古来から修験者の山として知られる戸隠連峰。高妻山はその最高峰である。標高2353メートルの日本百名山で、長野と新潟の2つの県にまたがっている。
戸隠はその昔、多くの寺社が建てられ、平安末期から鎌倉中期にかけての最盛期には、比叡山や高野山と肩を並べるほどであったという。山の稜線はいかにも修験者が好みそうな険しいもので見る者の好奇心をそそる。
高妻山は戸隠などの麓からはその姿を見ることができない。鋭いノコギリの歯のような戸隠山の奥にひっそりと隠れるようにある。しかし、その均整のとれた三角形の山頂は「戸隠富士」とも呼ばれ、登山者を惹きつけるものがある。
日本百名山の著者・深田久弥は高妻山の山容について、戸隠山登山の際に次のように述べている。
「本当に山の好きな人だったらその眼をすぐ反対側に返すことを忘れないだろう。その側に、すぐ真近に、高妻山がスックと立っているからである。スックという形容がそのままあてはまる気高いピナクルである。」
日本百名山(深田久弥)
その高妻山に今月14日、登ってきた。
高妻山登山レポート
高妻山登山は通常、戸隠牧場にある登山口から登り始める。牧場には広く開放的な素晴らしいキャンプ場があるので、前泊としてキャンプもおすすめである。
牧場入口から登山口までは広い牧場の敷地内を歩く。要所要所には案内板がある。
ここからは放牧エリア。入口の地面には白い粉のようなものがある。恐らく消毒薬だと思われる。
放牧エリアは開放的でとても気持ちの良い区間。山頂まで行くことができない家族連れの方などは、この辺りを散策するだけでも楽しいと思う。
登山道入口にあるゲート。牧場エリアが終わり、ここから山道となる。
ゲートからの登山道は、「一不動」と呼ばれるポイントの手前あたりまで沢沿いに作られている。水の流れを見ながらの山歩きは清涼感があって気持ちがいい。
途中には倒木も。写真では伝わりづらいかもしれないが、倒れた姿に迫力と自然の営みを感じる。
ゲートから50分ほど登ると岩肌を流れるようにおちる「滑滝(なめたき)」が現れる。高さはおよそ10メートルほどだろうか。
高妻山登山コースには2ヶ所の難所がある。いずれも登山道入口のゲートから一不動へ行く途中にあり、鎖が設置されている。
滑滝はそのうちのひとつである。下から見ると右側に鎖があるのでそこを登る。この日、岩肌は濡れていたものの、小さく硬い突起があるためにそれほど足場に不安は感じなかった。
滑滝から10分ほど歩くと、2つ目の難所「帯岩」が現れる。帯岩は大きな岩盤であり、登山道はそれを横切るように作られている。
帯岩から5分も登らない場所に「氷清水」と呼ばれる水場がある。高妻山登山で唯一の給水地点だ。その名の通りとても冷たく、そして美味しい名水である。
朝、登山届を出した際に年配の山岳警備隊の方と少し話をしたのだが、その方が氷清水の味を絶賛していた。なんでもこの水を沸かして飲むコーヒーが最高に美味いそうである。
水筒の水をここで全て入れ替えるのもいいかもしれない。
滑滝からおよそ40分、登山道入口のゲートから約1時間半ほど歩けば「一不動」に着く。
一不動には避難小屋があるので、万が一の時には安心である。
高妻山は日本百名山の中でも1日の歩行時間が長い山だと言われている。もし、明るいうちに下山ができない場合はここで一夜を明かして翌朝下山することも考えたい。
ただ、避難小屋は基本的には緊急時のために設けられているものである。登山届を出した時に話をした山岳警備隊の方が言うには、最近、登山の計画段階で一不動の避難小屋に泊まること前提にしている登山者が増えているという。
それに伴い、避難小屋付近で用を足す人が多くなり困っているとのことであった。避難小屋の下に位置する氷清水の水質に悪影響を与える可能性もあるかもしれないので、避難小屋は緊急時以外に極力使用しないでほしいという話をしていた。
一不動から高妻山を目指す。山頂までのコースタイムはおよそ2時間30分強である。
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