昨年、周囲にある神社、湖等も含めて世界文化遺産に登録された富士山。
しかし、富士山の世界遺産登録は「条件付きの登録」とも一部では指摘されている。
昨年６月、世界文化遺産に登録された富士山。それから半年以上が過ぎたが、地元関係者は対応策に追われている。環境対策の宿題が課されており、怠ると登録が取り消される可能性もあるからだ。
（中略）
昨年４月30日にイコモスが富士山の世界文化遺産登録を適当と勧告したため、世界遺産登録が事実上決まり、日本中が沸き立った。その陰で他の世界遺産にはない注文がついた。富士山の様々な環境問題を指摘し、2016年２月１日までに「保全状況報告書」という環境保全策を提出せよというのだ。
富士山のように保全状況報告書の提出を求められるのは異例。文化庁世界文化遺産室は「世界遺産登録後に何らかの問題が生じて、報告書を求められることはあるが、富士山のように登録時点で報告書を求められたケースは他に知らない。半ば、条件付き登録のようなもの」と説明する。
世界遺産は保全状況について通常6年毎に報告することになっている。しかし、富士山は登録から3年後に状況を報告することが求められている。これは異例のことであるという。
そのような状況下、今朝、次のようなニュースが報じられていた。
環境や景観の保全が求められている世界文化遺産の富士山で、登山道のトイレのない場所に多数の汚物が放置されていることが分かりました。
（中略）
富士山の夏山シーズンの終了を受けて静岡県が登山道を調査したところ、須走ルートの５合目から９００メートルほど登った場所に１０メートル四方にわたって多数の汚物が放置されていました。富士山の登山道には複数のトイレが設置されていますが、５合目と新６合目の間にはないということです。また、山頂の東側にも複数の汚物があるということです。
ゴミ問題などについて話には聞いていたものの、排泄物がこれほど散乱しているとは思わなかった。上記リンク先の動画を見る限りでは、所々に木々がはえている程度の分解能力が低い場所に排泄物が放置されているようである。木々が生い茂る森とは異なり、草木や昆虫、微生物などが少ないために分解に時間を要する。さらに年間で30万人前後の登山者が訪れるからには世界遺産でなくとも、より厳格な環境保全が求められる。
世界遺産の理念は「保護・保全」
世界遺産は世界遺産条約に基づいて登録される。同条約は価値ある貴重な自然や遺跡を保護し、未来へと継承するためにある。
同条約の採択のきっかけは、エジプトのアブ・シンベル神殿などの遺跡の保存活動にある。1960年代、エジプトではナイル川にアスワンハイダムを建設する計画がもちあがった。同ダムが完成するとナイル川流域にあるアブ・シンベル神殿などの遺跡群は水没することになる。そのため、遺跡を移築、保存する運動がおこり、それをきっかけに1972年、「世界遺産条約」が採択されている。
アブ・シンベル神殿
以前、アブ・シンベル神殿に行ったことがある。遺跡は、丘のような巨大ながけの側面に造られており、入り口には強大な4体の古代エジプトの王の座像があった。内部には彫刻やレリーフがあり、年に二回だけ入口から太陽の光が差し込み一番奥の部屋にある4体の像を照らすように設計されている。荘厳且つ、古代エジプト人の英知を痛感させられた遺跡であった。まさに人類の遺産にふさわしいもので、遺跡が保存され自分の目で見ることができたことに感謝した。
現在の富士山は、世界遺産条約の理念からずれているかもしれない
富士山が世界遺産に登録された時、個人的に素直に嬉しかった。しかし、登録されたことにより、多く人が押し寄せて逆に環境が悪化するようでは、世界遺産条約の理念に反してしまうことになる。
登録された際の経済波及効果や、国際的機関お墨付きの観光地という点ばかりに目がいってしまっていたが、世界遺産条約は本来、貴重な自然や遺跡を守るためにある。
富士山を愛し、清掃活動などを行っている著名なアルピニストは環境問題の観点から、「富士山は世界遺産に登録されなかったほうがいいのかもしれない」という趣旨のことを述べていた。
富士山山腹の所々に排泄物が残されている今朝にニュースを見て、以前から指摘され続けてきたことではあるけれど、同山の環境問題の深刻さを痛感し、世界遺産条約の理念を改めて思いだしている。
世界文化遺産・富士山は巨大なトイレでもなければゴミ箱でもなく、保護して本来の姿のまま、後世へ継承していく貴重な遺産である。2016年、「世界文化遺産リストに名を連ねるにふさわしい」とユネスコが判断する富士山であってほしい。
参考WEBサイト
Text：sKenji
最終更新：