その翌日、岩手県はひどく冷え込んだ。
お世話になっている仮設住宅の自治会長さんの奥さんとすれ違う時に、寒いですねと挨拶したら、「ウン、冷え込んできたヨ」と言われた。
文字ではうまく伝わらないかもしれないけれど、南の地方からやってきた人間に、これから本格的に寒くなっていくんだよと伝えてくれるような、やさしくあたたかい言葉だった。
そういえば、11月初旬の初雪が降った朝、自治会長さんが犬の散歩をしているのに出会ったことがあったが、その時は、もう雪が降っちゃいましたねという挨拶に、「でもまだ道は大丈夫だ」という返事だった。
それは、いつごろタイヤ交換するかが話題に上っていた頃のこと。最初の雪は道路にまでは積もらない。本格的な雪の季節までにはまだ少し間がある。いまのうちにタイヤ交換しとけよ、というメッセージなのだと、数日後、晴れた暖かい日にタイヤ交換しながらようやく気がついた。
東北の人は口数が少ないと言われる。寒いから余計なことを喋らないのだと。それでも、量としては少な目な言葉の中に、相手への思いやりやあたたかい気持ちが込められている。
今朝、今年三度目となる雪が舞った。いずれ、まだ暗いうちから雪掻きしなければならないような季節がやってくる。入居者が少なくなった仮設住宅では、いまから雪掻きする人数が揃うかどうか心配されている。そんな時、その場所にいた時には、ゴム長はいて、寒いっすねなんて、当たり前すぎて面白くもない挨拶をしながらお手伝いしようと思う。東北に暮らす1人の人間として。
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