「お~い!これ、どない思う?」関西弁で投げかけるテーマは毎回さまざま。社会問題、時事ネタ、政治への不信感など、難しい話題をあえてネタにして共感を呼ぶ。赤Tシャツにふんどし姿で沖縄の美しい海を背景にアクロバットするYouTubeチャンネルは今や民放のワイドショーで紹介枠をもつ。なぜYouTubeで発信を始めたのか?毎回どのように企画を考えているのか?教育について思うことなどお聞きしました。
せやろがいおじさん
お笑い芸人1987年、奈良県出身。本名は榎森耕助(えもり・こうすけ)。教員免許取得を目指して沖縄の大学へ進学。友人から誘われて大学時代からお笑いの仕事を始める。沖縄にある芸能事務所オリジン・コーポレーション所属。2007年お笑いコンビ「リップサービス」を結成しツッコミ担当。相棒は沖縄県石垣市出身の金城晋也(きんじょう・しんや)。コンビでTV・ラジオのレギュラーを持ち、県内の賞レースでも四連覇を達成する実力派。2017年9月からYouTubeチャンネル「ワラしがみ」を開設。“せやろがいおじさん”として沖縄の美しい海をバックに笑いを通して社会問題に物申す。登録者数は30万超。Twitterでは29万人以上のフォロワーがいる。(20.6.8現在)2019年10月よりTBS朝の帯番組「グッとラック!」にて金曜レギュラー出演中。赤いふんどし、赤いハチマキがトレードマーク。
笑いにしがみついて始めたYouTube。
――今春コロナ禍となって、さまざまな政府の対応に不安を覚えたのは私だけではないはず。そんな時に友人から「せやろがいおじさん」の動画がシェアされて初めて知りました。言いたいポイント鋭く突いているだけでなく、ゲラゲラ笑えるフレーズが盛り込まれていて、すごい!誰?この人…と辿っていったら既に民放にも出演されていて(笑)。動画のタイトル「ワラしがみ」、榎森さんご自身を「せやろがいおじさん」というネーミングもなんだか笑えますが、この意味とは?
2017年9月からYouTubeで「ワラしがみ」チャンネルをスタートしました。チャンネル名は『笑いに何とかしがみついていきたい』という思いを込めたものです。「そうだろうが!」「せやな!」という意味の「せやろがい」という言葉は、キャッチフレーズにしようと思っていました。YouTubeは若い子が観るもの。30歳過ぎたおじさんのチャンネルなので「おじさん」を付けたという、ただそれだけのことで(笑)。
――そもそもYouTubeを始めたきっかけは何でしたか?
3年前に「せやろがいおじさん」を始める前、お笑いコンビ「リップサービス」で1年くらいYouTubeをやってました。「せやろがいおじさん」を始めて、無名の芸人の戦い方も含め、皆さんが関心のあるテーマで何とか目を引くようなやり方でやらないといけないんだなぁ、と改めて感じました。僕の仕事は、小さな声を大きくするスピーカーの役割みたいなものです。
――かなりの更新頻度で、どんなふうに作っているのか興味をもたれる方も多いのでは?
基本的に毎週金曜日更新。いろんなことがニュースになっていますが自分の中で、これおもしろい言い回しできるかな?このフレーズいいたいな!と思い浮かんだものから企画をするようにしています。ワンフレーズから話を広げていくことが多い。お笑い芸人なので、毎回おもしろいと思ってもらえるようなネタは盛り込んでいます。撮影カメラマン、ドローンカメラマン、YouTubeの配信を手伝ってくれるプロデューサー的な人、そして僕の4名です。台本は僕が書いています。1週間かけて1本制作しています。金曜日に配信なので、土曜日から仕込み、台本を作って、撮影して、編集作業をしてを木曜日まで行ってます。
――勉強もしないとならないでしょうし、アドバイスされる方がいらっしゃるんですか?
特にコロナ関係のニュースは昨日こうだったけれど今日はこう…となることもありますし、専門家の間でも意見が分かれることがあります。かなり情報の取捨選択、自分はどう考えればいいんやろと、難しいタイミングではありますね。アドバイザーは特にいませんが、テレビで放送する際はファクトチェックを受けています。2019年9月の終わりからTBSのワイドショーで「せやろがいおじさん」の動画を紹介してもらっています。テレビを観ている層と、ネットをみている層は若干違うので、ネットを観ていない層にも情報を届けられたかな?と思います。時間帯によっても違いがあります。テレビもネットも、こちらが意図したことと異なる受けとめ方をされることはありますね。
身体を動かすのが好きなお調子者の小学生。
――今は沖縄で活動されてらっしゃいますが、ご出身は奈良県ですね。小学校時代はどんなことが好きでしたか?習い事とか、夢はお持ちで?
お調子者でワイワイ言ってる子でした。身体を動かすのも好きで体育が得意で、テレビゲームばかりやってました。習い事は、幼稚園の頃に水泳にちょっと行ってみたり、書道をちょっと通ったりはありましたが、ほとんど記憶にない。小学5,6年生でミニバスケットボールをやっていて、小学校の頃は夢とか特に持っていなかったですね。テレビゲームができたら幸せだったので、ゲーム雑誌の攻略班で仕事をしたらゲームをしながらお金をもらえる…なんて甘い考えをもっていました(笑)。
――私立中高一貫校へ進学なさっていますね。勉強は好きでしたか?
