パッションの受粉は手作業で(母島)【旅レポ】

tanoshimasan

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「そんなに面白いなら見てく?」

 母島を散策していると、どうしても南国特有の果物や野菜の農園に目が行ってしまう。グヮバやバナナ程度なら、あちらこちらと自生しているのだが、農園であれば、栽培にひと手間ふた手間と必要なものも多く、珍しさと見ごたえがある。なので、バイクで島中を走っていると、つい農園を覗き込んでしまうのだ。

 ある日、いつもと同じように都道を脇に逸れ、農園の作物を覗いていた。すると、さすがにヘルメットを被ったまま覗き込む若い男が変に珍しく映ったのだろうか。農園の主・Mさんに声を掛けられた。 「どうしたの?」

 「あ、いや、覗いていただけです。スミマセン・・・。」という気分だったが、普通にしていても怪しいので、「こういう島でしか見られない、珍しい野菜とか果物が好きなんです。」と正直に言った。 「若い男が、変わってるねェ。」

とMさん。はい、知ってます。 「わかった。そんなに面白いならさ、今パッションフルーツやってんだけど見てく?」

 「良いんですか!」 即答で農園にお邪魔した。ちょうどパッションフルーツの受粉作業を行うと言うので、見せてもらうことに。

手作業受粉

 農園にはパッションフルーツがずらーっと並んでいた。パッションフルーツ用の骨組みに蔦が絡み付き、上からびっしりとパッションフルーツが成っているのだ。この日は3月上旬。見たところまだ緑色で収穫までやや遠いものがほとんど。一方で実が全くなっておらず、花がぽつぽつ咲いている区画があった。 「こっちこっち!」

 Mさんが呼ぶ。 「こうやって、おしべの花粉を手につけて、めしべに直接つけてあげな。」

 パッションフルーツの花はめしべに対しておしべが反り返っているので、そのままでは受粉が成立しない。虫の気まぐれで受粉することも可能らしいが、それではアテにならないそうだ。そのため、手でおしべ(花粉)をめしべに付けて受粉させてやることで、安定して実が成るという。パッションフルーツが小笠原名物となった今、こうした地道な作業が求められるというのはごもっとも。手作業の受粉を体験させてもらった。

 ひとしきり受粉が済んだ。もちろんこの時点では受粉がうまくいっているかはわからない。ただ、この手間な作業が重要であることには間違いないそうだ。Mさんいわく、パッションフルーツの花は朝には咲いて夜には枯れる「一日花」。中でも受粉に適したタイミングがあるらしく、夕方にさしかかるとたとえまだ花が開いていても、めしべが乾いて受粉に至る確率はぐんと減るらしい。

 そう思うと、大量に花が咲いた日は大変だ。「どれだけ体調が悪かろうが、意地でも受粉作業をしなくてはならない。」とMさん。今回の受粉作業は少量だったそうだが、こういう目に見えない苦労話を伺ってしまうと、やはり頭が下がる。 実が成り、紫色に変色し、自然落下すれば出荷するのだという。その間、およそ2週間。もちろん開花や結実には時間差があるので、1か月近くは忙しいのではないだろうか。小笠原のお土産の中でも、特に売り切れ必至な商品だけに、その重みを実感。内地ではまず経験できることではないだけに、なんだか感動した。

 「いい経験したでしょ。」 僕の感動を察知してか、Mさんが声を掛けてくれた。「はい!ありがとうございます。」と、御礼する。ただ「小笠原の名産だから」と買って食べるよりも、ずいぶん美味しい思いをしたと思う。すると、

 「まぁこんなおしべとめしべをくっつけるなんて作業、植物相手じゃないとできないからね。」 唐突にそんなことを言って、Mさんはにやりと笑った。

おまけ 農園フォト

(左・キダチトウガラシ。小笠原では「島唐辛子」「硫黄島唐辛子」と呼ばれる。小粒ながらハバネロより辛い。激辛。)(中・モンステラ。名前もいびつだし、形もいびつだが、収穫して放置しておくと皮が自然にめくれて食べられる。小笠原でもあまり見かけない。)

(右・かたつむり。指定外来種のアフリカマイマイではないが、島には100種近くかたつむりがいるので、詳しくはわからない。)

 
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