今年1月、宮城県が津波対策ガイドラインを改正しています。ガイドラインには、津波から避難する上で、宮城県だけに限定されない、有用な情報が書かれています。
これまでも、津波の避難場所について調べてきましたが、今回は、宮城県の新しい津波対策ガイドラインから、津波の避難場所、避難経路の選定条件を中心に、ご紹介したいと思います。
前編では、津波の避難場所の選定条件について書きました。後編では、避難可能距離と避難経路を取り上げてみたいと思います。
避難可能距離について
避難することができる距離は、避難場所を考える上で大変重要になってきます。
宮城県の津波対策ガイドラインには、避難可能距離の目安について、具体的な計算方法と数字が示されているので、ご紹介したいと思います。以下、避難可能距離について引用します。
■津波到達予想時間と避難速度等に基づき,避難開始から津波到達予想時間まで
の間に,避難目標地点や津波避難ビル等までの避難可能距離(範囲)を設定
する。
避難可能距離=避難速度×避難可能時間(津波到達予想時間-避難開始時間)
①以下の諸数値を参考に,各地域の実状に応じて設定する。
②徒歩による避難速度は,1.0m/秒を目安とする。ただし,社会福祉施設,
病院など,高齢者,身体障害者,幼児,重病人等への配慮が必要な施設が
ある場合は,さらに歩行速度が低下(0.5m/秒)することを考慮する。
③自動車による避難速度は,3.0m/秒(時速約11km/h)とする。
④徒歩での避難の限界距離は,最長でも500mを目安とする。
⑤避難開始時間は,すぐに避難できない状況を考慮し,15分程度を目安
とする。
まず、ガイドラインでは、避難する際の歩行速度を1.0m/秒、避難行動が困難な方については0.5m/秒としています。歩行スピードは年齢等によって異なってきますが、ガイドラインでは、東日本大震災時の下記のデータも考慮した結果、大きな違いはなく、細かく設定を変えてまでの精度を要さないということで、上記の歩行速度としています。
確かに結果を見ると、ガイドラインに書かれているように、大きな差はないと言えるかもしれませんが、データはあくまでも平均であり、平均値と歩行速度が大きく異なる方は、ご自身の歩く速さで計算された方がいいと思います。
「避難の限界距離として、500mを目安にする」とありますが、これは、あくまでも宮城県のものです。避難可能距離の計算自体は、他の地域でも適用可能だと思われますが、東海地方など、早く津波の到達が予想される場所では、これよりも短い距離になります。
宮城県では、避難開始までの時間を15分として計算しています。この数字は、震災時、津波に対する避難意識の高いリアス部において「津波は必ず来ると思った」方が避難を開始している時間が平均14分だったことを踏まえているそうです。
津波到達予想時間が短い東海地方などでは、揺れの収束時間も考えると、避難可能距離が「0m」ということにもなりかねません。就寝中、入浴中など、すぐに避難ができない状況もありえますが、地震の揺れが収まったと判断したら、「一秒でも早く避難を開始しなければ間に合わない」という意識が重要かと思います。
津波到達予想時間は、ハザードマップ等に記載されていますが、この到達時間以外のケースでも、検討しておいた方がいいかと思います。
避難可能距離は道のりとしての距離であり、直線距離ではありません。インターネット上の各種地図で道のり検索はできますが、わからない場合は、ガイドラインの避難困難区域を抽出する際に用いられている、直線距離の1.5倍を道のりとする考え方も一つの目安になるかもしれません。
そのほか、ガイドラインでは、注意点として次のことを指摘しています。
・気象条件や夜間などで、避難可能距離は、異なってきます。
・避難速度や避難可能距離、避難開始時間等は、避難訓練を行って確認・検証し、
見直すことが重要です。
避難経路等について
避難場所を決めたらならば、そこまでの経路も大切です。ガイドラインには、避難経路の設定について、次のように書かれており、参考になると思います。
■避難目標地点まで最も短時間で,かつ安全に到達できる経路,避難経路を
指定・設定する。
①避難路,避難経路の幅員はできる限り広く,かつ迂回路等が確保されている
道路を選定する。
②海岸沿いや河川沿いの道路はできる限り避ける。
③津波の進行方向と同方向へ避難する道路を選定する。
④気象条件や地震による影響により通行が困難になる道路はできる限り
避ける。
上記の設定条件の解説が、次のように書かれています。
避難路,避難経路は,避難目標地点まで最も短時間で到達できる経路を指定・設定しますが,安全性の高い経路を定めることが重要であり,次の点に留意します。
・家屋の倒壊等により避難できないことも考えられることから,避難路,
避難経路の幅員はできる限り広く,かつ迂回路等が確保されていること。
・津波が予測よりも早く到達する場合があること,河川を遡上すること等が
考えられることから,海岸沿いや河川沿いの道路等を指定・設定することは
できる限り避ける。
・津波の進行方向と同方向へ避難する道路を指定・設定する(海岸方向に高台等
がある場合であっても,できる限り海岸方向への避難は避ける)。
・気象条件や地震による沿道建築物の倒壊,落橋,土砂災害,液状化等の影響
により通行が困難になる避難路,避難経路はできる限り避ける。
なお,避難目標地点は,避難者が避難対象地域外へ避難する際にとりあえず
津波から命を守るために避難の目標とする地点であり,市町が指定する安全な
指定緊急避難場所や指定避難所へ向かって更に避難する方法や経路も考えて
おく必要があります。
このほかにも、「複数の迂回路があること」や、津波に襲われることも想定して、「途中に津波避難ビルがある経路を設定すること」が、望ましいということです。
津波避難ビルの位置は、ハザードマップ等に記載されており、該当する建物には右のような標識があります。
避難場所までの経路を検討した結果、仮に避難条件に適合した場所であったとしても、避難経路に懸念点があるならば、別の場所を検討した方がいいかもしれません。
情報収集をして、防災意識向上を。
津波からの避難場所、経路の選定する上で、様々な観点や条件があるかと思います。そのなかでも、今回、ご紹介した津波対策ガイドラインの選定条件は、具体的で有用なものの一つだと思います。
地震発生時の避難場所、経路の決定は、時として難しいものがありますが、一秒でも早い避難行動につなげるためにも、ガイドラインに書かれていることを元に事前に検討しておきたいところです。特に、津波に対しての避難時間があまりない地域では、事前の検討が生死を別けることが十分に考えられます。
今回は、宮城県の津波対策ガイドラインの情報でしたが、今後も有益だと思う情報を収集して、避難計画を改善していくと同時に、防災意識の向上にもつなげていきたいと思います。
参考WEBサイト
Text:sKenji
最終更新: