「オレはさ、現場監督みたいなもんだから。ボランティアセンターに来てくれた人たちの中からチームを組んで、依頼主さんのところに行って、皆さんに作業してもらっているわけだからさ。ま、ほんとに現場監督みたいなもんだね」
ITさんからそんな話を聞いたのは、前日土曜日の午前の作業を終えた昼食時のこと。ボランティアセンターのスタッフたちと懇意な感じで話をしていたから、てっきり社会福祉協議会関係の人かと思っていたら、ぜんぜん違っていてレースカーのエンジニアをされているとのこと。まるっきりのボランティア人だった。
でも、このITさんはハンパじゃない。
日曜日最初の作業を始めるにあたって、「井上さん(筆者の名前)、ここどうやって作業しようか」と聞いてくる。除雪機のローターの外れやすいネジの予備をどうした? とか、かいた雪をどこに捨てるか(実は除雪作業では最も重要な戦略)とか、ポンポン聞いてくる。
すごいリーダーがいる時って、参加者はただ動くだけのワーカーになりがちだ。それはどこの社会でも同じだろう。
しかし、それでは本当の意味での効率はよろしくない。チームが10人いたら、20個くらいの目で見て、10の頭で考えて出てきたいろいろなアイデアから良さそうなプランを即座に選択して、とりあえず取り組んでみて、不具合があればすぐに方向修正する。その過程の中で「とりあえず最善」の方法を見つけたら、それをできるかぎり安全かつ効率的に遂行する。それがボランティアみたいに非常事態に対応するリーダーの必須条件なんだと思う。だから、ワーカーに引きこもりそうなメンツには積極的に声をかける。そういうことなんだと思う。
午後の現場は大型除雪車が背丈以上もあるくらいに雪の山を積み上げたところに、自動車が転回できるスペースを作って、しかもすぐ側にある集会場の玄関までのルート開削と、ゴミステーションの除雪を併せて行うというニーズだった。ボラセンの見積もりは10人で2日。現場を見たオレらの見立ても、まあ通常なら10人でまる1日はかかるかなというものだった。
何しろ背丈以上、2メートルを超える雪の山を移動させなければならない。小型除雪機は持って行ったが除雪機が雪をかくローター部分は高さ50センチくらいしかない。いくら機械とはいえ、そのままでは高い雪をかくことはできない。
最初の戦略は除雪機のローターが少し上に向くようにして、回転しているローターに人力で雪を落とし込んで飛ばす、というものだった。でも、積み上げられた雪は固いところ、柔らかいところがランダムに存在していて、人間の背丈以上の場所にある雪を下から壊して行くことは不可能だった。誰かが雪山の上に乗って、上から雪を崩して除雪機のローターに雪を投入して行かなければならない。
いちおうはさ、元ヤマ屋だし、ちょびっとだけど土方経験もあるから、雪の小山に登って上から除雪機に雪を落として行ったよ。でもまあ、危険なことに違いはない。
そんな作業を続けていたら、やり方を変えるようにITさんが指示を出した。あからさまに指示するということではなく、いいタイミングで一旦除雪機を後退させて、4,5人が人海戦術で高く積み上がった雪をかき落とす。
「いくよ!」とのITさんの合図でかき落とした雪を除雪機で遠くに飛ばす。雪を飛ばせなくなったら除雪機は後退。ふたたび人海戦術で雪をかき落とす。その繰り返し。
動画にでも撮っておけば良かったけれど、そのやり方なら、雪山の上に登って作業する人が足を滑らせて、除雪機に突っ込んでケガをするというような危険はない。スコップで雪をかき下ろす人たちも、機械が入っている間は呼吸を整えることができるから、疲労が少なくてすむ。除雪機を操作する人も、実はけっこう力仕事なんだけど、息をつくことができる。人力で雪を落とす。落とした雪の所に機械を入れて飛ばす。そのリズムが一定になっていくと、びっくりするほど効率が上がる。安全かつスピーディー。
そんな作業を続けるうちに、見積もり的には1日~2日と言われていた現場が、2時間ほどで完了してしまった。
臨機応変。仮名にすれば7文字、漢字で4文字の言葉だけれど、
ITさんの臨機応変は、「これぞ!」というべきものだった。
そんな風に作業を進めて、あらかた先が見えてきたところで、ITさんがボラセンの本部に電話をかけていた。ITさんは声がでかい。
「えっ、なに、今日はもうないの?」
作業しているボランティア全員に状況は伝わる。昨日今日と、ほかのチームでは完遂できなかったり、投入を見合わせたりするようなハードな現場に投入されてきたチーム・イトウ。しかしもはや、そんなハードな場所はもう残っていないのだという状況がITさんのリアクションから伝わってくる。
オレはね、「あーやれやれ」と思ったさ。で、周りを見たら、浜松から参加の元レーサーIiさんは足下の雪をすくって投げる作業の手を緩めない。転回場所の雪壁が真っ直ぐじゃないと整形し始める人もいる。近隣からやってきた人たちは裏山に抜ける小道の開削を始める。まるで終わらせたくないと駄々をこねているかのように。そんなみんなの姿を見たら、こっちもスイッチが入る。
せっかくここまでやったんだから、もっと完成度を高めなきゃ!
そんなこんなで、とにかく作業は終了した。
本質的なことを言えば、救助要請を出している住民の方がたを中心に考えなければならないことはもちろんだ。でも、作業している身としては、個々の現場や一日単位での充実感の有無はひじょうにデカい。
日曜日の作業を終えた後、チームイトウの面々が集合して、「このメンバーでまた会うこと」を約束した。土曜日に参加した人たちも、もちろん含めて再開を約束した。
静岡県駿東郡小山町。その場で出会い、いっしょに汗を流した男たちが未来に向けてのきずなを結んだ。
最高にかっこいい時間だった。
◆後日談(1)
作業終了後、三島から参加していたNaさんにクルマで送ってもらった。道中話したのはNaさんが現在、地元三島で取り組んでいること。雪かきもかっこいいけど、それ以上にすごい話がたくさん聞けた。Naさんの話の続きも、きっと近々書くことになると思ってる。
◆後日談(2)
月曜日の夕方、チームイトウのITさんからの電話の着信があった。なかなか連絡がとれず、通じたのは火曜日のお昼だったが、彼の第一声は、
「月曜日、自分は作業に入ったけど、おかげさまでニーズを完遂できましたよ」との言葉だった。泣けるほどうれしかった。小山町に関しては、緊急を要する人たちがほぼいなくなった。良かった。心底そう思った。
その連絡を、わざわざ電話でしてくれたITさんのすごさに、またしても感服した。◆もうひとつ、忘れることができないのが、東北の話をする時のITさんの表情だ。震災直後から東北に入り、テントで寝泊まりしながらボランティアを続けたという。「やっぱりさ、依頼主さんからありがとうって言ってもらえること。それだけなんだよね」
「こんな話を始めたら、何時間でも話せるよね。きっとみんなもそうなんだろうけど」
雪と闘うことで仲間になったチームイトウは、東北と深くつながっていた。もしかしたら、みんな東北に育ててもらった人たちなのかもしれない。
文●井上良太
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