今月6日、富士山火山防災対策協議会が、富士山噴火に備えた初の広域避難計画案をまとめた。富士山火山防災対策協議会は、平成24年に、国、静岡・山梨・神奈川3県、専門家などが中心になって設立され、広域避難計画案の策定に向けて作業を進めていた。
広域避難計画について
今回策定された広域避難計画案は、過去3,200 年間で複数の実績があり、発生頻度が高い下記8つの火山現象が対象となっている。
■富士山火山広域避難計画対象の火山現象
・火口形成
・火砕流(火砕サージ)
・大きな噴石
・溶岩流
・融雪型火山泥流
・降灰後土石流
・降灰
・小さな噴石
これらの火山現象について、避難計画案では「影響想定範囲」と「避難対象エリア」を示している。計画案は、基本的に富士山ハザードマップ検討委員会による報告書(平成16年6月)を元に策定されているが、一部、国土交通省富士砂防事務所などのシュミレーション結果も考慮されている。
「岩屑なだれ」、「空振」、「水蒸気爆発」、「火山ガス」など、上記8つ以外の火山現象については、現時点で影響範囲を示すことが困難であるなどの理由により、広域避難計画には盛り込まれていない。具体的な場所や影響範囲、発生の予測等が明らかになった時点で対象の是非についての検討が行われるという。
今回策定された「富士山火山広域避難計画(案)」のうち、主に「影響想定範囲」に対象を絞って、一部紹介したいと思う。
特に該当範囲に住んでいる方や、訪れる予定がある方は、避難計画案について、目を通しておかれることをおすすめします。
火口形成、火砕流、大きな噴石、溶岩流による避難について
火口形成、火砕流、大きな噴石、溶岩流の避難対象エリアは、火口の位置と関係が深いために、これらを重ねた火山防災マップが作られている。
避難対象エリアは、避難地域を火口からの距離に伴う到達予想時間で、下記5エリアに分けられている。
■溶岩流等避難対象エリアの設定について
第1次避難対象エリア: 想定火口範囲
第2次避難対象エリア: 火砕流、大きな噴石、溶岩流(3時間以内)到達範囲
第3次避難対象エリア: 溶岩流(3時間-24 時間)到達範囲
第4次A避難対象エリア: 溶岩流(24 時間-7日間)到達範囲
第4次B避難対象エリア: 溶岩流(7日間-約40 日間)到達範囲
5つのエリアは、下記の通りとなっている。なお、地図中ある「ライン1~17」は、溶岩の流出ラインを示している。溶岩流は火口のできる位置によって異なるために、想定される溶岩流を17ラインに分けて避難の対象を推定している。
上記、避難対象の各エリアについて、「一般住民」、「避難行動要支援者」、「観光客・登山者」で避難対象者を区分し、さらに「噴火前」、「噴火開始直後」、「噴火開始後」で避難開始時期が設定されている。
避難開始時期の詳細については、富士山火山広域避難計画(案)の第2章 広域避難計画「表6 富士山火山広域避難の流れ」に記載がある。
溶岩流の流出について、主に静岡県富士市の方向に溶岩が流れるライン5のケースでは、最大で13万1000人の避難が必要になるという。複数ライン同時の避難も想定されており、3ライン同時避難の場合は、ライン4、5、6で23万8000人、ライン5、6、7で23万4000人の避難が見込まれている。
なお、溶岩流よりも恐ろしいのが、火砕流(火砕サージ)である。一般的に溶岩の流れはそれほど速くはなく、歩いて避難できると言われている。それに対して、火砕流(火砕サージ)は、時速百数十キロにも達し、発生してからの避難では手遅れだという。
融雪型火山泥流による避難ついて
雪が積もっている時期に噴火した場合、熱によって溶けた大量の水が土砂をともって流れる「融雪型火山泥流」の発生が想定されている。
今回の避難計画では、融雪型火山泥流についても避難の対象エリアと人口が初めて示されており、静岡、山梨両県の渓流沿いなどに住む8万2千人が避難の必要があるという。
避難計画では、山腹に平均50cm 積もった雪が火砕流などの熱で融けたと仮定したシミュレーションが実施され、「影響想定範囲」は、下記のようになっている。
