先日の土曜日、神奈川県の丹沢山に登って自宅に帰り、何気なくテレビをつけて自分の目を疑った。御嶽山が噴火したことをニュースが報じていた。
御嶽山の噴火から時間が経過するにつれて、被害の状況、生還者の声、噴火時の映像、捜索隊のコメントなどが次々と伝えられている。御嶽山にいた方が遭遇した状況を耳にすると、いたたまれないものがある。おそらく誰もが予想していなかったであろうと思われる今回の突発的な噴火。改めて火山活動が活発な国に住んでいることを思い知らされている。もう一度、火山噴火による災害のことについて考えてみたいと思う。
世界有数の火山大国・日本
現在、世界には活火山が1500あると言われている。そのうち日本には110が存在している。実に世界の7%もの活火山が日本にあるということになる。ちなみに火山の区分について、以前は「死火山」、「休火山」といった定義があった。しかし、1979年、御嶽山が有史以来初めて噴火したことがきっかけとなり、これらの区分けは現在使われなくなっている。
今回、被害にあった方の多くは登山者や山小屋関係者の方だと考えられている。しかし、火山噴火による危険性はなにも登山者だけにあるとはかぎらない。日本に110ある活火山のうち、噴火の恐れが比較的高く、特に警戒しているものが47カ所ある。この中には車で訪れることができ、一般の観光客であふれる草津白根山や阿蘇山などの人気観光地のほか、箱根や富士山など人の居住地に近い場所もある。火山災害に対する備えや知識は、震災や台風同様に重要であると考えられるのではないだろうか。
火山噴火に対するわずかな知識で、一命を取り留めることができるかもしれない
火山噴火によってもたらされる災害の数は多い。それらの危険性を知っておくことにより、命が救われる可能性もある。以前、火山噴火によって発生する災害について調べたことをこの機会にもう一度、自分なりにポイントを絞って確認したいと思う。
■噴石
御嶽山から避難された登山者の話を伝えるニュースを見ていると、噴石による被害が大きいようである。火山の噴火では大小さまざまな大きさの石が放出され、なかには数十センチ以上のものが飛ぶこともある。今回の御嶽山の噴火でも頭部のほか、身体に直撃して骨折や大量出血などにつながっているケースが多く報じられている。いったい、どの程度の大きさの噴石が致命傷になりうるか調べてみると、下記のような記事があった。
石が4~5センチより大きいと意識を失う大きなけがをするおそれがある。頭など打ち所が悪かったり出血したりすれば、心肺停止にいたる
噴石による被害は通常、火口から4㎞以内に集中することが多いと言われているものの、小さいものだと10㎞以上噴石が飛んだ例も過去にはある。
御嶽山で山小屋に避難された登山者が、屋根を突き破って石が落ちて来たという証言をしていることから、可能であれば噴火が発生した際にはコンクリートの建物に避難することが望ましい。建物が近くにない場合、御嶽山では大きな岩陰に隠れて助かったという方もいた。ヘルメットがあると小さな噴石に対して頭部を保護することができる。しかし、ヘルメットがない場合、持っていたザックで頭を覆って一命をとりとめた登山者の事例が参考になるかもしれない。
■溶岩流と火砕流(火砕サージ)について
以前、火山噴火と聞いてまず思い浮かび、恐ろしいと思うものに溶岩があった。しかし、調べてみると溶岩が流れ下るスピードは考えていたよりもゆっくりとしており、歩いて逃げることができる場合が多いそうである。それよりもはるかに恐ろしいのが「火砕流(火砕サージ)」と言われている。火砕流(火砕サージ)は、ときに数百度にもなる高温の火山灰やガスなどが、数十キロ~百数十キロといった高速で山体を下る現象であり、大きな人的被害をもたらす火山災害の1つである。
非常に速いスピードで流れ下るために、火口から近い場所にいる場合は、発生してから逃げることはほぼ無理だと言われている。
