なぜかよく聞く「息子のために雪かき」という話

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昼になっても雪が降り続け、何度も雪かきをして腰を痛めたという話を聞いて、とある山沿いの町の仮設住宅の雪かきを手伝った。

「今日一日で5回はやったな」自治会長さんは腰に手を当てながらそう言った。

だけど日が落ちてからも雪は降り続ける。駐車場の平面と駐車場から団地へのスロープを中心に、何度も雪をかいた。雪が降り続ける中、汗びっしょりになった。

ひーひー言いながら雪をかいていると、「俺が呼んだんだよ」と自治会長さんの声がした。顔を上げると巨大な除雪車が駐車場に入ってくるところだった。照明の強烈なビームが揺れながら駐車場を照らす。「助かった」と安堵した。

かさ上げ工事の建設現場で見かけるくらい巨きなホイールドーザーだったが、その動きはパワフルかつ機敏。あっというまに駐車場の雪をほぼかき出してくれた。流石だった。何度も「ありがとう」と手を挙げた。自治会長さんも同じだ。何度も何度も手を挙げた。

高いところにある小さな運転席で手を振るオペレーターのカッコイイ余韻を残し、巨大な除雪車は駐車場を後にした。

「言っといてよかったよ。彼らの本来の仕事じゃないんだよ。でも頼めばやってくれる。ありがたいよな」と自治会長さん。

汗まみれの身体が徐々に冷えてきたのを感じつつ、「じゃあ、今日のところは」とクルマに向かいドアを開け暖機していると、ヘッドライトの向こうで自治会長さんがまだ雪をかいている。

本題はここからだ

どうしたのかなとクルマを降りて歩きよっていく途中で気がついた。

「息子さんのクルマのところをかいてるんですね」

「ああ」とちょっとだけ気まずそうな自治会長さん。

「やっさしい!」と口では言うものの、内心ではそこまでやるかと思ってた。

「ちょうど帰ってくる頃だからな、雪くらいどけとかなきゃな」

そうかぁ、と考えた。仮設団地中の雪かきもする。駐車場はもちろん、反対側の業務車が出入りする坂道の雪もかく。だから自分ちの回りの雪かきはちょっとおろそかになるくらいだ。その上で、息子のクルマの駐車スペースの雪かきもする。

何なんだろう。やさし過ぎはしないか。たぶん30代の息子さんにも、ちょっとぐらい雪かきを手伝ってもらってもいいのではないか。

息子にやさしい土地柄なのか

陸前高田のまちなかでも、同じような話を聞いた。アバッセたかたに行くと時々出会う友だちだ。彼女の年齢はたぶん60くらいか。息子さんが2人いる。その彼女がまた、町内の雪かきだとか草取りだとか頑張りすぎるくらいに頑張る人なのだが、やはりこう言うのだ。

「うちは息子が仕事で早いから、4時に起きてお弁当のご飯を炊いてる間に雪かきして、あらかた雪かきが終わったら上の息子にご飯を食べさせて、お弁当を持たせて送り出すの。次の息子は7時くらいに出ればいいから、それまでの間、また雪をかいてご飯を作って…」

「だから疲れちゃうのよね」って、そりゃ疲れるだろう。そもそも、息子さんたちにやさしすぎるんじゃない?

思わずそんな言葉が出てしまったのだが、彼女はまったく動じることなく返してきた。

「だってさ、息子たちあっての私だもん♡」

いやいや、ちょっとくらいは家のことも働かせろよと思ったが、彼女があまりにキッパリ&ラブラブな感じで言うものだから意見なんかできなかった。

彼女だけではない。外の場所でも、仮設住宅に限らず、公営住宅でも、自主再建のお家でも、やっぱり同じような話をよく聞く。

息子の出勤時間が早いから、それに合わせて3時に起きて外を見るの。雪かきしなくてよければもうちょっとだけ寝て、でも4時過ぎには起きてお弁当の支度をするのよ♡

そんな話ばかりだ。はっきりそんなだと聞いたところだけでも6、7軒。小耳に挟んだところまで含めると20軒近く。自立した年齢の息子を持っている家族で、自分が知っているところの割合としては半分どころじゃない。そんないい思いをしているはずの息子の側には残念ながら知り合いがいないので、息子の側からの意見は聞けてはいないのだが、いくらなんでも厚遇し過ぎだろう。

なぜにここまで息子にやさしいのか、その理由はこれからもっと掘り下げて調べていかねばならないところだが、ふと不安げに頭をよぎることがある。それはこの地域の嫁不足問題だ。もしかして実家における過剰な好待遇が、結婚の妨げにたっているのでは、などと考えてしまうのは勘ぐり過ぎか。

しかし、雪かきその他、コミュニティの仕事がジジババ任せになり、その結果コミュニティの維持に支障を来しかねない状況になっているのは間違いない事実だ。

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