いつ掘り出し物に出会うか分からない。
小笠原・父島には「JA東京島しょ小笠原父島支店 農産物観光直売所」というお店がある。一見長ったらしい名前だが、島民の間ではシンプルに「農協」と呼ばれ、親しまれている。父島・母島の両島で収穫された野菜や果物がここに集うのだ。
ここのポイントは、なんと言っても「いつ掘り出し物に出会うか分からない」ところ。たとえば島のスーパーであれば、食材はほぼすべて週に1度の定期船・おがさわら丸に委ねられる。それゆえ、船が入港した日は品数豊富な買い出し日和。逆に入港直前は、生鮮品を中心にすっからかんだったりするのだ。
ところが農協は違う。何せ“商品”である野菜、果物は島内で作られるから、入荷も気まぐれ。作物が育ったら収穫し、収穫が終われば、出荷されて農協に並ぶのだ。ただでさえ、野菜が美味しく育つ環境の小笠原だけに人気商品も多数。特に季節モノであるトマト(12~5月)、パッションフルーツ(4~6月)、マンゴー(7~8月)あたりは、うかうかしているとすぐに売り切れてしまう。
そのほか、小笠原を代表する作物と言えば、シカクマメ、島オクラ、島レモン、島バナナ、ゴレンシなど。実際よく売れることもあり、季節によって違いはあるものの、店内の棚の大半はこれらの作物で占められていた。また、そんな肥沃な小笠原だからこそ、時には島外ではまず見かけないような、南国作物が店頭に並んでいたりするのだ。
とりあえず買ってから、「これどうやって食べるの・・・?」
僕は小笠原の宿に住み込んで働いていた時期があるため、よく農協におつかいに行っていた。日々通うなかでもっとも度肝を抜かれたのは、島では「シャシャップ」(別名:サワーソップ、トゲバンレイシ)と呼ばれる果物。ラグビーボール大の大きさでトゲトゲ。その日見たものは、おそらく4~5kgぐらいの重さがあった。しかも農協の札には「シャシャップ」としか書いておらず、そもそも1個しか置いてない。なんだこれは・・・。いかにもトロピカル~な南国フルーツであることは伝わってきたが、それ以上の情報が無いのだ。宿のオーナーに電話してみると、
「おー珍しいねー。面白いから買ってごらんよ。」
とのこと。面白い??決して安くなかったが(2000円くらい)、僕は勢い余って買ってみることにした。シャシャップは中南米を原産とする果物のようで、島内にもシャシャップの果樹自体数えるほどしかないのだとか。そんなものをいざ持ち帰ったところで、どうして良いかもわからない。食べごろの見極めが難しいそうで、「熟れ始めが良いが、熟れ始めると豊富な果汁ですぐにべちゃべちゃになる」らしい。
オーナー曰く、「冷凍庫に保存してから切ると楽だよ」とのこと。な、なるほどー。後日、シャーベット状にして食べたそのお味はヨーグルトっぽく、それでいてリンゴやパイナップルのような爽やかな酸味。普通に美味しかったが、それ以上に見知らぬ果物との出会いに感動してしまった。小笠原ってすげーな。。
エプロン姿にエコバッグ、すっかり島の主婦状態。
シャシャップのほかにも、近縁種の「アナナ」(別名:バンレイシ、釈迦頭とも)、トウモロコシのような見た目で食べる時期を間違えると痛い目に遭う「モンステラ」、都会のスーパーではまず見かけないだろう「バンペイユ」などなど。普段馴染みがないだけについつい好奇心がそそられてしまう。
僕は宿のスタッフらしく、エプロン姿にエコバッグで買い物をし、よくわからないものは気軽に店員さんに聞いていた。次第に知識もついてきて、「アナナはお釈迦様の頭のような形をしているから釈迦頭とも呼ばれる。」、「モンステラは完熟しないうちに食べると、シュウ酸カルシウムが強すぎて口が痛くなる。」と、都会ではまず必要がないだろうウンチクが溜まっていくから面白い。
あるとき、恐らく観光客だろう奥様が農協で何やら悩んでいるのを発見。彼女が手に持つのはシカクマメ。「あら、こんなのどうやって食べるのかしら」と独り言を言っていたのだ。
「それはね、シカクマメと言って小笠原ではポピュラーな野菜なんですよ。特に油と相性が良くて、お肉と炒めたり天ぷらにして食べたりするのがオススメ!中にはマメが入っているけど、さやごと食べられて美味しいんです。ちなみに栄養価は大豆並みらしいですよ。あ!他の野菜と違って冷温に弱いから絶対冷蔵庫で保存しちゃだめよ・・・」
と、思わず心で語りかける僕(人見知り)。主婦か・・・。けれど、それほどどっぷりハマってしまったのだ。いやー、だって美味しいんだもん。
東京島しょ農協小笠原父島支店
●TEL:04998-2-2940●営業時間:8:00~17:00●定休日:おがさわら丸出港後~翌日
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