【シリーズ・この人に聞く!第74回】「3年あれば天才は育つ!」と説く 天才教育コンサルタント 野村るり子さん

kodonara

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野村るり子さんは2013年1月13日にご病気のためご逝去されました。
謹んでご冥福をお祈り致します。この記事は2012年2月に取材致しました。

親も気づかない才能を「見つける」「引き出す」法。「天才に育てる親」と「凡人に育ててしまう親」はここが違う!…と書かれた本の帯に、思わず見入ってしまう人も多いはず。今回ご紹介する野村るり子さんは一般的な教育評論家ではなく、天才児を育成しる天才教育コンサルタントとして活動されています。ご自身のユニークな経歴も、まさに天才的人生。子どもを育てる親は、どうるればその子どもの才能を伸ばせるか。何をすべきでないのか…アドバイス頂きました。

野村 るり子(のむら るりこ)

ペンシルバニア州立大学体育学部卒業。慶應ビジネススクールでMBA取得。フルブライト奨学生として、ハーバード大学教育大学院のEdM(教育学修士)取得。日米双方のオリンピック委員会指定クラブで体操競技指導。 2000年(株)ホープス(www.hopes-net.org)を設立。現在は、企業向け教育コンサルティング、スクール講師派遣、企業への人材派遣、コンテンツ・クリエイティブ(翻訳・書籍原稿作成等)、個人向け教育コンサルティング、セレブリティー支援を展開。主な著書に『英語でプレゼン』、『英語でスピーチ』、『英語でミーティング』(以上、日興企画)。『面白いほど身につく論理力のドリルブック』、『英文履歴書の上手な書き方と実例』(以上、中経出版)など。

溢れるエネルギーをもてあまし15歳で単身渡米

――るり子さんの著書、共感する点が多くておもしろかったです。ご自身の子ども時代4~5歳頃のことをお聞かせ頂けますか。

4~5歳の頃から体を動かすのが大好きなおてんば少女。

4~5歳の頃から体を動かすのが大好きなおてんば少女。

自分の考えがハッキリしていた子どもで自分が納得しないと、大人がこう言っているから…ということでは動かなかった。個人プレーが好きで一人完結型。お友達と一緒の集団行動も苦手で、群れからちょっと離れているのが常でした。体を動かすのがとても好きでしたから、これは後に体操教室で発揮できるようになりました

習い事はとてもたくさん。幼稚園の頃からピアノ、水泳。小学校からはバレエ、ネイティブによる英会話、英語文法、体操教室、日本舞踊、習字。他、中学校では数学の家庭教師についてもらっていました。

――そんなにたくさん!お母様は英語塾を経営されていらしたとか。習い事を多くされていたのはご両親の意向でしたか?

母は帰国子女で英語が得意でしたので寺小屋のような英語塾を開いていました。我が家はけっして裕福ではなかったのですが、習い事に投資したのは、ひとつを継続させるのではなく、たくさんのことを経験させる点にあった。ですから「辞めたい」と言えば、すぐに母は辞めさせてくれました。

ピアノはやりたい意思がまったくなかったので伸びませんでした。習字も書道展で賞を獲ったりするレベルまでいきましたがやはり自分の意思で始めたものではなかったので継続しませんでした。英語は生きる上で必要でしたので、今も仕事で使えていますが英語が好きと思ったことは一度もないのです。その反面、体操競技はやりたくて始めたことでしたから、コーチとして世界選手権に参加するところまで行きました。バレエも好きでしたので大人になった今でも成人コースに通っています。

――習い事をたくさんされていたことと関係ないかもしれませんが、るり子さんは15歳で単身渡米されてずっとアメリカで生活をされてきました。15歳でそこまで決意できたのはなぜなんですか?

15歳の時点で両親の期待通りに生きることが苦痛になってアメリカへ留学しました。母からは「面倒臭い子」「理屈っぽい子」「頭の悪い子」等、言われました。期待に沿わないと「恥ずかしい」と。私にとってはそういう評価は嫌でしたが、それが日本を脱出するきっかけになりました。私は幼稚園受験をしてエスカレータ式で上に行ける学校に通っていましたが、それは親の意向で敷かれたレールを行っていたわけで私自身が選んだことではなかった。ですから自分自身で選んだところに行きたかったのです。そういう気持ちが芽生えたのが小学3~4年生の頃でした。アメリカでのステイ先でキリスト教のファミリーと出会い、そこでは日本で受けたのとはまったく逆の教育を受けました。

――文化や宗教観の違いはいろいろあったと思いますが、ステイ先ファミリーとの出会いが転機となられたのですね。どんな点がそれまで過ごした日本の環境と違っていましたか?

