この丘の上の公園ができたのはもう1年半も前のことだ。陸前高田市の高台移転場所として最初に整備が進められた「高台2」。公園はその造成地の北西の端にあたる。
高台2の宅地からさらに一段高く、頂上には携帯電話の基地局のアンテナがそびえ、その隣には気持ち好さそうな東屋もある。公園の工事が進むさまは、高台2に家を建てていたり、建てる予定だったりした人たちも注目していた。
「きっと、まちの様子が見渡せると思うんですよね、見たいと思うかどうかはその人次第だけど」
友人はそう言って、公園のオープンの日を心待ちにしていた。
ところがこの公園、なかなかオープンしないのだ。工事の業者が引き揚げて、ベンチとかストレッチ用の特殊なベンチとかが設置され、はた目にはもう完成しているとしか思えないのに、入口のバリケードは閉じられたまま。立ち入り禁止の張り紙までぶら下げられたまま。
そんな状態で放置されること数カ月。ナイショだが、知人のなかには立入禁止の公園にこっそり入ってみた人も何人かいて、「いや別に工事中ってことでもないし、危険なところもなかったですよ」「なんでオープンしないのか不思議」など、感想を話してくれた。見晴らしがどうだったか訊くと、「うん、まあね。見たいと思うかどうかはその人次第だろうけどね」
それから1年以上になる。
多くの人が楽しみにしていた高台の公園にリラ(ライラック)の花が咲いた。ここからはかさ上げ工事が進められる陸前高田のまちの東側が見える。土煙が立ち上るなか、仮設の国道を走る車の列が見渡せる。そして土埃の世界から一段高いところには、高台2の住宅地。この1年で区画の多くに新しい家々が建ち並んだ。
被災したかつてのまちからは30メートル以上も高い場所につくられた高台2の住宅地では、多くの家族の新しい生活が始まっている。岩手県で最大規模の復興住宅もすぐそばだ。たくさんの人びとの暮らしを見守るような場所にリラは咲いた。
夕方前のひととき、東屋で写真を撮っていたら、高台2に住んでいる小母さんが階段をのぼってやってきて、「ライラックはまだ咲いてるわね」と確認して下りて行った。
復興住宅に暮らすSさんが杖をついてやってきた。リハビリをかねて散歩しているのだという。「歩いた後はこっちの方もうまくなるからね」と、杯を傾ける仕草をして笑った。
部活帰りの中学生たちがお喋りしながら通り過ぎて行く。
中学生がいなくなるとイソヒヨドリが飛んできて美しくさえずりはじめる。
そんなふうなことが積み重なって、この高台の公園もまちになじんでいくのだろう。何か特別なものがあるわけではない公園。いまはまだ、どこか空々しい感じすらするような空間。それでも、散歩や通学で通り過ぎていく人たちにとって、この公園は少しずつ日常の一部になっていくのだろう。そんな場所にリラが咲く。たぶん毎年咲き続ける。
さすがに春の盛りの頃の花だけあって、リラの花言葉には「青春」「愛」「友情」といった言葉が並ぶ。花言葉を組み合わせるだけで青春映画のプロットができそうなくらいだ。ときとともに公園が成長していくのにつれて、これからはそういうシーンもあるのかな。
ちなみに、リラ(ライラック)が誕生花という日にちは、ぼくが調べた限り、3月28日、4月12日、5月2日、5月11日、5月12日、5月17日、5月25日、5月30日、6月12日、6月26日が該当するようだ(調べれば間違いなくもっと増えるだろう)。ここ陸前高田の高台の公園のリラの場合、今年の満開は5月10日前後。もっとも香りが良いとされる七分咲きは5月の連休後半だった。
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