WILDLIFE in TOHOKU「キジのおしゃれは父の愛情」

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気仙川沿いの耕作されていない畑の薮に、小さな赤がゆらめいた。緑の生い茂る草原のなか、その赤はとても鮮やかだった。

赤は雉(キジ)の顔。草の緑とのコントラストも抜群で、ほんのちょっと見えただけなのに、その存在をはっきりくっきり示していた。

オスの雉は立ち居振る舞いからして威風堂々。キツネもカラスもなんのその。ヘビなんか出てこようものなら鋭い嘴と爪で逆襲して喰ってやるんだから、なんて言ってるみたいに自信満々。

そんなオスの雉、数日後にも同じ場所を闊歩しているのを見かけたが、よくよく目を凝らして見てみると、すぐ近くに小さな子どもの雉を連れていた。子どもの雉はちょっと小さめだがそれでもチャボくらいの大きさはある。しかし全身が茶色系のカモフラージュになっていてまったく目立たない。絢爛豪華な父ちゃんとは大違いだ。

草むらから種蒔き前の畑に入っていくときは、まずは父ちゃんが先を行く。まずは畑の安全を確認して、「いいよ、おいで」とでも言うように目配せする。すると子どもの雉は草むらを出て畑の中に入っていく。子雉は草むらの中でも目立たないが、ほじくり返された土塊だらけの畑ではカモフラージュ効果はてきめん。カメラで写しても土との見分けがつかないほどだ。

一方、父ちゃんの方は目立ちすぎるほど目立っている。目立ちすぎの父ちゃんは、息子か娘かを見守りながら、時に先に立ち、時には後から歩きながら、周囲を警戒している様子。

それにしてもどうして雉の親子はこんなにも見た目が違うのだろうか。ちなみに雉の母ちゃんは子どもと同じく地味な土色をしている。きっとその方が生存に適していることは、母ちゃんの地味な外見からしても明らかだ。

外敵から身を守るためなら、父ちゃんだって土色カモフラージュの出で立ちでもいいはず。ああそれなのに父ちゃんだけが、なぜに国鳥に選ばれるほどに鮮やかな衣装を身につけているのだろう。

生物行動学者、たとえば日高敏隆とか竹内久美子なら、きっとこんな説明をしてくれるだろう。——オスが配偶者を得るためには自分の強さをアピールする必要がある。明らかに外敵に発見されやすい派手なオスは、その派手さゆえに、キツネやらカラスやらといった外敵に襲われやすいのは間違いない。それでも生きているということは、負けずに生き延びてきたことを示している。つまり、オスは派手さは強さのあかし。だから派手なオスほどメスから配偶者として選ばれやすい。だからオスの雉はどんどん派手になっていった——と。

おそらくそういうことなのだろう。

でも、地味すぎるほど目立たない子どもの様子をそれでも心配そうに見つめてる、無意味なほどに派手すぎる父ちゃん雉の様子を見ていると、強さのアピールだけでないものを感じてしまう。雉の父ちゃんは息子や娘を守るための囮としての役目を果たしているのではないか。

人間界では父の日は過ぎてしまったが、気仙の野生の国では父の気苦労は今日も続いているらしい。

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