先日、静岡県の伊豆半島にある大瀬崎方面へ向かっていると、途中に太い鉄柱を組み合わせた櫓のようなものが見えた。「もしや?!」と思い引き返して見てみると「避難津波タワー」と黄色い看板に黒文字で書かれていた。さらに先に進むともう一基タワーが設置されていた。
想定される津波よりも低いタワーもあるという事実
この日見た津波避難タワーは沼津市の木負(きしょう)地区と立保(たちぼ)地区の2基。沼津市の津波ハザードマップで調べてみるとそれぞれの高さは10.6mと8.3mとある。建設した企業のWEBサイトには避難ステージの高さがそれぞれ9.0mと5.8mと記載されていることから、ハザードマップに書かれている数値は海抜と思われる。
2つの津波避難タワーを実際に見て感じたのは不安であった。特に立保地区の津波避難タワー。あまりに低く感じられたので、最新のハザードマップで確認してみると同地区の想定津波高は8.8mと、タワーよりも0.5m高い津波がくる恐れがあった。
想定される津波の高さだが、これは第四次地震被害想定に基づいている。第四次地震被害想定は東日本大震災後に策定されたもので、「発生頻度が比較的高く、発生すれば大きな被害をもたらす地震・津波」を「レベル1」、「発生頻度は極めて低いが、発生すれば甚大な被害をもたらす、あらゆる可能性を考慮した最大クラスの地震・津波」を「レベル2」として、2つのパターンの地震を想定している。ハザードマップに記載されているのは、レベル2で発生する津波の高さの想定値である。
そのためハザードマップに記載されている高さの津波がくる可能性は高くはないのかもしれない(※逆に想定より大きな津波がくる恐れももちろんある)が、想定される津波の高さよりも低いものが津波避難タワーとして存在していることに驚く。
これは津波避難タワーが造られた時期が関係していると思われる。立保地区のタワーは平成18年に設置されている。当時のハザードマップは阪神淡路大震災などを受けて平成13年に策定された第三次被害想定を元にしており、想定津波高は5.5mとなっている。ひとくちに避難津波タワーと言っても、建設時期によっては最新の津波想定高よりも低いものもある。
ただ、仮に最新のハザードマップの想定津波高以上の津波避難タワーであったとしても、東日本大震災の映像を見たり、話を聞いた今では不安を感じずにはいられない。
施錠されている津波避難タワーもある
地元静岡県では各地に津波避難タワーが作られている。ハザードマップにその位置は記載されているものの、実際に見てみないとわからない情報も少なくない。
例えば施錠。この日訪れた沼津市は避難タワーはいつでも使用することができるようになっているものの、自治体によっては子供が立ち入って事故が発生する危険性などから階段の入口に鍵をかけているところもあるという。物によっては地震発生時に自動で開錠されたり、扉の壁を蹴破って利用できるタイプもあるが、自治会関係者があけるものもあると聞く。
近い将来発生が懸念されている東海地震などでは、場所によっては5~10分で津波の第一波が到達すると言われている。地震発生時にハザードマップや付近の案内標識にしたがって避難タワーまで逃げたはいいものの、鍵がかかっていて利用できないなどといったケースがひょっとしたらあるかもしれない。
津波避難タワーを自分の目で確認する重要性
今回、実際に津波避難タワーを見て思ったのは、現場で確認する必要性である。
私が見た立保地区の津波避難タワーには階段が2つあった。2つの階段は1段の高さが異なっており、ひとつは大人用。そしてもう一つは子供やお年寄り用に段差が低くなっている。
また前述の通り、津波避難タワーによっては施錠されているものもあれば、非常時に階段入口に設置されている扉を蹴破ることができるタイプもある。蹴破るタイプには注意書きがあるのだろうけれども、津波が迫りくる中で必ずしも気づくことができるか一抹の不安がある。また遠目では扉がしまっていると勘違いしてしまう恐れもある。地震が発生する前に実際の現場を見ることによって命が助かる可能性が高まるのではないだろうか。
頻繁に訪れる場所や近所の避難津波タワーについて、「高さや収容人数はどれくらいなのか」、「最新の津波想定高よりも高いのか」などといったことを調べるほかにも、実際に現地へ行って「鍵の有無」、「施錠されている場合にはドアを壊して利用することができるのか」、「子供やお年寄り用の階段はあるのか」などといったことや、「近くに、高台への避難路はないだろうか」などを確認しておくに越したことはない。
恐ろしいのは、そこに津波避難タワーがあるというだけで安心してしまうこと。
津波避難タワーは、ハザードマップや実際の現場から事前に情報収集した上で、他に高台がない場合や逃げ遅れた時の緊急避難用として利用するのが一番適しているのではないだろうか。
参考WEBサイト
Text & Photo:sKenji
最終更新:
fnp1monitor
どちらの場所も山が迫った海岸で、200~300メートルも走れば標高が20メートルほどのミカン畑の山に辿りつけそうです。ただ問題は地震発生から津波が到達するまでにどれくらいの時間的余裕があるかと、そしてこどもやお年寄りが避難することができるか、ですね。地元の方は避難訓練など行っているのでしょうか?
sKenji
おっしゃるとおり、すぐ近くにミカン畑の高台がありました。ミカン畑がある高台も少し見て回ったのですが、津波の海水面が上がってきてもさらに上に逃げる余地や舗装された道路がありました。
避難タワーの活用方法としては、海にいた船が岸に戻って、高台まで逃げられない時など、どうしても逃げ切れない時のみ利用がいいと思いました。
sKenji
お年寄りについては、収穫したミカンを運ぶモノレールのような設備を利用できないのだろうかとも一瞬思ったのですが、現実的ではないかもしれません(笑)
地元の方の避難訓練については調べてみます。