なお、この地図はシミュレーションにより、流速1m/s 以上または水深が20cm 以上で泥流が流れる可能性がある範囲と、融雪型火山泥流が停止する斜面勾配2°の範囲を合わせて設定されている。
融雪型火山泥流は時速60キロを超える場合もあり、「噴火前」、「噴火開始直後」の段階で避難を呼びかけるという。
降灰による避難について
今回の策定された広域避難計画では、降灰による避難基準を初めて設けている。協議会では、30センチ以上の降灰が想定される地域を避難対象としている。対象者は、神奈川県で40万6千人、静岡県で6万2千人、山梨県で1千人となる。火山灰を30センチとしたのは、それ以上積もると、降雨時に水分を吸収した重みで木造住宅が倒壊する恐れがあるという理由である。
また、火山灰は家屋倒壊だけではなく、吸うと呼吸器などを痛める健康被害が出るため、降灰による堆積深が30センチ以下の地域では、屋内退避が求められる。
火山灰の堆積が2センチ以上30センチ未満の地域の人口は3県で838万人と推計されている。
以下、降灰による「影響想定範囲」である。
「軽いもの」と思われがちな火山灰だが、実は結構「重いもの」らしい。火山灰が1㎝積もると乾いた状態で1㎡あたり10~17㎏の重量となり、さらに雨が降って濡れると約1.5倍の重さになるという。
降灰が確認された地域では、自宅や最寄りの建物の屋内に避難し、そのうち30センチ以上の降灰が見込まれるエリアでは、鉄筋コンクリートなどの堅牢な建物に避難する必要がある。
降灰後土石流による避難について
土石流について、広域避難計画では下記のように説明している。
土石流とは、斜面や渓流の土砂が水と一体となって流下する現象であり、平常時でも降雨等に伴い発生する危険性がある。しかし、降灰や火砕流で流下した火山灰等が山の斜面に堆積した後に起きる土石流(以下、「降灰後土石流」という。)は、通常より弱い雨で発生し、広い範囲に流出するおそれがある。
なお、降灰後だけでなく、降灰中や噴火の終息後長期間に渡って起きることや、火山現象により上流の土地が荒廃した場合も発生することがあるので注意する。
降灰後土石流の「影響想定範囲」は、「富士山ハザードマップ検討委員会報告書」による土石流可能性マップの範囲としており、下記のようになっている。
「避難対象エリア」については、この影響想定範囲内に位置する土石流危険渓流の土石流危険区域と一部その下流域、または土砂災害防止法に基づき指定された土砂災害警戒区域の範囲となっている。
なお、噴火により火山灰が1cm 以上堆積した場合は、事前に設定した避難対象エリアを速やかに見直すことになっている。
小さな噴石について
小さな噴石とは、風の影響を受ける小さな岩塊、火山レキ及び密度が低い軽石であり、風の影響を受け火口から10km 以上遠方まで流されて降下する場合もあるという。
密度、粒径に幅があり終端速度が大きく変わるため、身体への危険度の基準を設定することが困難であることから、現段階において避難対象エリアは設定しないと広域避難計画には書かれているが、1cm以上の小さな噴石の降下が想定される「影響想定範囲」については下記の範囲としている。
最終更新:
Rinoue125R
ほんの数十年前までは観光地でもある富士山に避難想定はなじまないとされていたことを思えば、格段の進歩でしょう。しかし、被害拡大の時間軸に関する表記があいまいなど、作業に参加した火山学者の間では「物足りない」との意見もあるようです。
Rinoue125R
たとえば噴火の初期にいきなり火砕サージが発生して半径数十キロが一瞬にして壊滅という確率は低いにしても、可能性はゼロではありません。どんな現象が起きたときにどう逃げるか、さらに切迫感のある避難計画が求められると思います。
sKenji
今回、避難計画案が作られましたが、今後、見直しが入って、修正されていくことと思います。今後も富士山の火山災害についても注視していきたいと思います。