山登りのススメ Vol.10 ~モンブラン~

sKenji

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モンブラン
モンブラン

8年以上前の夏のことである。

会社を辞めて世界一周旅行をしていた僕は、フランス・シャモニーを訪れた。
シャモニーに立ち寄った理由はモンブラン登山だった。

モンブランはイタリアとフランスの国境に位置しており、ヨーロッパアルプス最高峰の山である。標高は4810m。モンブランとはフランス語で「白い山」を意味する。その名の通り、山頂は夏でも雪に覆われている。

モンブラン登山の基点となる街、シャモニーは、イタリアのクールマイヨールからモンブラントンネルを通ってフランスに抜けたところにある。
僕はクールマイヨールでトレッキングを楽しんだ後に、フランスに入国した。

登山準備

フランス・シャモニーの街並み
フランス・シャモニーの街並み

シャモニーに到着して、すぐにでも登り始めたかったのだが、天気が良くなかったために、天候の回復を待つことにする。泊まっていた宿の主人とネットの情報を元に登山のタイミングを見計らう。

待っている間、シャモニー近郊のトレッキングルートを歩いて体を慣らすとともに、登山用品のレンタルを探してまわった。テントは、日本から持ってきていたのだが、モンブラン登山に必需品のピッケル、アイゼン、ヘルメット、一部ウェア類はなかった。そのため、足りないものを街の登山用品店で借りた。ウェア類のレンタルはしていなかったので、グローブなどを購入した。寝袋は、持っていた夏用の薄いものを使用することにする。

1日目

シャモニーに到着して3日目、悪かった天候が2、3日、安定しそうとのことだった。その日の朝、モンブラン登山を決断し、シャモニーを出発する。

モンブラン登山のルートはいくつかある。
僕は、その中で一番メジャーなルートであるグーテ小屋を経由してボス山稜から登るノーマルルートで登頂を目指すことにした。天候さえよければ2日間で登ることができる。

予定では1日目、グーテ小屋(※)でキャンプをして、2日目早朝、山頂にアタックをかけ、その日のうちに下山する予定だ。

登山1日目、登山口までバス、ロープウェー、登山電車を乗り継いでいく。
登山鉄道駅の二・デーグルから2時間ほど歩くとテートルース小屋に着く。この間は特に危険な箇所はない。

テートルース小屋からキャンプ地であるグーテ小屋までは、急な斜面を3時間ほど歩く。落石の危険が高く、死者もでている区間だった。このグーテ小屋の直下の急登は、通常なら普通に登ることができるのだが、この日は前日まで降っていた雪が積もっており、アイゼンを装着して登った。

グーテ小屋直下の急登。
グーテ小屋直下の急登。
グーテ小屋への登りの途中。麓の町が小さく見える。
グーテ小屋への登りの途中。麓の町が小さく見える。

グーテ小屋に着くと辺りは深い雪に覆われていた。標高はおよそ3800m。小屋より上は完全な雪山だった。

小屋から少し行ったところに、ピッケルで1mほど雪を掘ってテントを張る。設営を終えると、高度順応もかねて日没まで付近の雪上を散歩する。

この日の夕焼けは、これまで見てきたなかでも、最も美しいものの一つだった。眼下には雲海がまさに白い海のように広がっていた。雲は絹のように繊細であり、落日の光を受けて黄金色の輝きを放っている。暮れゆくモンブランは幻想的だった。

晩御飯を食べ、夜9時すぎに寝袋に入る。夏用の寝袋だったために、ブランケットと持ってきたありったけの服を着込んで寝た。

グーテ小屋付近のキャンプ地
グーテ小屋付近のキャンプ地
1mほど雪を掘ってテント設営する。
1mほど雪を掘ってテント設営する。
キャンプ地から撮影。
キャンプ地から撮影。
テント設営後に付近を散歩する。
テント設営後に付近を散歩する。
グーテ小屋付近にて。小屋より上は、深い雪に覆われている。
グーテ小屋付近にて。小屋より上は、深い雪に覆われている。
稜線とバックの雲海が美しい。
稜線とバックの雲海が美しい。

