北港で雷に追われる
島の遊歩道を歩いていて雨に見舞われることは珍しくない。島の天気は変わりやすいからだ。僕は歩くときはいつもレインスーツ(キャンプ用のカッパ)を常備しているので、雨に降られる前提の準備をしてから歩く。だからこそ、「目的地への道中、引き返す」なんてことは基本的にはあり得ないのだ。
北港からの景色
大沢海岸へ行こう
母島の北港で日向ぼっこをしていた。集落から離れたこの場所は原付に乗っても30分ほどかかる。周辺にはトイレこそあるが民家はひとつも無い。そのうえ定期船・おがさわら丸は出航中で観光客も少ない※。つまり、僕以外誰もいない。 僕は母島を訪れると、「一日は北港でだらだら過ごす」という工程を取り入れていた。近ごろは人気に火が付いた小笠原だが、観光客の多くは父島で過ごす。さらに南へ離れた母島はどちらかというと玄人好み。ツアーやガイドは少なく、基本的には静かだ。よく「母島は昔の父島の風景」と言われるように、観光地化が進んだ父島と比べれば何もない。そこにあるのは小笠原の原風景なのだ。
そして北港は、そんな母島の中でも、人が集まらない場所。しかし、海は煌めき、固有種のハハジマメグロがチュピピと鳴く。そんな場所で僕は羽を伸ばしているワケだ。なんと贅沢なことだろうか。 それでも、一人でだらだらしていると退屈してくるので、歩こうと決めた。ちょうど北港から遊歩道で30分くらいの場所に大沢海岸という場所がある。ここに行ってみようと決めた。大沢海岸は北港のさらに北東にある、地図によっては載ってない、母島の中でもマイナーな場所。何度か母島を訪れている僕も未だ行ったことがない。ただ、自分だけの贅沢な空間を求めていた僕は、「ここでのんびりしてみよう」という気にさせられた。
北港近辺も戦前は集落があり、約600人の人々が暮らしていたという。当時は郵便局や工場もあったそうで、今も小学校跡が辛うじて残っている。その当時の人たちも、この遊歩道を歩いて大沢海岸へ遊びに行ったりしたのだろうか。現在ではあまり人が訪れない場所も、昔はそれなりに遊び場だったのだろうと勝手に想像する。午後2時、進むたびにクモの巣が体にあたる以上、おそらく、この日大沢海岸へ行くのは僕が最初だ。
大沢海岸へ向け、ごちゃごちゃした遊歩道を歩く
ちょっと待て、この雷近づいてきてないか!?
こうして考え事をしながら歩いていたワケだが、ふと異変に気付いた。肌寒い。そう思ったのも束の間、パラパラと雨が降り出してきた。いや、パラパラじゃない。10秒もしないうちにドザアアアアアア!突然の本降りだ。 「あー降ってきたか。」
僕はレインスーツを取り出し、羽織る。クモの巣が水滴で輝き始める。どこからともなくカタツムリが登場する。 島の天気はすぐ荒れる。逆を言えば、すぐに晴れる。「せっかくここまで来たし」と大沢海岸を目指す。ところが雨足はさらに強まるばかり。いよいよ穏やかじゃなくなってきた。「大沢海岸に行ってのんびりする」なんて当初の目的は忘れ、「とりあえずここまで来たら大沢海岸を見て帰る」という意地に変わっていた。サンダル足でさらに歩みを速める。
そこへ突然、雷が光った。ズズゥン。と、ずっしりした音が鳴る。腹の底から響くような重い音だ。また、光る。今度はもう少し軽い音。ダダーン。さらに、光る。何かが弾けるような。スパァーン。土砂降りだ。大沢海岸まで(たぶん)あと少しなのに。 雷鳴は止まない。
ダダーン!ゴロゴロゴログヮシャーン! ちょっと待て、この雷近づいてきてないか!?そう思えるほど、身の危険を感じる音だった。さすがに穏やかじゃない。この島で死ねたら本望だとは思うが、それでも今は死にたくない。もと来た遊歩道を引き返す。ズバァーン!近いっ!
そしてついに、ほど近くに落ちたと思われる稲妻が見えた。 バリバリッ!ツパァーン!
「うぁぁぁっ。」 ゴゴゴ・・・パーーーン!
「・・・・・。」
雨の中、最後に撮った写真。ここから余裕がなくなる。
やっとの思いで北港まで戻る。息が切れ気味だった。気が付けば走っていた。穏やかだと思っていた景色は30分ばかりで表情を一変させたのだ。僕は先ほどの北港の屋根付きベンチで雨宿りし、なんとかやり過ごす。志半ばで諦めてしまったが、今回ばかりは仕方ない。
そう思って納得しかけた矢先、ふと海を見て驚いた。雨雲はこの島にだけ集中し、海は晴れていたのだ。
土砂降り。実は、この島だけ・・・
■大沢海岸へリベンジその半年後、僕は再度母島を訪れ、見事(?)大沢海岸へ到達する。案の定、何もない場所だったが、人が触れない景色はピカイチだった。おそらく南の島の原風景とはこういう景色を指すのだろうと思った。
→大沢海岸(写真)
【母島プロフィール】母島 - ははじま丸で東京南端へ!ハハジマメグロに会いに行こう(東京・小笠原諸島)
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大沢海岸(母島)
(前記事より)半年後、僕は再度母島を訪れ、大沢海岸へ向かった。今度はドラマチックな展開も無く、片道30分を歩いてあっさり到達。何もない海岸だったが、晴れの日の景色は抜群だった。
遊歩道を抜けると・・・
「いかにも!」な、南国風景
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