その日、集会室所として使われている26号室でイベントが行われている最中に、ドドドッと雪崩のような音がした。「やだねえ、どっかの家の屋根から雪が落ちたかね」そんな会話がほんの一瞬交わされた。
予想されたとおり屋根から雪が落ちたのは、26号からは通りを隔てた44号室。いまは無人となっている棟だ。空き家とはいえ、落ちてきた雪は通路を塞いだ。
イベントが終わり、参加者は三々五々家路に。そして44号の屋根から落ちた雪をかいたのは、自治会長の奥さんと、その通りに暮らす学校の先生の奥さん、そして自分の三人だった。どちらかというと若手、いや仮設団地の住人のほとんどが後期高齢者であることを考えれば間違いなく若手の三人が集まったので、ほどなく通路の雪は消え、安全に歩けるようにはなった。
「人が通っているときに落ちなくてよかった」
雪かきに参じた人は口々にそう言い合った。軽く汗を拭いながら。
でも、その隣の43号の屋根の上にだって、いまにも落ちてきそうな雪のかたまりが残っている。ここだけじゃない。かつて60世帯以上が暮らした仮設団地ではあるが、公務員など用途外利用の住民を含めても今では半分以上が空家だ。
空家の屋根にも雪は降る。空家だからと言って雪が積もらないわけはない。積もった雪はやがて落ちてくる。そして空家の屋根の雪は、人が住んでいる部屋よりも遅れて、或る日突然のように落ちてくる。その後始末をするのは残された住民しかいない。
用途外で入居している人たちには若い人もいるが、昼間は仕事に出ているから仮設の住民はほぼ高齢者。そして、なぜだかしらないが用途外の入居者はあまり協力的ではない。一部には熱心な人もいないではないが、概して雪かきのような仕事には協力してくれないようだ。
雪が降る。雪が積もる。後期高齢者にかかるかギリギリの人たちが主戦力となって雪をかく。ようやく通路を確保してもまた雪が積もる。また雪をかく。ようやく積雪も減ってきたなと思うころ、空家となった家の屋根から雪が落ちて通路をふさぐ。また雪をかく。
これもまた、冬の仮設住宅の、ひとつの、そして大変な現実だ。
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