劇団・子供鉅人の座長として全ての作・演出を行う益山貴司さん。185センチという大柄な体躯と飄々とした雰囲気は大物感漂うユニークさ。12月11日から博品館劇場で公演する「終わらない世界」の作・演出も手掛けられています。6人兄弟の長男として育った子ども時代のお話しをはじめ
今作に込めた思いをお聞きしました。
益山 貴司(ますやま たかし)
劇作家 / 演出家 / 俳優
1982年大阪府生まれ。劇団子供鉅人座長。6人兄弟の長男。同じ劇団子供鉅人に弟の益山寛司、益山U☆Gがいる。次男はアニメーション監督をしている益山亮司。お化けと女の子に怯える幼少期を過ごした後、高校時代より演劇活動を開始し、卒業後、本格的に劇団活動を始める。2005年、劇団子供鉅人を結成。ほぼ全作の作・演出を務める。大阪では10年間 BARを経営し、様々なアーティストやミュージシャンと交流。作風は作品ごとに異なり、静かな会話劇からにぎやかな音楽劇までオールジャンルこなす。一貫しているのは「人間存在の悲しみと可笑しさ」を追求すること。2014年より東京在住。 役者としての出演作に、NODAMAP『ザ・キャラクター』『南へ』『エッグ(再演)』などがある。2019年12月11日から15日に博品館劇場にて舞台「終わらない世界」の作・演出を務める。
「七人の侍」から受けたカルチャーショック。
――プロフィール拝見しますと6人兄弟のご長男ということで。もうそれだけでドラマがいっぱいありそうな予感がしてます。どんなご家族でしたか?
上4人は男で、下2人は妹。女の子がほしいというので5人目産んで、女の子一人じゃかわいそうというのでもう一人(笑)末っ子とは13歳違いです。大阪の森之宮という大阪城の近くの下町で育ちました。次男は一歳違い。たぶん3歳違いの三男、おそらく6歳違いの四男。…年をあんまり覚えていないんですよ。実家はマンションでしたが、その前は文化住宅(アパート)で過ごしていて人口過密状態。だから今でも家に人がいないと寂しい。肩寄せ合って暮らしていた感があるので、劇団をやっているのかな。大家族で育ってきた原風景があるからこそ、ある意味で劇団は疑似家族というか。
――環境の影響大ですね。小さな頃から書いたり、創ったりするのが好きでしたか?
父が映画好きで、しょっちゅう映画館に連れていってもらったり。祖母も芸事が好きで、ちょっとした映画とか舞台に連れて行ってもらうことが多かった。特に映画の影響が強くて、物語を考えたり、人が人を演じたり。そういうことを知らないうち刷り込まれていったように思います。
――どんな映画をご覧になった記憶がありますか?
一番印象に残っているのは「七人の侍」です。小学校低学年の時に、父に夜いきなり「映画観に行くぞ」と声掛けられて。行く行く!と付いていったら、白黒で三時間くらい。そこでうけたカルチャーショック。お客さんは年配の方が多く、子どもは僕しかいなくて。今はなき名画座でのレイトショー。オトナが笑ったりワクワクしている顔をしているのを見たのが、舞台や映画や物語を創ったりする原風景。誰をも童心に返らせて、楽しい気持ちにさせる力がすごいと思いました。
――ご長男の益山さんだけがお父様に連れて行ってもらっていたのですか?
いえ、他の兄弟もです。次男はアニメの監督になりましたし、三男、四男とも一緒の劇団で芝居をやっています。大阪から東京へ5年前移ってまいりました。この間はNHK連続テレビ小説「夏空」に3人兄弟で出演しました。1話には戦争をアニメで表現するシーンがあって、次男が偶然制作していた。益山四兄弟、夏空大集合でした。僕は絵を描いたり、お話を考えたりすることが好きでしたから、中学では映画を撮ったり、高校では演劇部に入ってシナリオを創って演じたり、卒業してオトナになった今も同じようなことを延長している感じですね。
笑いも涙も凝縮した悲喜劇を創っていく。
――ずっと好きな気持ちに火が付いたまま活動してこられて幸せですが、どんなものを創りたいと?