地元の私立校へ進学したのは、自発的にというか親の意向で受験。一時期は塾にも通いました。でも、あまり成績自体よくなかった。できたのは国語だけ。受験中はゲーム禁止と言われても、ゲームの隠し場所を探して引っ張り出してゲームする…よくあることだと思いますが、結局勉強している時間よりも、ゲーム機探している時間の方が長くなったり。
――大学は沖縄へ移住なさって進学されましたが、これは何か目指してらした?
国語の教職課程がある大学に進学して教員免許を取るつもりでしたが、そこでお笑いと出会いました。教育実習にも行って、子どもたちと触れ合って改めて教員という仕事はすごいなぁ~と思った一方で、僕の能力的に休みがめちゃくちゃ短い現場で、多感な時期のお子さんと関わっていけるのだろうかと。この仕事難し過ぎるなぁ…と教師になるのは断念しました。
――コロナ禍でこれだけ毎日めまぐるしくさまざまなニュースがある時代もかつてないと思いますが、今関心のあるニュースは何ですか?
公文書管理については厳しくチェックしたほうがいいと思っています。ちゃんと議事録残せ、と言うのは大切ですが、制度自体が今、議事録残さなくてもいいようなものになっていて、その中で法の網の目を潜り抜けて公文書を残さない…ということになっている。国会議員は自分たちの首を、自分たちで縛るような規則を作らないので、「あかんやろ!」というだけでなく、「ここ、あかんやろ!」「ここ、こうせえよ!」と踏み込んだ具体的な議論を喚起していく必要があると思います。
異論への接し方を学ぼう。
――私はもともと政府へ不信感を抱いてますが、コロナ禍でさらに数々の信じがたい事実が露呈されました。こういう国と、どのように対峙すべきでしょうか?
今の風潮的に、自分と違う意見の人は攻撃対象であり、叩く対象。誹謗中傷のターゲットになる。異論への接し方がすごく大事だと思います。これもうちょっとこうしていこうよと改善点をあげたり、批判することもされることも慣れていない。意見と人格が一体化して、意見を否定されると人格を否定されたような感覚になって、議論がエモくなって、攻撃合戦になってしまう。あなたなんでそう思う?オレはこう思うけど?ふーんそういう考えもあるんだ。よっしゃ飯行こ~みたいな感じがいいと思うんですけどね。これからの時代は、目まぐるしく価値観が変わっていくので、今までの成功体験とか固定観念とか一旦捨てて、時代に合わせていくアップデートしていく作業が必要になってくる。年を重ねている人も、これから重ねる人も、自分は今どういう立ち位置にいて、時代は今どうなっているんだろう?というメタ認知能力が必要になってくるんだろうと思います。アップデートしろや!でなく、同じ目線にたってのアップデートを呼び掛けていかないとなりませんね。
――その通りですね。先日、虐待問題についても言及した動画を拝見しました。改めてこうした社会問題は、どうフォローしていけばいいとお考えですか?
虐待した親を責める風潮がありますが、その親を生み出した背景を変えていくことのほうが虐待を減らすためにまず大事なことではないかと思います。皆が、虐待する親を叩くリソースを、皆で背景を考えるリソースにしたらもっと明確になる論点や、必要な受け皿が見えてきたり、今の問題点が浮き彫りになったりするのではないか。動画で主張したかったのはその点です。
自分が子を持つ親と、どう関わっているんだろう?どう温かく関わっていけるんだろう?と考えてみることです。育児放棄を許せないと言っても、上の階の子どもの足音にイラっとしたり、電車にベビーカー持ち込む親に厳しかったり、保育園開設を反対したり。そうやって親を孤立させずに、温かく見守っていこうというところからですね。親を責めると、虐待の自覚ある人は隠そうするので、虐待する親も苦しみを抱えているのかもしれないという社会的な目線になっていけば、自分から自発的にと言えるようになると思うんです。
――ひとり親でも負い目を感じない社会を作っていきたいですね。では、子どもの習い事を考える親へ一言アドバイスをお願いします。
僕、サッカーをやりたいと言って小2頃、クラブに入りましたが2日くらいですぐやめたんです。自分でやるもやめるも、決めるならそれでいいと思う。長く続けて忍耐力を付けさせたいというのも理解はできますが、好きなことに出会っても、その中に嫌のこともある。僕の場合は、バスケは好きでも筋トレやダッシュとかはやりたくなかったです。好きなことで、必要な嫌なことなら僕は頑張れる。そこで忍耐力を付ければいい。やりたくないサッカーの、やりたくないダッシュはただの地獄。やりたくないってことはパッとやめさせて、好きなことを探す時間に使った方がいい。忍耐力は、好きなことの中の嫌なことで養う。僕はそうだったので、それがいいんじゃないかと思います。
――最後に、これからの学校教育の在り方についてせやろがいおじさんの思いをお聞かせください。
学校だけが学びの場ではない。社会的に学歴があったほうが有利なのは間違いないけれど、一方で学歴が身に付けへんところで活躍している人もいっぱいいる。自分を殺して無理をしてまで学歴にしがみつくものではない。もしブラック校則に縛られて自由を奪われている状態の子どもがいたら、子どもにだけいろいろ求めるのは酷です。大人の側が手を差し伸べて、学校だけではない学びの選択肢を提示してあげてほしいです。
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