空に向かって語りかける「みんな元気にしているよ」

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連凧が舞う空の下、山を砕いて築かれたかさ上げの山の上、削られてなくなってしまった山を背景にゴスペルの歌が響き渡る。

シンガーたちの肉声が響く中、空と大地を結びつけるように連凧がまっすぐに伸びていく。

大地と空とを結ぶラインの向こうに、先日着工式が行われた慰霊公園の中心施設となる震災遺構タピック45が見える。

4月27日にオープンする新しい商業施設アバッセも見える。

声が鳴り響く。この空に、変わり果ててしまった大地に、そしてわたしたちの心の中に。

連凧のラインが空とわたしたちとを結ぶ。その先には米沢商会さんのビルも見える。

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声が、声が満ちる。空と大地、空とわたしたちという、とてつもない距離を無数の連凧と人々の声がつなぐ。

気仙天旗仙風会の佐藤さん、NPO人権センターHORIZONの片岡さんとのつながりでこの日この場でゴスペルを奏でてもらうことになったYさん、そしてYさんの群馬のむすめさんがシンガーたちの正面に向かい合って立っている。

見つめ、聞き入り、涙を浮かべている。

ゴスペルは何度も何度も繰り返し、こころを揺さぶる。

ゴスペルは何度も何度も繰り返し、空に叫ぶ。そして地に響き渡る。

2曲目の「花は咲く」でゴスペルシンガーたちは、Yさんをハグするように抱きかかえて一緒に歌った。その姿を見て、歌を聞いて、一緒に口ずさむ人たちの姿あった。涙ぐむ人の姿があった。目が涙でいっぱいになってしまったから、どれくらいの人が涙していたのか分からない。でも顔見知りの新聞記者の何人かは後ろを向いて目をこすっていた。ビデオカメラを回している記者の中にも顔を拭っている人がいた。一緒に歌わずにはいられなかった。

連凧が空と大地をつないでいた。あの日、突然の死を受け入れなければならなかった人たち。そして、いまここに生きている人たち。

Yさんは言う。「亡くなった人たちのことを思うと、胸がいっぱいでただ辛いばかりだった。だって、亡くなった人たちは、いきなり命を失ってしまったのですよ。でも私たちは生きた。生かされた。そして、たくさんの人たちと知り合うことができて今日がある。私たちが元気でいることを、そのことを、空の上にいる人たちに伝えたい」

連凧を揚げ始めた時、Yさんのお孫さんが言った言葉を思い出す。

「この連凧、何メートルくらいあるのかな、空まで届くのかな」

空は遠いかもしれない。届く長さを計ることはできないくらい遠いかもしれない。それでも、空とわたしたちは凧のラインでつながれた。

ゴスペルの歌が終わった後、Yさんはゴスペルシンガーの皆さんに、そしてNPO人権センターHORIZONの片岡さん、気仙天旗仙風会の佐藤さんにお礼の言葉を繰り返した。

「ありがとうございます。いい七回忌になりました」

連凧が舞う中、空から降りてくる光が、その言葉に答えていた。

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