主体的に自分のしたいことを選ばせ、どんな小さなことも褒める。もって生まれたものに感謝する。与えられた環境に感謝する…このような教えでした。15歳で渡米してから根本から教育方針が変わって、まったく異なる人格に生まれ変わりました。プラス思考で前向きですし建設的になりました。アメリカの教育に感謝しています。私が今仕事で生徒に接する時も、「子どものよい面を見つける」「見つけたよい面を褒めて、強みを伸ばす」「建設的に話をする」という大切なポイントがあります。それはすべて15才で渡米したからこそ培うことができた視野であり、教育的土壌です。

平均点を目指すより「長所」を伸ばしなさい

――ご著書「3年あれば天才は育つ!」で書かれている内容は目から鱗なことばかりです。今の日本では「皆一緒に」という変な平等意識があります。天才とそうでない子どもの違いって何でしょう?

アメリカではオリンピック選手の英才教育を学んだ。

アメリカではオリンピック選手の英才教育を学んだ。

一般的にオールマイティにできる子どもは秀才で終わってしまう。何か劣っている子どもは他の部分でカバーしようとして長所がすごく伸びるもの。天才の子どもの多くはどこか欠けているので、抜きんでている才能を伸ばさなかったら生きていけないからです。ピアニストの辻井さんについても拙著で触れていますが視力がない分、聴力が発達しています。私も簡単な暗記モノができなかったりする分、ロジックで皆がスルーするような言葉を聞き洩らさなかったのです。

あのコマネチを金メダリストに育てたベラ・マルタ=カロリー夫妻と。テキサス州エルパソにて

あのコマネチを金メダリストに育てたベラ・マルタ=カロリー夫妻と。テキサス州エルパソにて

例えば、私の場合幼少期習っていたピアノの和音が聴き取れず、どうやって正解にしたかというと先生の肩の位置で「ドミソ」「ドファラ」「シレソ」を見極めるようになりました。音が聴き取れないなら視力で頑張ろうと。それから「ドミソ」に行く前は必ず両肘を上げるとか、「じゃあ行くよ(ドミソ)」「次のは何かな?(ドファラ)」「ちょっと難しいよ(シレソ)」なんて、それぞれにフレーズがつく…という先生独特のクセを見つけて。足りない聴力を観察力で補おうとしたんですね。そういう力を伸ばせるかどうかだと思います。

――持っている力の中で何を伸ばせるか?るり子さんは、ずっとそういうふうに考えてこれまで過ごされてきました?

幼少期は大人相手に生きていくために観察する力が必要でした。小学校6年になって体操を始めて、同じ説明を受けてなぜ自分はできないのに、同年代や自分より年下の他の生徒はできるのだろう?と疑問になって…。そこからは才能がある子どもを見つけ出すことが楽しくて、発掘するために観察力を使うようになりました。そして、指導を受けて私自身ができなくても、能力のある子どもに又伝えするとその子どもができることに指導する喜びを感じるようになりました。ですから模範演技を見せずに、実践できるように言葉で指導するのはとても得意です。

――るり子さんの生徒さんには、どのような教育方針をお持ちですか?

私は日本にいた時、あまり褒められた覚えがないのですが、アメリカでは強い形容のことばが必ずつくような褒め方で褒められました。例えば「上手だね」ではなくて、「とっても上手だね!」とか「頭いいね」ではなく「あなたって天才ね!」など。でも日本では、ずっと「頭が悪い」と言われ続けて育ったので、褒められてもなかなか素直に「ありがとう」とは言えなかったのです。ある時、クラスメートが「それはおかしい!素直にThank youと言うべきだ。私があなたのことをジャッジしているのに、なぜそれを否定するのだ?」と言われまして(笑)。それがあって、褒められたら『ありがとう』と言うべきで否定することはないと思ったんですね。ですから、今、私のもとへ通う生徒のこともスゴク褒めます!

