12月10日土曜日、陸前高田市米崎町の仮設商店街ヤルキタウンで「市民の交流イベント・お客様感謝デー」が開催された。
数日前には積雪を見た陸前高田だが、この日の天気は晴れ。しかし、海の近くのヤルキタウン。冷たい風が吹き付ける中でのお祭りとなった。冷たい風、なんてもんじゃない。屋台が飛ばされるほどの強風に、時折は小雪が交じって吹き付けてくる。寒い。とにかく寒い。
そんな天候にも負けることなく、ヤルキタウンのお祭りは、基本屋外で実施されたのであった。
仮設商店の壁の一部を取り外した特設ステージには、菅野陽子さん、菊池秀樹さん、ライトニン・ソブグンズさんら地元にゆかりのミュージシャンが登場。屋外アリーナ席は満員で熱気ムンムンとはいかないまでも、地元の観客が熱心に、そしてノリノリで演奏を楽しんだ。
やはり生歌はいい。菅野さんの「上を向いて歩こう」を聞きながら、その歌詞の意味を初めて理解できた。上を向いて歩こうというのは、涙がこぼれないようにってことなんだという歌詞そのままの情景が心に沁みた。寒風の中、コートのフードを被って聞き入っている、わずか十数人の観客のひとりとして聴いているだけで、歌詞の言葉の濃さが違ってくる。
震災後にデビューした陸前高田出身の演歌歌手、菊池秀樹さんの歌に合わせて、地元の有名人、ピンクさんが即興で踊りを披露する。菊池さんは「人数じゃないです。今日のお客さんは質という点で最高です!」と何度も繰り返した。その度に寒風吹きすさぶアリーナ席は拍手で沸く。そんな横では、ステージを下りた菅野さんが、小学校時代の恩師とハグしている。仮設商店の2階の窓には、青い空と白い雲が写る。地元って、ふるさとってこういうものなんだという思いが胸の奥から湧いてきてあたたかい。
お昼には、岩手大学の民俗芸能サークル「ばっけ」によるさんさ踊りも披露された。現代風にアレンジされた盛岡さんさよりもさらにずっと古い、さんさの原型をとどめているとされる三本柳さんさ。空に向かって伸び上がり、また大地に寄り添うように躍動する踊りは感動ものだった。よかった。本当によかった。寒い風に吹きさらされて、頬をリンゴのように赤く染めて踊る若者たちの姿に大きな拍手が寄せられる。観客数ほんの十数人。しかし人数の問題ではない。
手にギター、背中にドラムセットとアンプを背負い、口にはハモニカという出で立ちのワンマンバンド大道芸人、高橋ヒロヤスさんの演奏も圧巻だった。
昼過ぎにはますます風も強まり、さすがにアリーナ席の観客もまばらになる中、「今日は寒いし寂しいし、さむさびしいけど頑張ります!」と宣言して高橋さんの歌が始まる。背中のドラムセットは足から伸びた紐で引っ張って操作するカラクリになっていて、ワンマンバンド高橋さんの演奏は、リズムに合わせて歩きながらの演奏になる。アリーナ席を歩き回りながら歌っていると、観客の1人が高橋さんの後ろをついて行っていっしょに踊り出す。体感温度と心が感じる温度の差がますます大きくなる。寒いけどあったかい。
「寒いですね!この時期に外での仕事ってのはまずありません!ホテルでの仕事だったり、パーティや忘年会に呼ばれたり、屋根がある場所での仕事ばかりです!でも、さっき聞きました!ヤルキタウンがオープンしたのは、震災の年のちょうど今頃だったんだそうです!納得しました!だからボクも頑張って歌います!皆さんも頑張って聞いて下さい!」
小雪舞う中での絶唱。その姿がヤルキタウンの人たち、陸前高田の人たちと重なって見えてきた。
再生の里ヤルキタウン
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