上越に連なる山の奥に鎮座する火打山。標高は2,462メートル。頸城(くびき)山塊で最も高い山である。火打山と同じ頸城三山のひとつである妙高山が、荒々しく男性的な山と言われるのに対し、火打山は優雅で女性的な印象を受ける。
それはなだらかな稜線の影響もあるが、まるで天上の庭園にいるかのような「天狗の庭」や「高谷池」などの湿原が、山の麓に広がっていることも大きい。
火打山は花の百名山としても知られており、私が登った8月中旬はミョウコウトリカブトの群生が見事であった。火打山は湿原と高山植物が特に素晴らしい山である。
火打山登山レポート
火打山は笹ヶ峰の登山口から往復するのが最も近く、一般的である。標準的なコースタイムは往復で約9時間。所要時間は人によって異なるものの、1泊2日の登山が推奨されている。今回、私も笹ヶ峰から往復するコースで登ってきた。
笹ヶ峰は火打山だけでなく妙高山の登山口にもなっており、富士見平までは前回ご紹介した妙高山と同じルートである。
富士見平にある分岐点で火打山と妙高山への登山道が別れる。火打山へは登ってきて左側の道を行く。
富士見平までの登山道は樹林帯のなかに造られているが、富士見平からは視界の開けた気持ちの良い山歩きになる。
富士見平の分岐から高谷池ヒュッテに向かっていると、火打山(※右側の山)が現れる。火打の左にある山は影火打。
高谷池ヒュッテの手前およそ500、600メートルほどの地点まで来ると、ササが広がるエリアにでる。爽快感が抜群!
ササの原っぱを少し歩くと高谷池ヒュッテが見えてくる。富士見平の分岐点からは40分ほどである。
ヒュッテのすぐ脇には高谷池があり、小屋のベンチで池を眺めながら休憩をする。最高の休憩地点である。一息つくと、火打山の頂上を目指す。
ちなみに高谷池ヒュッテには水場があるのだが、要煮沸と書かれている。私は沸騰させずにそのまま水筒に継ぎ足して飲んでいたのだが、その後、お腹の調子が少しおかしくなってしまった。要注意である。
高谷池ヒュッテを出発すると池のほとりを回り込むように歩く。見ているだけで心が洗われるような湿原である。
小屋から歩いてすぐのところに火打山と黒沢池ヒュッテへの登山道の分岐点がある。分岐点から少し歩いた小高い位置からの高谷池の眺めが素晴らしい☆
高谷池から「天狗の庭」と呼ばれる湿原地帯へ向かう途中にある登山道。歩いてとても気持ちのよい道である。
ロープで立入が規制されている場所にはハクサンコザクラと思われる高山植物が咲いている。さながら天空の庭園を散歩している気分♪
高谷池から20分ほど歩くと「天狗の庭」が現れる。時間の関係で先を急ぎたかったのだが、あまりの景色に立ち止まり、しばらく見惚れてしまっていた。
天狗の庭から先は、山頂への最後の緩やかな登り坂となる。登っている途中、後ろを振り返ると眼下に天狗の庭が見える。
途中、あちらこちらに「ミョウコウトリカブト」が紫色の美しい花を咲かせて群生していた。トリカブトと言えば猛毒を持った植物として知られているが、その姿からは想像がつかない。
ミョウコウトリカブトは、一般的に多く見られるヤマトリカブトよりも草丈が低く直立に近い状態で生えているのが特徴である。写真に写っている黄色の花は「キオン」と思われる。
振り返るとそこにはミョウコウトリカブトと天狗の庭♪
天狗の庭と山頂とのほぼ中間くらいの位置に「ライチョウ平」がある。その名の通り、このあたりには氷河期からの生き残りと言われる希少な鳥、ライチョウが棲んでいる。
火打山は日本に生息するライチョウの北限と言われており、つがいが10組ほど確認されている。
しかし近年、地球温暖化の影響で生息域が狭められるなど環境が悪化しており、このままでは10年もたたないうちに火打山からライチョウの姿が消えることが指摘されている。
ライチョウ平を過ぎると山頂はもう目の前!
火打山、登頂!
天狗の庭などが一望でき、まさに絶景。
山頂からはなだらかな稜線が伸び、途中には天狗の庭が見える。雲で隠れてしまっているが、晴れていれば妙高山の姿も目にすることができる。
山頂から見た天狗の庭。標高およそ2,100メートルに広がる、まさに神々(天狗?)の遊び場のようである。
頂上からの景色を堪能すると昼ごはんを食べ、そして、火打の山頂を後にした。
下山の際には黒沢池に寄り道を♪
下りのルートは登ってきた道を戻るのが最短ではあるものの、高谷池ヒュッテから黒沢池ヒュッテを経由しての下山がおすすめである。
ヒュッテの近くにある黒沢池は、高谷池や天狗の庭と同じ湿原地帯である。しかし、その規模はとにかく広く、2つとはまた違った魅力を持っているので、遠回りしてでも見る価値がある。特に高谷池ヒュッテから茶臼山を経て向かう途中、眼下に広がる黒沢池湿原は必見である。
火打山は途中に危険な個所もなく、登山経験者ならば誰もが楽しんで登ることができる山である。しかし、それでありながら、山上には素晴らしい湿原と高山植物が咲き誇る世界が広がっている。その光景はまさに山の上の楽園である。
またひとつ、再び登りに来たいと思う山が増えた山行であった。
火打山
参考WEBサイト
Text & Photo:sKenji
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