1月下旬、宮城県の津波対策ガイドラインが改正されたことをお伝えしました。その新しいガイドラインが、2月28日、宮城県公式WEBサイトで公表されました。
新ガイドラインの特徴は、状況によって自動車での避難を一部容認することが盛り込まれている点です。今回は、実際に公表された、新しい津波対策ガイドラインから、自動車避難について書かれた部分を、一部とりあげてみます。
自動車による避難の問題点
これまでの津波対策ガイドラインでは、原則、自動車での避難は禁止されていました。自動車避難の問題点について、新ガイドラインには以下のように書かれています。
・地震による道路等の損傷や液状化、信号の滅灯、踏切の遮断機の停止、沿道の
建物や電柱の倒壊、落下物等により円滑な避難ができないおそれがあること。
・多くの避難者が自動車等を利用した場合、渋滞や交通事故等が発生し、
津波に巻き込まれる可能性があるほか、避難支援活動に支障を及ぼす
おそれがあること。
・道路の幅員、車のすれ違いや方向転換の実施可否、交通量の多い幹線道路等
との交差、避難した車両の駐車場所等のボトルネックとなる区間等が
存在すること。
・避難支援活動するための自動車の通行の妨げとなるおそれがあること。
・自動車の利用が徒歩による避難者の円滑な避難を妨げるおそれがあること。
実際に、東日本大震災で自動車避難をされた方に対して「当時の道路状況で困ったこと」を聞いたアンケート結果を見ると、渋滞で身動き取れなかったことや、歩行者と車が混在していたことの危険性が示されています。
新ガイドラインでの避難方法
危険性が指摘されている自動車避難ですが、東日本大震災では、平野部で59%、リアス部で51%の方が避難の手段として利用しており、車で避難したからこそ助かった方もいたようです。そのため、新ガイドラインでは、避難方法について次のよう修正されています。
■原則徒歩とし、「徒歩による避難が可能な方は、自動車で避難しないこと」を
徹底する。
■自動車で避難せざるを得ない避難者(避難行動要支援者、自動車運転中の者
など)がいることも想定し、地域の実情に応じた対策を検討し講じるよう
努める。
これまでと同様に「原則、徒歩での避難」を徹底するとありますが、旧ガイドラインでは、曖昧かつ記述がほとんどなかった自動車での避難について、新ガイドラインでは、状況に応じて一部容認し、多くの記載が見られます。
自動車で避難する際の注意点について
自動車で避難する際の経路について、新ガイドラインでは、次の点に留意し、地域の実情に応じて検討するよう書かれています
・踏切の通過を伴う道路は原則避けること。
・河川橋梁については、地震により橋梁とアプローチの盛土部分で段差が生じる
等して、通行に支障が生じることも想定されることから、極力回避すること。
・平常時からの自動車の交通量や、自動車での避難者数が多く見込まれる道路に
おいては、自動車を路側に置いても緊急車両が通行可能な幅員とし、徒歩に
よる避難者の安全性を確保するため、歩車分離などを検討する必要がある
こと。
・交差点については、円滑な交通処理を可能とするよう検討する必要がある
こと。
また、一般社団法人 消防科学総合センターが公表してる防災関係資料には、「自動車で避難する場合の心得」として、次のように書かれています。
1) 地震で停電すれば、交差点で信号が点かず、渋滞する。
渋滞に巻き込まれたら車を放置して徒歩で避難する。放置して逃げれば、
他の車のドライバーも徒歩で避難せざるを得なくなる。
2) 地震で停電すれば鉄道の遮断機は下りたままになる。
そのままでは通行できない。地元に遮断機があれば、自治体を通して事前に
鉄道会社と協議し、その場合の対処方法を取り決めておく。
3) 山道に避難するときは、後に続く車が多数あると考えて、入り口から数キロ
先まで車を止めたり、駐車しない。また、入り口にはそのことを促す道路標識
が必要である。
4) 知らない土地を運転中に避難勧告や指示が出た場合は、車を捨てて徒歩で
住民と一緒に避難する。
5) 車を運転中は、携帯電話をオンにしておき、エリアメールを受信できる
ようにしておく。
6) 高架高速道路走行中に津波警報が発令された地域に差し掛かった場合は、
インターチェンジから一般道路に下りてはいけない。サービスエリアで
待機する。
最初、車で避難を開始しても、状況によっては、徒歩での避難に切り替える必要がでてくるかもしれません。その際は、緊急車両等の通行の妨げとならないよう配慮して車を駐車し、ドアはロックをせずに、エンジンキーは付けたままにして避難をします。
津波からの避難計画について
状況に応じて、一部、自動車での避難も容認した今回の新ガイドラインですが、原則は徒歩での避難を求めています。津波からの避難方法について、車で逃げたからこそ助かった方がいた一方、避難行動要支援者、長距離移動が必要な方など、車でしか避難ができない方も、渋滞に巻き込まれて犠牲になったことを考えると、避難方法の選択の難しさを感じてしまいます。
できることならば、車で避難したいという気持ちと、全ての人が車で逃げた場合、多くの地域では渋滞が発生する現実。車でしか避難できない方がいることも念頭に入れて、どのような手段で逃げるか、災害が発生する前に検討しておくことが必要かと思います。
東日本大震災では、車の中から遺体で発見されて方が約700名いるそうです。
今後、実際の避難訓練やシミュレーションを行い、適切な自動車避難について検討を重ねることにより、ひとりでも多くの方が助かる避難計画が策定されることを願います。
参考WEBサイト
Text:sKenji
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