ひとつ作ると、次はこんな作品が作りたい。そしてまたこの次はこうしたいという。欲望の目標がどんどん目の前に。マラソン選手の電信柱みたいに、気が付いたらいつの間にか前に進まざるを得ない状況でした。今回、お芝居を作りませんかという話を頂いた時に、いくつかストックがあって。よく「世界が終わるぞ」的なパニック映画、宇宙人が攻めてくる設定とかありますが、世界が終わらなかった時、人はどうなるんだろう…と。明日終わりますよ!と言われて、終わらなかった時の間抜けさ。僕自身、群像劇が好きなので「終わらなかった」というのに巻き込まれて皆がどんな気持ちを抱くのだろう。どんな物語がうまれるのだろう、ということに興味をもちました。話のストックは日常の中で見つけることが多いです。こういう話があったら、または、こういうシーンがあったらおもしろいな…と。何かしらの体験に基づいて想像力が発動します。
――その想像力の延長にある作りたいものとして、12月公演の「終わらない世界」の見どころは?
今作は「大人の群像劇」です。若者の青春を描くより、酸いも甘いも噛分けたオトナたちの物語が好きでして。オトナの皆さんに観て頂いて、人生の新たな発見をしてもらえたら。見どころのひとつは、1920年代のギャングものをオマージュした劇中劇。そちらもエンターテインメントとして創っていますので楽しんでいただけたらと思います。
――おもしろいですね!益山さんが作るお芝居は悲喜劇が多いと伺いました、それはどういう意味で?
それはざっくり言えば関西人だからです(笑)。笑えないとツライ。同時に涙もろくて情深い。そのミックス。お笑いは笑うだけですが、演劇や物語をつくるということは笑いもあり涙もある人生そのもの。そして、最終的には美しいものを創りたい。
――感情の起伏がないと作品になりませんよね。今回は舞台での作と演出ですが、映画やTVドラマなど映像での表現は、今後の予定ありますか?
映画が好きでしたので映画を撮らずになぜ演劇をしていたのか?考えますと、まずひとつには出たがりなんです。今作は出ませんが、普段は僕も役者として出まくっています。お客さんの反応もダイレクトに返ってくるのも堪えられないおもしろさがあるしスリリングです。とはいえ先日は、MXテレビで前後編40分のドラマを1本撮りました。1日で撮影しなくちゃいけない過酷な現場でしたが12月放映です。ある漫画家が締め切りに追われてコテージで缶詰になって制作しているところをゾンビに襲われる…という物語。これも悲喜劇で、最後は漫画家が希望をもって漫画を描けるか?です。
――映画や本をたくさん栄養にされて創作にあたられていますが、これは絶対すゝめたいという作品は?
いわゆる名作といわれる古典は、日本だけでなく海外のものも観たり読んだりしておいたほうがいい。人間が必ずキャッチできる物語の輝きのようなものは絶対あると思う。どんなに古びていても、受け手の感性によって一瞬でまったく新しいものに生まれ変わってしまうのは素敵なことです。普段生活する人の言葉遣いとか態度とかみても、人って変わらないものなんだと思います。
読書と体験によって、豊かなオトナに。
――6人兄弟が原点として、子ども時代に得意だったことは何でしょう?
