山登りのススメ Vol.5 ~八ヶ岳 その3~

sKenji

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これまでの話

9月の三連休、八ヶ岳を登ることにした。連休初日の夜、下山する予定の立場川キャンプ場に到着する。翌朝、登山一日目、キャンプ場にバイクを置いて、美濃戸口へ向かう。最初は歩いていたのだが、時間を短縮するために、ヒッチハイクで美濃戸口に向かう。

美濃戸口で、ヒッチハイクで乗せてくれた方々を別れて、赤岳山荘へ。その後、赤岳鉱泉、硫黄岳、赤岳を経由して、宿泊地であるキレット小屋に到着して、テントを張ったのだった。

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キレット小屋の水場にて

テント設営後、水を汲みに行く。

雨が降っていないのか、水量が少ない。2リットルの水筒1本溜めるに5分ほどかかりそうだった。持ってきた水筒は2リットルが3本。気長に溜めるしかなかった。

一本目の水を汲み終わる頃、ひとりの青年が来て、僕の後に並んだ。年齢は20代半ばくらい。

「水、ちょろちょろですね。」僕が話しかけると、

「そうですね。雨も少ないかもしれませんが、地形的に水が豊富な場所とは思えないですよね。」と彼も答えて、会話が始まった。

水が溜まるまでの待ち時間、彼と話をする。

彼は、東京在住で会社の先輩と登山に来たらしい。お互いに、どの場所から登り始めて、どういうコースでキレット小屋まで来たのかなど、最初のうちは登山者がよく交わすような会話をしていた。しかし、彼が過去に登った山の話をしたところから、展開が変わった。

彼は以前に南米ボリビアのワイナポトシを登ったという。僕が昔、ボリビアに行った際に登るか迷った山だった。会話はワイナポトシから一気に熱を帯びた。

話を聞くと、彼はどうやらバックパッカーの経験もあるとのことだった。僕も以前、バックパッカーで旅行をしていたこともあり、共通点に親近感を覚える。おまけに、お互いに南米で同じ山を登っており、偶然の共通点に話は盛り上がった。

1本目の水筒に水が溜まるのは大変長く感じたのだが、残り2本はあっという間だった。僕は、水汲みが終わった後もその場に残り、今度は彼が水を汲んでいる間、一緒に旅行の話で盛り上がっていた。しかし、そのうち別の登山者が水を汲みにきて、狭い水汲み場が窮屈になったために、僕は別れを言って、自分のテントに戻った。

寝ようかと思ったその時に

水を汲み終わり、テントに戻るとレトルトのカレーとご飯を温めて晩御飯を食べる。

食後のビールを空けて、さあ寝袋に入って寝ようかとすると、テントのすぐ脇にザックを降ろす音がした。時間は19時。今、到着したばかり登山者のようだった。すでに辺りは真っ暗。驚いた。

山の夜は早い。早寝早立が基本で、だいたいは夜6時~7時位には寝て、早朝の3時~4時位に起きる。キャンプ地への到着は明るいうちに到着するのが常識で、日没が早いこの時期に、夜7時の到着は通常ではありえない。

夜遅くの到着者は、がさがさとザックからなにやら取り出し始めた。音や状況からすると、どうやらテントを張ろうとしているようだった。

夜の山はとても静かで、音がよく響く。隣のテントで人が動く音もはっきりと聞こえるほどだ。テント設営は、騒音レベルの音だった。

山を登る者にとって、睡眠不足は最悪の場合、滑落などの事故につながる可能性すらある。正直、やっかいそうな登山者が来てしまったなと思っていた。

どうしても気になってしまい、外を覗いて見ると、ヘッドランプの灯りでテントを設営しているところだった。暗くてはっきりとは分からないが、若い青年のようだ。設営の手際は、あまりいいとは言えなかった。服装は半袖。9月下旬と言えども、山の夜は冷え込む。標高2450mにあるキャンプ地ではフリースが必要だった。今年、山を登り始めたのだろうか。そう思った。

しかし、彼を見ていると、昔の自分を思い出した。誰に教わるわけでもなく、山を登り始めたころは、僕も登山の常識に欠けていたと思う。日没間際の到着も普通だった。

なんだか、昔の自分を見ているような気がした。僕は、彼に声をかけてみた

「今、着いたんですか?」彼は

「はい。夕日が沈むのを見ていたら、到着が遅くなってしまいました。」と言った。

遅くなる理由までもが似ていて、内心思わず笑ってしまった。放っておけなくなった。

「テントを立てるの、手伝いますよ。」と言って、僕は設営を手伝った。

張り終わるととても感謝してくれて、小声で少し話をした。彼は東京から来ているようで、明日、赤岳の登頂を目指すということだった。

今度こそは寝ようと思ったのだが・・・

テント設営を手伝い終わった後、寝る前にトイレに行くことにした。

キレット小屋のトイレは簡易のものが二つあるだけで、順番待ちの列ができていた。トイレを済ませ、戻ろうとすると、水場で話をした青年が並んでいた。挨拶をして、テントに帰る。

さて、今度こそ寝ようかとすると、テントの外で、自分を呼ぶ声がする。いったい誰だろうと思って外を見ると、水場の青年がいた。

「もし、よろしかったら少し話でもしませんか?」と言う。時間は19:30。話し声で周りに迷惑をかけることが心配だったが、20時位までならば平気だろうと思い、

「いいですよ。30分ほど話しましょう。」と答えると、彼はテントの前に腰を下ろした。僕は

「狭いけど、もしよければテントの中にどうぞ。」と誘って、テントの中で話をする。

山岳用のテントはとても小さい。窮屈な状態ではあったが、旅行や山の話に花が咲く。

20時が近づくと、彼はフェイスブックの友人申請に必要な情報を教えてくれて、帰っていった。

水場の青年が去った後、寝袋に入って寝ようとするのだが、今度は、夜遅くに到着した青年が食事を作る音でなかなか眠りにつくことができない。けれども、夜到着の青年とは先ほど話をしていたために、腹立たしさはなかった。声をかけてよかったと思った。彼のことを全く知らなかったら、いら立ちを感じていたことだろう。うるさくて寝られないことには変わりはないけれど、気分的には、いら立ちを感じない方が絶対にいい。会話を交わすことの効能を再認識した。

22時くらいだろうか。夜到着の青年も寝たのか静かになり、やっと眠りにつくことができた。長い一日だった。


<山登りのススメ Vol.5 ~八ヶ岳 その4~ へ続く>

 山登りのススメ Vol.5 ~八ヶ岳 その4~
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キレット小屋

Text & Photo:sKenji

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