前編のはなし
高山病について
富士山を登る際、最も気がかりなもののひとつは高山病であろう。高山病の症状は1,800~2,500mくらいからでると言われている。富士山頂の標高は3,776m。酸素濃度は平地と比べると約65%と少なく、高所の影響がなにかしらでる人は多い。
普段、日本で生活をしていると高山病にかかる機会は滅多になく、経験がない人も多いかもしれない。しかし、高山病で亡くなる人もおり、標高の高い山を登る際には知っておく必要がある。軽いものでは「頭痛」、「食欲不振」、「吐き気・嘔吐」、「倦怠感」、「虚脱感」、「めまい」、「睡眠障害」など様々な症状があり、重度なものなると肺に水がたまる「肺水腫」や、脳の水分が異常に増えて腫れる「脳浮腫」を引き起こして、死に至ることも珍しくない。
私の高山病体験とやっかいな高山病
高山病にはこれまでに幾度となく苦しめられてきた。
記憶にある人生最初の高山病は、旅行でチベットのラサ(約3,650m)に行った時だった。中国の成都からラサへ飛行機で行ったのが、空港に降りて脈拍を測ってみると通常の2倍近くあった。最初、信じることができずに2度測り直したが、やはり結果は変わらなかった。案の定、ラサ到着から1~2日は激しい頭痛など、風邪のような症状に襲われて苦しんだ。2、3日して体調が回復すると、ナムツォ湖という標高約4,700mの場所にある湖に移動したのだが、ふたたび高所の洗礼に見舞われた。少し歩いただけでも、まるでジョギングをしたかのように息が切れ、頭痛と食欲不振に苦しんだ。
過去の個人的な経験だけで言うと、登山などでゆっくりと高度を上げていった時は、だいたい3200mあたりで軽い頭痛などの初期症状がでることが多かった。富士登山の時も、標高3200~3300m位あたりから軽い頭痛が始まった。
飛行機や自動車などで一気に高度を上げた場合は、それ以下でも症状が出た。南米ペルーで首都のリマからクスコへ一気にバスで上がった際には、クスコ到着後、やはり風邪のような症状がでて安静にしていた。
一番ひどかったのは、アフリカの山を登っている時だった。この時は食べた物を嘔吐したり、睡眠障害がでて寝付くことができなかった。初期の高山病の症状は様々で一概には言えないが、私の場合は、頭痛、息切れや風邪と似たような症状がでることが多いと思う。
高山病の経験がない上に症状を把握、意識していないと、高所の影響がでてきても最初は気づかずに、風邪のひき始めか、少し体調が悪いだけと勘違いしてしまうかもしれない。そして、登頂への思いから少し無理して登り続けると、気づいたときには重症化している可能性がある。どの程度の症状で引き返すかの判断の難しさり、高山病はやっかいなものだと思う。
高山病対策について
高山病対策で一番有効なのは「ゆっくりと高度をあげて、体を少しづつ高所に慣らす」ことである。富士山の場合で言うと、もし体力と時間が許すならば、登り始めが1450mと一番標高の低い御殿場ルートを1泊2日以上かけて登ることが一番リスクが少ない方法だと思う。
それ以外の高山病対策として、よく言われているものとして下記がある。
■高山病対策
○水分を多めにとり、トイレに多くいく。
高山では脱水になりやすいと言われている。そのために水分を意識して多くとる
必要がある。高い山に登る時によく言われるのが「水分を多くとり、トイレに行け」
ということである。
○薬
絶対的な効果があるわけではないが、薬である程度、高山病を予防、軽症化する
ことができるという。高山病対策に用いられる薬はいくつかあるが、予防薬と
して一番有名なのが「ダイアモックス」であろう。
以前、知人の脳外科医が標高の高い南米に行く際に「ダイアモックス」を
持っていくと言っていた。その当時、あまり効き目がないという噂も耳に
していたので、「本当に効くの?」と聞いたら、彼は絶対的なものではないけど、
有効なものだと言っていた。なんでも脳に酸素を送り込むのを促進する効能が
あるそうだ。
富士山を登る際に「ダイアモックス」を飲むかどうかは個人の判断によるが、
もし、服用するならば市販はされていないので、医師による処方が必要である。
○携帯酸素缶
富士登山を計画している友人から時々聞かれるのが、携帯酸素缶である。
携帯酸素缶はカセットガスやスプレー缶のような容器に酸素が入っているものだ。
私は使用したことがないのでなんとも言い難いが、高山病になった時に、
一時的に使うぶんには有効なものではないだろうか。
しかし、商品を調べてみると1缶でだいたい連続使用可能時間が約2~3分程度
の酸素量しかないようである。あくまでも高山病の際に一時的に吸って症状を
軽減させ、少しでも楽に、そして安全に下山するための補助のようなものにしか
ならないと思われる。もし携帯酸素缶で登頂を考えるならば、何ダースも必要
となるだろう。
○血中酸素濃度測定器
血液中に溶け込んでいる酸素量を測る機器がある。「パルスオキシメーター」と
呼ばれるもので、静脈認証のように指を当てるだけで簡単に測定できる。
以前、山に登っている途中に測ってもらった経験があるのだが、自分の血液に
溶け込んでいる酸素量が数値でわかるので実に有用な機器だと思う。
「高度順応の程度」、「高山病の危険性」などを把握するのに便利である。
特に下山するかどうかを判断する際には、数値として客観的にわかるので、
大変役に立つと思う。登山途中で、登頂をあきらめる決断をすることは難しい。
しかし、この機器で測った数値が一定以下ならば引き返すと決めておけば決断が
しやすい。
機器自体が軽量であり、価格も比較的安価になってきているので、標高の高い山
に登る際にはあるといい。
高山病にかかったら
高山病の症状がでた際の治療法は、高度を下げることに尽きる。標高の低い場所に戻ることが最も効果的で確実である。
しかし、そうは言ってもおよそ3,800mの富士山に登れば程度の差はあれ、なにかしらの高山病の症状が出る人は多い。その時、登頂を断念するかどうかの判断は難しい。初めての高山病だったならば、それが高山病かどうかもわからないかもしれない。その際、一番確実で判断しやすいのは、パルスオキシメーターだろう。その他には、次ようなチェックシートもある。これは「一般社団法人・日本登山医学会」のWEBサイトにあったもので、日本のトレッキング業界でもっとも広く使われているものだそうだ。各チェック項目にある、高山病の症状と程度で判断するといいだろう。下山する際のスコアのしきい値について、日本登山医学会のWEBサイトには記載がなく、他のWEBサイトも調べてみたが具体的な数値の記載はなかった。個人の判断によるということなのかもしれない。あくまでも私の場合の話であり、根拠などもないが、チェックシートの項目のいずれかで「2」以上があれば、下山を決断すると思う。
危険な山ではあるけれど・・・
世界遺産に登録され、登山者が増えている富士山。しかし、日本一の高峰であり、気象条件も厳しく、毎年のように死者もでている。静岡県側のデータのみだが、平成20~24年の4年間で27名の方が亡くなっている。死亡状況は「発病」、「転倒」、「道迷い」が多い。人が増えることにより「落石」の危険性も高まる。近年、軽装備で富士山を登る人の事故も多いという。
富士登山についてネガティブなことばかり、ずらずらと書いてしまった。しかし、日本の象徴的な山であり、辛い思いをしてでも登る価値があると思う山である。
私も今年、10年ぶりに富士登山に行きたいと思っている。その際には、日本一の高峰の魅力をぽたるページで報告することができればと思う。
富士山
参考WEBサイト
Text & Photo:sKenji
最終更新: