【シリーズ・この人に聞く!第166回】パラリンピック競泳選手 一ノ瀬メイさん

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リオパラリンピックでは惜しくもメダルを逃し、2020年東京パラリンピックでの期待が高まるパラリンピックスイマー、一ノ瀬メイさん。生まれつき右肘から先がない「先天性右前腕欠損」という障がいは体の特徴であり個性の一つと言う。小さな頃から好きなことを次々にチャレンジし、13歳で水泳選手としてアジア大会出場。来年のパラリンピックへ向けて、胸の内をお聞きしました。

一ノ瀬 メイ(いちのせ メイ)

パラリンピック競泳選手。1997年京都府生まれ。障がいは、先天性の右前腕欠損。京都市障がい者スポーツセンターの近所に住んでいたことがきっかけで水泳を始める。2010年アジアパラ競技大会に史上最年少13歳で出場し50m自由形(S9)で銀メダル。リオ2016パラリンピックでは6種目に日本代表として出場。現在200m個人メドレー(SM9)、50m自由形(S9)など5種目の日本記録を持つ。最も得意とする種目は200m個人メドレー。現在、近畿大学職員。

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なんでもやってみれば後悔はしない。

――Instagramでは普段の楽し気な様子も伺えますね。パラリンピック水泳選手として過ごす毎日のこだわりは何ですか?

1歳半でプール体験したメイさん。

1歳半でプール体験したメイさん。

競技生活ができる時間は年齢的に限られています。来年のパラリンピックまで時間が限られていますので、その日その日で最大限のことをするということ。その中で一つひとつの選択、例えば何を食べるとか、選択の一つひとつを大事にしています。こういう考え方自体は競技生活をする、もっと上を目指していく中で身についたものです。練習は1日2時間を2回。1日多い時は10キロ、少なくとも4キロ泳ぎます。大学4年間、今春社会人になってからもこんな感じで日々鍛えています。

――走るだけでも大変な運動量ですが、泳ぐんですもんね。メイさんが水泳を始めたのはとっても小さな頃で?

1歳半からです。家の近くに京都府障がい者スポーツセンターがあって、そこに両親が連れて行ってくれたのがきっかけです。最初はプールへ遊びに行くだけ、それから親子水泳教室、放課後水泳教室とか、そういう教室にどんどん参加して遊泳法を覚えました。小学4年生の時、9歳でイギリスへ1年留学して、イギリスのスイミングクラブで鍛えました。

――水泳がおもしろい!大好き!と思えたのはいつ頃でした?

物心ついた時からプールへ行くのが当たり前だったので生活の一部みたいな感じです。他にも習い事をしていたので、水泳はその中の一つでしたね。5歳から踊るバレエと、9歳でイギリスに引っ越してからそこにタップダンスも加わり、あとは障がい者シンクロ。夏休みはお習字を習っていました。中2で初めて代表選手に選ばれたので、他の習い事は全部辞めて水泳に絞りました。

――習い事はメイさんが全部自分から、これやりたい!おもしろそう!と始めたことですか?

バレエは保育園の仲の良い子が綺麗に開脚するのを見て憧れて自分も!と同じ教室に通い始めました。シンクロは自然とプールに行ってた仲間とグループを作って始めて、中学はいとこのお姉さんが走高跳をしていて憧れて陸上部へ。なので割と自分の意志で決めていたのかな。やらなくて後悔するより、なんでもやってみるのがいいと思います。

選手個人よりスポーツ自体のおもしろさを。

――早くから自分が好きなことを掴めてがんばれたのは素晴らしいなぁと思います。辛くて辞めたい…なんてことはありませんでしたか?

小学4年生の頃、イギリスで障がい学を学ぶ母と。

小学4年生の頃、イギリスで障がい学を学ぶ母と。

小さい頃から水泳があって自分が成立していたので、自分のパーソナリティとして軸である水泳を取り去る、辞めるという気持ちになったことは一度もないんです。今は生活の一部に水泳があるというふうに変わっていますが、小さな頃は腕がなくてからかわれたり、悔しい思いをしても、水泳があるから自信が持てた。そういう自信をくれた、自分の中の大きな水泳という存在を辞めるという考えには一度も至らなかったです。

――「社会が障がいを持たせている。だから社会が変われば障がいもなくなる」・・・と高校生の時伝えて、スピーチ大会で優勝しました。それは体験から発せられた思いでしたか?

自分の体験から伝えたい思いは生まれます。スピーチコンテストの伝え方として、個人モデルと社会モデルを比較して、社会モデルとは社会が作っている。社会を作っているのは一人ひとりの人間。そうであればここにいる皆さんも関係ありますよね?というデリバリーの仕方は、私が生まれてから母が障がい学を学びにイギリスのリーズ大学大学院に通った時に、そこで母が学んできた内容です。個人モデル、社会モデル、という言葉をスピーチでは使いました。

――お母さまも素晴らしい方で、学問の言葉も引用して紡いだスピーチでしたね。では、2020パラリンピックまでにこうなったらいいなぁと思っていることは?

