ははじま丸でホエールウォッチング【旅レポ】

tanoshimasan

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進行方向左向け左

父島と母島を結ぶははじま丸。“はは丸”、もしくは“ホエールライナー”という愛称も。

 「はは丸に乗ったら左の方向を向いてるといいよ」 小笠原滞在中、宿泊していた「農園ペンション・トムソーヤー」の主・トムさんがそんなことを言う。“はは丸”とは小笠原での愛称で、正式名称は“ははじま丸”。ここ父島とお隣の母島を結ぶ唯一のフェリーである。(ちなみに、本土と父島を結ぶおがさわら丸の通称は“おが丸”)

 母島は父島の南方およそ50kmの距離にある。おがさわら丸の運航予定に合わせ、2日に1往復、3日で2往復、1日1往復のいづれかで両島を結ぶのだが、この50kmの距離が「ホエールライン」と呼ばれるほどのクジラ天国。「12月から5月の間はザトウクジラが回遊しており、ブロウ(潮吹き)やブリーチ(ジャンプ)が見られる。」(観光ガイド参照)・・・らしい。 トムさんが言うには、進行方向左手を眺めていると、クジラに出会えるらしいのだ。

 しかし、半信半疑である。何しろ「小笠原はクジラが見れる」なんてうたい文句に釣られて来たが、父島に滞在した5日間の間、僕も友人も、海を眺めたところでクジラを確認できなかったのだ。島民や常連客に言わせれば「クジラなんていくらでも見れるよ」とのことだが、当時初めて訪れた小笠原では、その話もチンプンカンプンだ。おそらくクジラを見るには何らかのコツが必要で、僕はまだそのコツを掴めていないのではないか。そんな気がしていた。 まして、なぜこの“360度ほぼ海”のなか、あえて進行方向の左を向かなきゃいけないのか。クジラだって広々と回遊するだろうに。謎は深まるばかりである。

 7時30分、はは丸は父島・二見港を出港した。朝も早いなか、見送ってくれたトムさんにお礼を告げ、母島を目指す。トムさんが見えなくなると、僕等はデッキへ移動した。

ははじま丸出港。ささやかなお見送り風景が嬉しい。

見えた気がする・・・

 「流れ星が流れるから空を見上げてごらんと言われても、いつ星が流れるかも分からない夜空を延々と見続けるのは疲れる。」

 僕は微妙な例えで友達に愚痴をこぼした。クジラだっていつ現れるかもわからないのに、海を漠然と眺めていてもどこか不安になるのだ。 と言うのも、さっきから“なんだかそれっぽいもの”は見えているのだ。飛沫が上がれば「あれは潮を吹いているのではないか」と思うし、黒っぽい影が見えれば「クジラの尾ひれかも・・・」なんて思ってしまう。しかし、確証がない。「それがクジラだよ」と教えてくれる人がいないと、わからないのだ。

 僕は何度か、クジラが見えた気がしていたが、「流れ星が流れた気がする」程度のもので、自信が無かった。見間違いかも知れない。だからこそ、横にいる友人が大人しい以上、クジラと断定できないのだ。実際にこの目で見て、高揚するテンションを友人と共有できてこそ、初めてクジラが見えたことになるのだ。たぶん。

クジラだ!

 ところが、そんな不安は唐突に解消された。父島を離れて1時間ほどしたころ、母島方面からバシャーンバシャーンと音が聴こえる。クジラだ!

「おおおおおおおおーーーーーーーーー!!」 僕らはやっと出会えたクジラに歓声を上げた。

 ところが、想像していたものと違って、どうも様子がおかしい。ブリーチ(ジャンプ)をするわけでもなく、潜る時に一瞬尾ひれが見えるそれ(フルーク)とも違う。尾ひれを何度も海に叩きつけ、暴れているかのようだ。一種のトランス状態にも見えた。 たまたま同じデッキにいたおっちゃんが、「あれはペンダクルスラップだよ」と教えてくれる。なんでも雄のクジラが雌をめぐって競い合うとき、他の雄クジラに対して威嚇する行動だそうで、滅多に見れないらしい。なんかよくわかんないけど、ラッキー!

 さらにおっちゃんは「あれで体長12mくらいはあるね」と教えてくれた。見えているだけでせいぜい3~4mはあるが、さらにでかいようだ。それでも広大な海の中では小さく見えるから不思議である。見渡す限り水平線が広がるこの海で、地球のダイナミズムを感じずにいられない。はは丸から見えている間、雄クジラの彼はずっとペンダクルスラップを繰り返していた。

ペンダクルスラップを見せてくれたザトウクジラ。

 プスン!

「あ、これがブロウ(潮吹き=呼吸)か。ってことは・・・やっぱり潜った。」 さっきの雄クジラを皮切りに、クジラたちが次から次へと現れては楽しませてくれた。だんだん行動パターンも分かってくる。だいたい数回ブロウを繰り返すと、そのまま潜ってしまう。15~40秒の間に数回ブロウし、一度潜ってしまえば5~15分は潜りっぱなしだそうだ。

 僕は確信した。さっきまでの「見えた気がする」は、ほぼ全て錯覚だったんだ。誰も見ていないなかで、「流れ星が流れた!」なんて言わない方がいい。 うんうん、とりあえず左の方向を向いていてよかった。トムさん、ありがとう。

 はは丸は間もなく母島に着いた。

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