ウインド仲間がご馳走してくれたソバ ~後編~

sKenji

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前回の話

 【ぽたるページ】ウインド仲間がご馳走してくれたソバ ~前編~ - By sKenji - ぽたる
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ヤマさん邸の庭で果物狩り♪

海辺を出発すると、車を3台連ねてヤマさんの自宅へ向かう。

家は海から10分ほどの住宅街の一画にあった。一軒家で建物などの大きさは隣近所とそれほど変わらないのだが、敷地に占める駐車場の割合が大きく、つめれば乗用車を4台ほど停めることができそうである。

庭はその駐車場の隅に小さくあり、柿、シークワーサー、レモン、ブドウ、ブルーベリー、キウイなどの樹木が植えられていて、木と木の間にはイチゴなどが隙間を埋めるようにあった。

到着するとヤマさんはすぐに脚立を持ってきて柿を採り始めた。すると、それを見たゲンさんは、

「年寄りがよく脚立から落ちて怪我をするんだよ」とニヤニヤしながら冷やかした。ヤマさんはそれを軽く笑って受け流し、ハサミで柿を1つ切りとってポンっとゲンさんの方へ放り投げた。ゲンさんはそれを予期したいたかのようにキャッチする。

その後もヤマさんが採った実を投げ、ゲンさんがそれを受け取るという作業を繰り返す。

ある時、ヤマさんが熟れた柿を投げると、ゲンさんはそれをスルーして

「熟れたのは取らずに鳥に食わせろ」と苦笑しながら抗議した。それに対してヤマさんは、

「熟れたのが美味しいんだ。俺が食う」と言葉を返す。そのような二人のやり取りを見ているのが楽しかった。

20分ほどすると大方の柿を採り終えた。赤くよく熟したものだけが木に残されていた。

採った柿はかなりの数であった。こんなに採っていったいどうするのだろうと思っているとヤマさんは、

「明日に海に持って行ってみんなに配る」と顔をほころばせながら言った。

柿を採り終えるとヤマさんは次にレモンに手を伸ばした。それを見たゲンさんは、

「シークワーサーをもらうよ」と言って、手頃の大きさの実を手でもぎ始めた。ヤマさんがレモンを3個取り、ゲンさんがシークワーサー20個ほど取ると果物狩りは終了した。

ヤマさんがご馳走してくれたソバ

収穫物をスーパーのビニール袋に入れると、ヤマさんは「ソバをごちそうするよ。」と言って、家の中に招き入れてくれた。

ヤマさん邸はゆったりとした造りであった。2階の様子はわからないが、1階のほとんどは広いリビングが占めており、落ち着きがある。

部屋にはソファーとテーブル、それに50インチの大型テレビが置いてあった。ヤマさんはプレーヤーにウインドサーフィンのDVDをセットして再生を始めるとキッチンに立ち、ソバを作り始めた。

料理をしている間、ゲンさんと僕はDVDを見ながら話をしていた。DVDは海外のトッププロウインドサーファーが巨大な波に乗ったり、宙へ高くジャンプして2回転、3回転と、常人ではできないような技を繰り広げているものである。その映像を見ながら僕がポツリと、

「1回転でもいいから空中でループしたいですね」とウインドサーフィンを始めて以来抱き続けている憧れを言うとゲンさんは、

「難しくないよ」とさらっと言った。その言葉にびっくりしていると、

「さすがに最近はもうしないが、昔はやったもんだ。」と言って、丁寧にやり方を説明してくれた。ニコニコしながら教えてくれるゲンさんの表情はこれまでに見たことがないものであった。たとえ聞いたとしても、そう簡単にできるとは思えなかったのだが、教えてくれることが嬉しかった。

しばらく回転技についてゲンさんの説明を聞いていると、カツオ節だろうか、部屋中にいい香りが漂い始めた。ソバつゆを作っているとヤマさんは言った。その匂いに急にお腹が空いてきた。

少しすると「できたよ」と言って、ヤマさんが僕の目の前に「トン」とソバの入った器を置いた。

なかに入っている麺を見て驚いた。白くて太いのだ。どう見てもうどんのようにしか見えない。それを感じ取ったヤマさんは笑いながら

「沖縄ソバだよ」と言った。

なんでも、沖縄から麺をまとめて取り寄せて、スープは自分で作っているとのことであった。ヤマさんが作ってくれた沖縄ソバは魚介系のスープで、白い麺の上にはチャーシューのほか、ネギがたっぷりとのっかっていた。香り立つスープの匂いに食欲がそそられて、すぐにでも食べたかったが、3人分揃うまで待つことにした。

ヤマさんが次をよそる。しかし、それがとても長く感じられる。

2杯目が完成すると、ゲンさんの前においた。するとゲンさんは、

「うまそうだなあ」と一声発した後に「お先にいただくよ」と言って食べ始めたのだ。それを見ていた僕も我慢しきれずに、

「お先にいただきまーす」と便乗して、箸をつけた。

麺に絡みついたスープの旨味が口いっぱいに広がった。その味に感動していると、自分の分をよそっていたヤマさんが、突如、

「あっ、紅ショウガを買ってくるのを忘れた!」と声をあげた。

この一言には思わずゴクリとツバを飲んだ。これに紅ショウガがつけば最強である。

ヤマさんはその後も「紅ショウガ、紅ショウガ」と悔やむようにつぶやいていたのだが、2、3度繰り返した後に、

「そうだ、七味だ!」と言って、七味唐辛子を持ってきて嬉しそうにソバにふりかけた。

見るからに美味そうであった。すでに残り少なくなってしまっていたが、僕も七味を借りて投入する。

口にすると、まろやかな魚介スープの旨味にピリっとした七味の味覚がたまらなく、2杯目がほしくなってしまった。

沖縄ソバを食べ終わると、3人でDVDの続きを見ながらウインド談義に花を咲かせた。

そのビデオも見終わると、「そろそろ帰るか」というゲンさんの一言で解散することになった。

ヤマさんは駐車場まで見送りに出てくれた。

ゲンさんは「次は、20時間煮込んで作るというチャーシューをのせて食べよう」と、ヤマさんが沖縄ソバを食べる際にときおり作るという自家製チャーシューを要望して去っていった。

僕も最後にもう一度御礼を言って、ヤマさんの家を後にした。

自宅アパートに向かって運転している途中、なんだかとても暖かいものを感じていた。ゲンさんに対する印象も大きく変わっていた。次、風が吹いた時に海でゲンさんに会うのが少し楽しみであった。この日、風は吹かなかったけれど、おかげで素敵な一日となった。

<「ウインド仲間がご馳走してくれたソバ」終り>

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