2020年東京パラリンピック開催が決まっていて、オリンピックと同じようにパラリンピックを扱うようになってきた。パラリンピックの認知度をあげるために、選手一人ひとりにフォーカスをして、この選手がやっているスポーツだから応援してくださいね…というメディアのアプローチが主流です。でも長期的に見たら、パラリンピックの強みになることは、パラリンピックのスポーツ種目一つひとつが知られてスポーツとしてのおもしろさが世間に伝わること。それらスポーツにファンがつけば、長期的にみればレガシーになると思います。

――パラリンピックは、オリンピック以上におもしろい種目がたくさんあるようですね。

パラリンピアンはひとり一人乗り越えてきたものもありますし、人生のドラマがあっておもしろいので、そこに目が行くのも当然です。そういう伝え方のほうがドラマチックで簡単ではあると思いますが、その選手もいずれ引退する日が来る。スポーツ自体にファンがつけば新しい選手が出てきたら、その選手にも自然とファンがつく。これから続く選手にとってもいいと思います。まったく同じ体がいない中で、自分の体にだけある強みや特徴をいかして、それぞれ選手が競い合っていくのは、オリンピックにはないおもしろさです。スポーツとしてのおもしろさがこれからどんどん伝わって各スポーツにファンがつけば長期的に応援してもらえる。これから出てくる未来の選手にも何かを残せると思います。

気持ちをゼロにしてモチベーションを保つ。

――パラリンピックとオリンピックの違いを知ると、ますます楽しめそう。今のメイさんの目標とは?

水泳は自信を与えてくれた自分の軸。

水泳は自信を与えてくれた自分の軸。

オリンピックも体格の差はもちろんあって、背が高い人がいれば低い人もいて、筋肉量の違いから泳ぎが違うのを見てもおもしろいのですが、それ以上にパラリンピックは違いがあるので見ていておもしろいと思います。障がいの違いや個性が泳ぎに表れることがおもしろく、苦労している部分でもあります。私はずっと世界で戦いたいというのを目標にやってきて、今はまだ闘うというよりも下から食らいついていく感じなので、「世界で戦う」感覚を味わってみたいというのが強くあります。メダルを取っている他の選手への憧れも強いですし、そういう選手みたいになりたいと思います。

――闘志はいつも同じように持てるものですか?

私の場合は、いろんなフェーズを通り越してきていますが、わかったのはモチベーションは常に高く保てるわけがない。もちろんモチベーションを毎日高く保てたらいいのでしょうけれど、それは自分はできない性格だと気づいたので、モチベーションに頼って自分を奮い立たせるというよりは自分と向き合って、乗り越えないとならないことをクリアにして、その課題を一つひとつこなしていく感じでやっています。

――堅実ですね。

これも近大のスポーツ心理学で学んだことで一番覚えているのですが、「ポジティブ思考がすごくいい。ネガティブはよくない」…とよく言われますが、気持ちをゼロに持っていくことはポジティブに入る。ゼロはマイナスにはなっていないから、気持ちをゼロに持っていくことも前向きな行動の一つ。そういうことを講義で聴いて、ああなるほど、と思ったのです。マイナスからプラスに逆転させようとすることは毎日あると思いますが、それってエネルギーが必要。マイナスをゼロに持っていくなら結構簡単にできる。わざわざプラスに転じてエネルギーを消費するのではなく、ゼロに戻す…というイメージです。

――フラットな地点に戻して何度もトライするわけですね。では小さな子を育てるお母さんお父さんに習い事をするならどんなアドバイスをしてあげますか?

日本は一つのことを続けるのが偉い、という風潮がありますが、私は今でも、水泳でよかったのかな?もし陸上ならもっと向いていたかな?と。何が自分に合っているのかわからない中で結局最初に始めたものを続けている人って多い。あきらめることは悪いことと言われることも多いけれど、あきらめるのも勇気がいるし正しい行動の一つだと最近思います。一つのことを続けることが偉い…にこだわってしまうと、親もキツイのかな。子どもにいろいろさせてあげられるならそれが一番ですが、お金も掛かるし大変です。たまたま始めたものが続けばそれがいいけれど、もし続かないなら合っていなかっただけで、他に何かある。続けさせよう…とするのではなく、「これは合ってなかった。じゃあ次は何が好きなのかな?」という気持ちで、その人その人に合ったものを見つけられる機会が習い事だと思うので。合うものを探すつもりでやってみれば本人も楽しいし、親も楽なのではないでしょうか。

編集後記

――ありがとうございました!容姿もかわいらしく、体を鍛えている分、心も柔らかく。キラキラとした瞳で飾らない言葉でお話ししてくださったメイさん。障がいを誇らしい体の特徴として成長を続けている姿は、たくさんのことを私たちに伝えてくれます。握手した右肘は心を映しているみたいに、あたたかく柔らかでした。2020年パラリンピックでのご活躍を応援しています!

2019年9月取材・文/マザール あべみちこ

活動インフォメーション

私が今日も、泳ぐ理由 (パラスイマー 一ノ瀬メイ)
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金治 直美 著
学研プラス
定価 1,485円(税込)
発売日 2016/8/30

一歳半で水泳を始めた。気がついたら毎日のように泳いでいた。短い右腕は個性なのに、からかう子たちもいて、いつのまにか、水泳は自分を守ってくれる存在になっていた。そうして、十三歳で出場したアジア大会で、新しい大きな世界が見えてきた!私にとって、泳ぐ意味とは―。パラスイマー、一ノ瀬メイ選手の半生と、大きく深い思いをつづった物語。

このページについて

このページは株式会社ジェーピーツーワンが運営する「子供の習い事.net 『シリーズこの人に聞く!第166回』」から転載しています。

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