2日目

モンブラン登山者の多くは、日付が変わって間もない夜中の2時位から、山頂を目指して登り始める。天候が安定している午前中に登頂し、下山するためだ。

僕も午前2時に起きたのだが、なかなか動き出きだすことができなかった。寒さのために眠りが浅かったことに加え、あまりの寒さで動く気力がわかなかった。結局、早く起きたにも関わらず、テントを出発したのは3:30になってしまった。

歩き始めた時、あたりはまだ暗かった。ヘッドランプのわずかな灯りを頼りに登る。クレバスに転落する恐れがあるので、先行した登山者が雪の上に残したトレースを慎重にたどって登る。

そのうち少しずつ地平線が明るみ始めてくると、夜の闇と同化していた雪山が藍色に染まりだした。その濃い青は時間が経つにつれ、徐々に薄くなっていく。そして、太陽が顔を出すと一気に朱色へと変わり、輝き始めた。

予定では、山頂からのご来光を拝むはずだったのだが、出発が遅くなったこともあり、日の出は、山頂手前の稜線上を登っている時だった。

ヘッドランプの灯りを頼りに歩く。
ヘッドランプの灯りを頼りに歩く。
日の出は稜線上を歩いているときだった。
日の出は稜線上を歩いているときだった。
朝日に照らし出される稜線を登っていく。
朝日に照らし出される稜線を登っていく。

モンブラン山頂直前にナイフリッジがある。これを渡りきると頂上なのだが、一歩足を踏み外したら最期だけに緊張感が高まる。この日は風がほとんどなかったからよかったものの、強い風が吹いていたら歩くことはできなかっただろう。最後の難所を渡り終えると、そこがヨーロッパアルプス最高地点だ。

頂上の天気は快晴だった。 360度のパノラマが広がり、モンテローザやマッターホーンなどヨーロッパアルプスの名峰の山々を見ることができた。達成感については言うまでもない。登るかどうか迷いもあったが、登って良かったとこの時、心から思った。

山頂で40分ほど景色を楽しんだ後、登ってきた道を戻り、設営していたテントに帰った。そして、昼食を取ると、テントをたたんで撤収し、再びシャモニーに下山した。

<終わり>

山頂手前のナイフリッジ。落ちたら最期。
山頂手前のナイフリッジ。落ちたら最期。
モンブラン山頂より。
モンブラン山頂より。
山頂からはヨーロッパアルプスの峰々を見ることができる。
山頂からはヨーロッパアルプスの峰々を見ることができる。
夕焼け。グーテ小屋付近のキャンプ地にて。
夕焼け。グーテ小屋付近のキャンプ地にて。

(※)2013年夏に新しいグーテ小屋が旧グーテ小屋から少し歩いたところに作られています。新グーテ小屋は、近代的で規模も大きく、まるでホテルのような快適な山小屋だそうです。宿泊は予約制で、旧グーテ小屋では黙認されていたテント設営が、新グーテ小屋では禁止されているとのことです。

一般的なコースタイム

「二・デーグル」
  →→→[徒歩:約2時間]→→→
「テートルース小屋」
  →→→[徒歩:約3時間]→→→
「グーテ小屋]
→→→[徒歩:約4時間]→→→
「ヴァロ避難小屋」
  →→→[徒歩:約2時間] →→→
「モンブラン山頂]
→→→[徒歩:約6時間30分] →→→
「二・デーグル」

※基本的な冬山登山のスキルが必要です。
※2013年夏にグーテ小屋が新しくなったのに伴い、これまで黙認されていた
 キャンプが禁止となったようです。
※ コースタイムは標準的な時間です。所要時間は人によって大きく変わります。
 時間はあくまでも目安として、余裕をもった登山計画を立てて下さい。

ヨーロッパアルプス最高峰・モンブラン

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Text & Photo:sKenji

最終更新:

コメント(2

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  • O

    onagawa986

    お正月休みにマンガの岳を一気読みした影響もあり(笑)雪山の危険と隣り合わせの何物にも代えられない美しい景色…!記事を読みながら自分がその場にいるような気持ちにさせて頂きました、ありがとうございます!

    • S

      sKenji

      コメントありがとうございます。モンブランに限らず登山中は、苦しいことが多いのですが、美しい山の景色を見てしまうと、また登りたくなってしまいます。今後も、写真を織り交ぜながら書いていきたいと思いますのでよろしくお願いします。読んでくださり、ありがとうございました!