(※)落ち口から滝壷に向かって一直線に流れ落ちる滝。有名なものでは、日光・華厳の滝がある
滝の近くには渓流の水を利用して栽培しているわさび田がある。時折差し込む夏の日差しに照らされるわさびと、清らかな水に清涼感を感じる。
滝の下流には自然の川(本谷川)を利用した釣場もあり、ニジマスやアマゴといった魚を釣ることができるほか、浄蓮の滝観光センターから歩いて15分ほどの場所には滑沢渓谷もある。同渓谷では夏は川遊び、秋は紅葉を楽しむことができる。
伊豆の名瀑・浄蓮の滝を訪れた際には、本谷川で釣りをしたり、滑沢渓谷を散策するのもいいかもしれない。お土産には新鮮なわさびがおすすめである。
浄蓮の滝
参考WEBサイト
「浄蓮の滝観光センター」に設置された説明板も参考にしています。
Text & Photo:sKenji
最終更新:
izunoshippo200000
溶岩流が川をせき止めてというのが通説みたいですが、滝の落ち口右下には柱状節理も見られます。このことは火道に匹敵するほど大量の溶岩が一気にこの場所に現れて、徐々に冷やされたことが示唆しています。火山のメカニズムというものには人知を越えたとんでもないスケールがあるということを示す一例だということを示す好例でしょう。ちなみに、同様の柱状節理は「伊豆の各所、たとえば南伊豆の海岸線や淡島などでも普通に見られる」と言っても過言でないほどよくあることから、伊豆がかつて火山の島だったことがよく分かります。
sKenji
おっしゃるとおり伊豆各地には大室山を始め、火山と密接なつながりがある地形がたくさんありますよね。温泉も伊豆半島各地で湧いていますし。今後もジオな伊豆を楽しんで、いろいろ行ってみたいと思います♪