活発な火山活動が続いている神奈川県の箱根山。先日、噴火時の避難行動を調べている時に箱根町の火山防災マップがいつ作られ、どれほどの規模の噴火を想定しているのか気になりました。
今日は箱根町の火山防災マップの作成基準などを調べ、火山との付き合い方について考えたいと思います。
箱根町の火山防災マップ、いつ作られてどれほどの規模の噴火を想定しているのか
独立行政法人 防災科学技術研究所(NIED)が公開している「火山ハザードマップデータベース」によると、箱根町の火山防災マップは最初、平成16年3月に作られています。その後、平成21年3月に修正が加えられて現在公表されているものになっています。
火山防災マップには大きな噴石が落下する可能性のある範囲などの情報が記載されています。この影響範囲はいったいどの程度の規模の噴火を想定しているのか気になりました。
箱根町のWEBサイトによると、火山防災マップは2000年前にあったと考えられている水蒸気噴火と同規模のものが大涌谷、早雲山、湯ノ花沢(芦之湯)で発生した場合を想定して作られているそうです。
水蒸気噴火とは、マグマの熱で温められた地下水が気化して大量の水蒸気が発生し、地中の圧力が高まって爆発する現象のことでマグマは噴出しません。
地質調査総合センターのWEBサイトによると、箱根山での水蒸気噴火は過去3000年間で5回発生しています。
直近3回(※先日の発生したと言われる水蒸気噴火は除く)は西暦1150~1300年位にかけてあり、この時は火山灰や軽石などの降下火砕物のみが周辺に降り注いでます。
箱根町の火山防災マップを作成する際の基準となった2000年前の噴火では、降下火砕物に加え、小規模な火砕サージや土石流も発生したと考えられています。
マグマ噴火に対しての警戒について
公表されている箱根町の火山防災マップで留意しておいた方がいいと思うのが、作成の基となった2000年前の水蒸気噴火よりも大きな噴火が発生する可能性です。
箱根山では約3200年ほど前にマグマ噴火が起こっています。その時は溶岩ドームが形成され、崩落することによって火砕流も発生しています。
溶岩ドームとは地表に出たマグマが冷えて固まったものです。このドームがマグマの上昇などの圧力によって崩壊した際、溜まっていた数百度に達する高温の火山性のガスが一気に噴き出し、周りの岩石なども巻き込んで斜面を猛スピードで下るのが火砕流です。
一説によると、箱根山では約3000年に1回程度の割合でマグマ噴火が起こると言われています。直近の1万年間では約8000、5700、3200年前の計3回の発生が確認されており、いつ再びマグマ噴火が起きても不思議ではないとも言われています。
そのため、火山防災マップに記載されている立入禁止区域の外にいるからといって、必ずしも安全であると信じこむことは危険かもしれません。
火山との付き合い方について
火山の噴火に対して、絶対に安全といえる境界線の設定が難しい上に、いたるところに火山がある日本では注意を払いながら火山と共に暮らしていく必要があると思います。
火山とどうやって付き合っていくのか。その考え方のひとつとして、平成11年に開かれた地震・火山の理解と防災教育に関するシンポジウムにおける、静岡大学防災総合センターの小山真人教授(副センター長)の講演内容の一部をご紹介します。
富士山も,箱根山も,伊豆東部火山群も,まかりまちがえば,たいへんな災害を静岡県や近県にあたえかねない火山です.しかし,最初に述べたように,人の一生にくらべれば,火山の噴火はたいへん「まれ」なできごとです.可能性の小さいものをむやみに心配するほど,私たちはヒマではありません.人生には,もっともっとほかに心配しなければいけないことが山ほどあります.
しかしながら,火山への万一の「備え」を欠いてしまうことも,また愚かなことです.とくに町づくりや防災計画には,めったに起きない地震への備えと同様に,火山災害への備えが必須です.観光への影響を心配するがゆえに,火山への備えに対して知らんぷりを決めこむ自治体が多いことは,なげかわしいことです.
観光と災害への備えとを両立させる理想的な方法は,火山を今よりもっともっと積極的に前面に出して観光に利用していくこと以外にはないと思います.おだやかな状態の火山は,私たちにたくさんの恵みをあたえてくれています.温泉は火山の熱が作ったものですし,富士山や大室山の美しい形も,伊豆高原のなだらな台地も,浄蓮(じょうれん)の滝や河津七滝(かわづななだる)などの名瀑も,すべて火山が作ったものです.このような火山のいとなみを,もっと積極的に宣伝し,自然の中に火山の造形を発見する「火山ウォッチング」を始めてみませんか.このような火山の楽しみ方が,フランスなどではごくふつうにおこなわれています.自然のいとなみを理解し,自然をいつくしむことをつうじて,自然のもつ危険性も無意識のうちに正しく認識できていることが,思わぬ災害を防ぐためにはもっとも大切なことなのです.
シンポジウムは16年前に開催されたものであり、活動が高まっている今では実感として「まれ」な出来事と思うことはできないかもしれませんが、噴火への備えをしつつ、火山がもたらしてくれる恵みを活かすという考え方には共感を覚えます。
火山に対しての備えと恩恵の享受について
現在の箱根は「おだやかな状態」とは言えません。危険エリアと安全エリアの線引きには難しいものがあります。
しかし、箱根山及びその周辺は火山特有の豊かな自然が残されている素敵な場所です。火山防災マップが2000年前の水蒸気噴火を想定したものであることを頭の片隅に置きつつ、気象庁が発表している火山活動の状況などの情報にも注意をして、箱根山がもたらしてくれる恩恵を享受したいと思います。
箱根連山
参考WEBサイト
Text & Photo:sKenji
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