屋久島で出会った、自転車で日本一周をする男【旅レポ】

tanoshimasan

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口永良部島(くちのえらぶじま)という島に行く予定だった日、ちょっとしたアクシデントで船に乗ることが出来ず、屋久島で1泊することになってしまった。
(口永良部島へは屋久島を経由しないと行けない)

宿泊したライダーハウス「とまり木」は1泊2,000円。屋久島としては一番安いと言って良いかも知れない。

そこの宿に泊まっていた人たち、出身も屋久島に来た理由もばらばらな6人の中で、「福島から自転車で日本一周をしている」というカナザワさんという人がいた。彼は、僕より1つ年上。屋久島の時点で旅立って200日近いとか。眼鏡をかけたインテリ風の風貌とは裏腹に、さすが自転車を漕ぎ続けてきたとあってか、かなりがっしりした体格だった。

日本一周しているのに、知らないことだらけですわ

僕からすれば、このカナザワさんこそ、どう見ても色々話を聞きたくなるような雰囲気の持ち主だった。が、日本一周をしているカナザワさんには、50~60といくつも島々をめぐり、それを記事にしている僕、そしてその僕から発せられた「口永良部島」という、聞きなれない島の話が気になったのかもしれない。過疎、高齢、人口減少が進む口永良部島の話題を皮切りに色々と質問を受け、いつの間にか日本全国の離島談義になってしまった。

「日本一周しているのに、知らないことだらけですわ」

と、ぽつりと呟いた台詞が、今になっても思い出される。

それこそ僕自身、口永良部島を訪れるのは翌日以降なのに、「じゃあここにどれだけの観光客が行くの」「島の名産はなに」「特産品を作るとしたらなにができるの」と、あれやこれや質問を受けてしまった。知っている範囲の知識で答えつつ、次第に白熱していく議論はなかなかにエキサイトしたと思う。屋久島の隣にある島ながら、口永良部島のことを知っている人がどれだけいるだろうか。そこでの生活がどれだけ想像できるだろうか。

伝えたいことも、無知なことも多い

そんなカナザワさんはカナザワさんで、福島から自転車でひたすら南下、沖縄で折り返して屋久島に来ていると言っていた。福島の実家は、「東日本大震災の影響で放射能の除染地域だ」と笑いながら自己紹介してくれた。被災後はボランティア活動などをしているうち、自分のやりたいことをしたい!という衝動から、自転車で日本一周に踏み切ったそうだ。

日本一周をしていて感じること、それは震災の風化だという。福島の実家を出発し、離れれば離れるほど、その気持ちが強くなっていくと言っていた。出発前、カナザワさんは所属していたボランティア団体にて、南相馬の旧警戒地域に花の種を植えるという活動をしていたそうだ。自分自身が被災者になり、初めて地域と向き合うようになった。現在の日本一周を始めるにあたっても、被災体験の影響は大きいらしい。「旅をしながらでも被災地のことをもっと伝えていきたい」と言っていた。

そして、震災の風化を感じているカナザワさんでさえ、日本の細部とも言えるだろう、離島が抱える諸問題についてはまったく知らなかったと言う。僕は僕で、離島こそ色々見て回ってきたが、被災地に関しては、現場の外から知り得る程度の知識しかない。お互いに、それぞれ「伝えるべきことがある」と感じているのに、お互いに無知な部分はトコトン無知だと知る。だから彼は、僕が見てきた島々に興味があったのかも知れない。

結局のところ、それぞれがそれぞれ、見たい景色を見て、伝えたいものを伝えて行こう。という結論で終わった気がする。というより、さすがに夜も深くなり、睡魔にも勝てなかっただけのこと。意図せず僕が話題の中心になってしまい、21時に始まった離島談義は翌3時ごろまで続いた。それでも、不完全燃焼だったのが正直なところで、本当はお互い、もっと尽きないレベルで話したい気持ちがあったと思う。それでも20代半ばの2人、「体力の衰えを感じますねぇ」と苦笑しながら、僕は3段ベッドの2階へもぐりこみ、就寝。一方、カナザワさんは「とまり木」の庭にあるテントへ戻っていった。800円で1泊出来るのだそうだ。

自分にはなかった視点から物事を知ると、世界が広がって行く

翌朝、僕はカナザワさんに挨拶し、出かけた。見るからに充実しているテントや装備品、脚となる自転車も左右に荷物が括りつけられ、「日本一周」という旗が立っていた。自分と同じ世代で、ここまで気合の入った旅人がいただろうか。何かが間違っていれば、例えば同じ会社に勤め、疲れた仕事の帰りに居酒屋に立ち寄り乾杯し、日々の愚痴に花を咲かせていてもおかしく無いような、そんな男2人だったかも知れない。きっと、スーツでだらだらと繁華街を歩いていても、それほど違和感はないだろう。

僕はそのまま口永良部島へ行き、彼はもうしばらく屋久島へ滞在したのち、九州を北上。「最近は京都あたりまで来ている」とFacebookでのやり取りで知った。「そろそろお金もなくなるし、福島に戻ろうかな(笑)」とも。

屋久島でひと晩喋っただけに過ぎないのだけど、旅先では、こうしていつまでも印象に残る人がいる。何かのきっかけで、また話す機会があれば面白いな、と。お互い、違う景色を見ているからこそ、たぶん、またそれが新鮮だったりすると思う。

「ん~、やっぱ人に会うっていいですね。自分一人だと考えが凝り固まってしまうことが多い。こうして自分にはなかった視点から物事を知ると、世界が広がって行く!物事の見方は人によって三つも四つも百もある!ネット含め日々情報に溢れる世界ですが、異なる視点で見るクセ、それを忘れちゃならんな~」

屋久島で話した日の夜、カナザワさんはご自身のブログにこう記していた。僕もまた、彼から同じことを学んだ気がしている。そして、今度は僕の話をするよりも、日本一周の話をもっと聞いてみたい。

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