火砕流には主に2つのタイプがある。「噴煙柱崩壊型」と呼ばれる、火口から上空に噴出された火砕物とガスとの混合物が失速して落下してくることにより発生するものと、「溶岩崩落型」と呼ばれる、急斜面上に噴出した溶岩のドームが崩壊して発生するものである。平成2年に噴火活動を始めた雲仙普賢岳の火砕流は、溶岩崩落型であり、噴火から火砕流発生までしばらく時間があった。
今回の御嶽山の噴火でも火砕流が発生したとみられているものの、火砕流としては比較的低温のものであったみられている。無事下山された登山者の方の話だと、高熱の熱風を感じ、口をタオルや手などで覆ってやり過ごし、一命を取り留めた方もいたようである。
1902年、西インド諸島の島で火山が噴火した際には麓の町を火砕流が襲い、3万人以上の方が亡くなっている。このとき、一説によると襲われた市内にいたにも関わらず助かった人が二名いたという。彼らはいずれも地下にいたそうである。
■火山性ガス
噴火の際には有毒な火山性ガスが放出される。ガスは空気より重いことが多く、山の斜面などに沿って流れ、窪地などにたまることもある。ガスについては噴火時はもちろんであるが、噴火していない場合でも、場所によっては発生しているので注意が必要である。
■山体崩壊・岩屑(がんせつ)なだれ
噴火などにより、山の一部が崩壊することがある。崩れた山体は岩屑なだれとなって高速で流れ下るケースがあり、これに巻き込まれる恐れがある。状況によって異なるが、初期の速さ秒速150m、約30kmの距離を下った例もある。
■津波
盲点なのが噴火による津波である。火山が噴火した際、大規模な岩屑なだれが海や湖に流れ込んで津波が発生する場合がある。ちなみに、国内最悪の火山災害は津波であり、1792年、雲仙普賢岳北東部が崩壊した際に有明海で高さ23mの津波が発生して約15,000人の方が亡くなっている。
日本にある自然の湖は、火山噴火などにより川がせきとめられてできたものが少なくない。湖の近くにいる場合、津波の発生も頭の片隅に入れておきたい。
■融雪型火山泥流
冬の富士山など、雪が積もっている火山で噴火が発生すると、融けた雪が土砂や岩石と共に高速で流れ下ることがある。速度は60㎞以上になることもあり、大規模災害を引き起こすこともある。
■火山灰
一見さらさらとした砂のように見える火山灰であるが、実は固く、とげのようなものであるという。そのため気管支や肺の健康被害をもたらす恐れがあるので、マスクなどを着用して避難したほうがよい。
火山噴火発生直後でなくても、災害の危険性はある
火山による災害は噴火直後だけではなく、その後もしばらく発生する可能性がある。これらの災害は火山灰がもたらすものが多いようで、主なものとして次のものがある。
■土石流
雨が降ると山の斜面に積もった火山灰が流されて、土石流が発生することがある。噴火活動がおさまったとしても、火山灰が積もった斜面やその周辺では注意が必要である。火山灰による土石流は現在、御嶽山でも懸念されている。
■家屋の倒壊
火山灰が積もった家屋は倒壊する恐れがある。1平方メートルの面積に1センチの火山灰が積もるとその重さは10~17キログラムになるという。さらに雨が降って水分を含むと重さは1.5倍になる。特に木造建築の家屋は注意が必要で、30センチほど積もると倒壊する可能性があるという。
■交通傷害
火山灰がわずか数ミリ積もっただけでも、車のスリップやエンジン故障を引き起こす。火山灰が積もった際には、車の運転を控えると共に、歩行の際にも注意が必要である。ちなみに航空機なども影響を受け、降灰により交通機能がマヒすることが指摘されている。
火山災害に対する備えの必要性
繰り返しになるけれども、日本は火山の多さで5本の指に入る世界有数の火山大国である。火山災害に対しての備えや基礎知識は地震、台風などともに欠かすことができないものといえる。火山災害の種類、危険性を少し知っているだけで助かる命があるかもしれない。
参考WEBサイト
Text & Photo:sKenji
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