ガキ大将でした(笑)。地域の子どもをまとめて秘密基地を作ったり、遊びの段取りを考えたりとか、今やっていることと一緒です。大きな道路の向こう側は団地のエリア、こっちは下町エリアで。下町エリアの子どもたちと、団地エリアの子どもたちを追い回すとか指揮していました。僕は昭和57年生まれですが、下町でしたから町内会で運動会したり、旅行したり、古き良き昭和の一番最後の世代で、群れて遊べた。ある日あっけなく秘密基地が取り壊される日に、たまたま法事で片付けに行けず、ガキ大将はあっさり引退しました。人生で初めて義理と人情に挟まれた瞬間でした。学校では美術と国語と社会が得意でした。理数系はからっきしダメ。得意なことに集中できてよかったですし、親も別に勉強しろとか言わなかったですし結構放任されていました。子ども6人いたからひとり一人に構っていられず、親は育てていくので精一杯。
――まさにこの仕事が天職ですね。ご自身の暮らし方でのこだわりはありますか?
僕は面倒くさがりで未だにガラケーでiPhoneではない。ごちゃごちゃと細かい情報をいちいち入れたくない。スマホを持ってしまったら、街を歩く時間や、電車で移動する時の読書量も減るだろうし、人間観察の時間も奪われてしまう。堕落すると思うので、持たない方がいいと自分に課しています。スマホではないからスケジュールのPDFデータとか見られないのでしょっちゅう叱られますが、すぐ見ないとならないほうがおかしい。すぐ答えをほしがるのがわからない。考えさせてほしいです。
――それはモノづくりには欠かせない軸でしょうね。子育て真っ最中、そしてこれから…という同世代の方へ、子どもの教育についてアドバイスを一言お願いします。
今、この仕事で役立っていることが2つあります。ひとつは、家の中に本棚があったこと。僕はおばあちゃんっ子で、祖母の家に本棚があってそこに世界名作劇場、宝島や漂流記とか子どもの頃に読んでおもしろかった。本を読むことで読解力もつく。仕事で海外に行くことがあるのですが、そこで思うのは、英語ができるから話すのではなくて、言いたいことがあるから伝える。そのためには基本的な国語力がないとダメなんです。僕は英語全然話せないけれど、海外で通訳の人に「益山さんの英会話力は中学生以下ですが、かわいい娘と話すときは、なぜ2時間も話せるんですか?」と聞かれたことがあります。それは口説いているから!動機があれば人は伝えたくなります(笑)。言いたいこと、まとめる力をつけるのは読書だと思います。
――語学力にも読書が力になりますね。役立っていることのもう一つは何でしょうか?
もう一つは、うちの家族は映画館だけでなく、旅行や展覧会などよく連れて行ってもらいました。そういう体験は何よりも大切です。子どもの頃、父親に大阪の西成という地区に社会見学ということで連れて行かれました。ここは東京でいう山谷のようなところ。女の人はひとりで行ってはいけない日本のカルカッタような場所ですが、そこへ子どもたちを連れて行って労働者のおじさんが昼からお酒飲んでワアワア喧嘩していたり、10円20円掛けてトランプ賭博していたり…という姿を見せられたり。こういう体験はすぐにはわからない。オトナになってから人生の厚みになっていく。それは演劇も一緒です。人生に疲れて追い込まれたときに、あの時みたお芝居がよかったからもうちょっと頑張ろう、とか、青い空をまた見たいから気分転換しよう…とか。教育の外側にある、それは情操教育というものかもしれませんが、豊かな世界を見るのは人間にとって必要だと思いますし、将来自分に子どもが生まれたら、そうしてあげたいなと思っています。
編集後記
――ありがとうございました!マイルドなお声で昔のことをはじめ今度の舞台について、楽し気に語ってくださった益山さん。大家族の中でも一番お兄ちゃんでリーダーだったからこそ、大勢が関わる舞台で統率でき、指揮が取れるのでしょう。社会を見るスタンスは人それぞれで角度が変わりますが、大家族という一つの社会で発揮してきた力をこれからますます創作にぶつけてほしい!と応援しています。お芝居が早く観たいです。
2019年11月取材・文/マザール あべみちこ
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このページは株式会社ジェーピーツーワンが運営する「子供の習い事.net 『シリーズこの人に聞く!第167回』」から転載しています。
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