――褒めてもらうことで力も伸びるわけで、自己肯定感を養うことは本当に大切ですね。

私は大学3年生頃に図書館で手にした本で偶然「学習障害」ということばを知りました。しかもIQと障害は何ら関係ないと記されていた。私はIQが低いと思い込んでいましたが幼い頃から暗記ができなかったり、音が聞き分けられなかったりしたのは障害だったのか!そこを取り除いたらすごく天才になれるのではないか?と思いました。ですから今も「この子、ちょっと変なんです」と親御さんが連れてくるお子さんと話してみると、ほぼ全員がキラリと光る才能をもっている。逆にいうと、東大をはじめ優秀な学校に通う子どもは、ならされたコンクリートみたいで何か引っ張り上げるものを探す方が大変なのです。

習い事は子どもの意思でしたいものを選んで

――それでは習い事を考える親へのメッセージをお願いします。

ベラ・マルタ=カロリー夫妻が経営する体操クラブでの指導風景。褒める教育を徹底した。

ベラ・マルタ=カロリー夫妻が経営する体操クラブでの指導風景。褒める教育を徹底した。

はじめは複数の習い事をさせたとしても、その中からいくつか絞り込んでほしいですね。絞り込む際は親が好きなこと、子どもにさせたいことではなく、子ども自身に好きなことを選ばせてほしい。多くて3つ、できたら2つ以内に絞ってそれを継続してほしい。選んだものが何であれ人格は作られます。複数の習い事をパーフェクトにこなしても、それで大成した子どもを私は見たことがありません。例えば就職活動の時にたくさんの習い事をした子どもよりも、少しのことを長く続けてきた子どものほうが厳しいこともしっかりと乗り切っています。

――確かにそうですよね。1週間に何個もかけ持ちして習い事をする子どもは、結局力が分散されてしまうから好きなことが見えにくくなってしまう。

お稽古ごとは長く続けていたら、毎日晴れの日ではない。雨も降れば雪も降る。辛い時があっても、待てば春が来るし陽が当たると、親は伝えてあげてほしい。山登りでも、登っている時は雲が掛かっていてあまり景色がキレイじゃないから降りるということを繰り返していると、ずっと雲の下をジグザグ登ったり降りたりで頂上へ行けないまま。でも、雲の先に素晴らしい景色があって、美しい朝日を見た経験のある子どもは、何度もチャレンジできる。ですから、辛い時に習い事を辞めるのは反対です。辛い時を乗り越えた時に辞めるならば…ですけれど。

――日本の社会は子どもたちへの教育改革以前に、大人の側が相当歪みをもっていますが、るり子さんは今の日本をどのように捉えていらっしゃいますか。

首相が変わり過ぎで世界から見たら異常事態。アメリカは問題解決型社会なので何かあったら話し合いますが、日本は何かあると我慢しなさい、忘れなさい…といういわば問題もみ消し型社会。問題を直視して乗り切ろうとする教育がなされてこなかった。責任とって辞める…という何ら解決にならないことの繰り返しですよね。私は日本が大好きですが、もみ消すエネルギーを違う方向にいかせば、もう少し長く首相続けられるのでは?と思います。

――3.11以降、天才教育コンサルタントとして何か心得ていらっしゃることはありますか?

3.11以前から同じことを言ってきていますが「明日何があるかわからないのだから、今日後悔することを一つでも無くそう」と。何でも先延ばしにしないで今を大切に。彼氏彼女でも、親子でも、夫婦でも、一緒にいたら嫌なことがいっぱいあると思いますが、最後の別れ際は笑顔が難しくても平常心で。それがわかっていても捨て台詞のひとつでも言いたくなるのが人間だとは思いますけれど(笑)。

編集後記

――ありがとうございました!るり子さんとはご縁があって4年前までは大変お世話になっておりました。今回取材を通じて久々にお目に掛かり、お元気そうでお変わりないどころか、ますますパワーアップして天才教育コンサルタントっぷりを発揮されているのを目のあたりにし、たいそう刺激を受けた次第です。物事の捉え方が日本にいながらにして外国人のような存在!実は私も昔からそう言われ続けてきて、顔は外人、心は日本人で生きてきました。お話しを伺えば伺うほど、るり子さんのような指導者とはやく出会っていれば!なんて(笑)。とにかくこの本を読んで、今日から子どもとの向き合い方のヒントにしてみませんか?

取材・文/マザール あべみちこ

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