非オススメ!白谷雲水峡への無謀な挑戦(屋久島)【旅レポ】

tanoshimasan

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 離島好きの私であるが、その原点とも言うべき島を挙げるなら屋久島である。

 大学生当時所属していた部活動が「ユースホステル部」という部活で、春夏の長期休暇を利用しては男女、学年の垣根を越えて10泊前後の合宿旅行に出かけていた。その初参加が1年生時の夏休みであった。行き先は国内であればどこでも良かったのだが、なんとなく「今後の人生で行かなさそうなところ」という理由で屋久島を選んだのを覚えている。屋久島合宿には7人が集まった。1年生ながらに一定の仕事を任されるようで、私は10日間の行程のうちの丸一日のプラン作成を担った。 旅行計画など初めての経験だった。とは言え、後になれば分かってくるのだが、屋久島に10日も滞在するなら行程の相場は決まっている。天候にもよるが、体力のある序盤に山小屋泊の宮之浦岳登山をこなし、終盤は島内の施設などを巡るのだ。既に上級生のリーダーが、大筋のプランを立ててくれていたので、大体の観光名所は既に行程に含まれていた。めぼしい観光名所の中で残っていたのが、もののけ姫の森と呼ばれる「白谷雲水峡」、ウミガメの産卵名所として知られる「永田浜」だった。どちらかを選んで行動予定を立てるだけのシンプルな仕事のはずである。

 ところが、私は妙に張り切ってしまい、オリジナリティ溢れるプランを目指し、どちらも公共交通機関を使えば良いものの、「自転車で行こう」と提案したのだ。「これを見て下さい。それほどの距離じゃありません。」とgoogle mapを見せると先輩らも承諾。すべてが順調に見えた。はずだった。

「google mapでは等高線は見えへんかったなぁ」

 こうして屋久島合宿が始まった。合宿と呼べば聞こえはいいが、自然に親しむことを趣旨とした活動であり、結局は観光旅行だ。3日に及ぶ宮之浦岳登山で有名な縄文杉やウィルソン株を楽しんだあと、海水浴、キャンプに大川の滝(おおこのたき)見学と、ザ・屋久島を堪能した。天候にも恵まれ、一行に多少の疲れはあるものの、非常に充実していた。それまでは。   朝は8時に出発した。快晴だが、からっとしていて走りやすい。ところどころ、景色が良いところで止まっては、仲が良くなったメンバー内で写真を撮り合ってた。すこぶる元気である。「なんだ・・・、行程組むって言ってもそんなに難しく考えることなかったな」そう思った。

 しかし、それも束の間である。出発後1時間くらいからどうも様子がおかしい。完全に上り坂である。「白谷雲水峡」通称「もののけ姫の森」。「森って言ったら森だよね。山とはまた別モノだよね。」自問自答する。いつの間にかメンバー内に会話がなくなっていた。 さらにしばらく歩く。そう、歩くのだ。ゴールのわからない道をただひたすらに。いつの間にか自転車は無用の長物と化していた。

 それでもメンバーは、誰もが高校時代運動部の出身。私も弱音を吐いたら負けだと思っていた。みんなもそうなのか、もしくは企画者とは言え1年生の私に気を遣っていたのか、誰も何も言わない。ただ、そんな中で先輩がぽつりと独り言をつぶやいた。 「google mapでは等高線は見えへんかったなぁ」

 
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1、2、3、ダーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 さらに道のりは続く。疲れを通り越したのか、気分まで滅入らないするためか、口数は回復していた。先輩が「あー喉がかわいたー!」とか言う。水は持っているのに。早く飲みすぎてしまわないようにペース配分をしているのだろう。頭の中でひたすら謝った。本当は声に出して謝るべきかもしれなかったが、全体の士気に関わる気がして声には出さなかった。 実は序盤から、私は「真逆の嫌な予感」がしていたのだが、そちらが見事に的中した。適切な表現はわからないが、強いて言うなら雲が追ってくるという感覚か。登り始めて4時間半が経過した頃、辿っていた道が雲に覆われている。不思議な光景である。「島の天気は変わりやすい」などというのは、詳しく知らないが海と気流の関係らしい。とりあえず、道路を這うように、本当に雲が迫ってくるのだ。仲間のメンバーも笑いながらではあるが、「怖い!怖い!」と迫る雲に身構えた。

 「わっ、来る来る!・・・1、2、3・・・ダーーーーーーーーーーーーーーーーーー」 ダー----------------------。素晴らしいくらいに呼吸が合い、大雨が降ってきた。しばらく雨宿りをした。喉が渇く心配とは真逆の心配、つまり水を飲むペースは気にする必要はなかったのだ。ありがたいことに、メンバーは休息と水分補給することが出来たため、元気を取り戻した。(雨のあとは至る所から滝の水や湧き水が溢れるのも屋久島の特徴)今思えば、あれは南の島のいわゆる「スコール」だったのかもしれない。20分ほどで雲はさっと晴れ、「白谷雲水峡」と思しき看板を遠めに見つけた。

滞在時間1時間

 早くもアスファルトが渇きだしていた。「白谷雲水峡」の看板を遠めに見てからさらに15分くらい経った。朝方は色んな車やバスが7人を追い越して行ったが、今は帰りの車やバスが7人の横を通っていく。どうでも良いが、その車やバスに乗っている人のほとんどが、「二度見」か「凝視」だ。「えっ、今から!?」とでも言わんかのように。再び汗が出始めたころ、ようやくたどり着いた。 白谷雲水峡!

 到着時刻は14時30分を回り、実に出発後6時間半が経過していた。 白谷雲水峡には2時間、3時間、5時間のコースがある。あるが、入林管理のおじさんが「もう16時過ぎには下山した方がいいよ。」と言う。そしてこの疲労だ。言っていることはもっともである。「それでもせっかく来たんだから・・・」と、入林料金300円を支払った。

 そうして歩くと、唐突にうぐいすのさえずり、川のせせらぎ、降り注ぐ太陽光、その光をより一層引き立たせる雨の滴の反射、しかしそれだけでは到底筆舌に尽くしがたい、なんとも言えない光景が広がった。それは割とすぐに出会えてしまった。地図を見ても入口からほど近い場所だとわかる。恐らく、この先もっともっと美しい景色が待っているに違いない。 

 
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また、来よう。

 こうして16時ちょうど、一行は白谷雲水峡をあとにした。

 時間的な理由もあった。事前に「これは見たいね」と言い合っていた場所もあった。それでも名もなき幻想的な光景にばったりと出会った時、恐らくみんな満足してしまっていたように思う。これで良かった。また来よう。 帰りの坂道、これがまたありえないほど楽しかった。自分たちが最後に白谷雲水峡をあとにしたので、後ろから追ってくる車は無い。ひたすら下り坂で風も気持ちいい。これもまた、何とも言えない快感である。そりゃあそうだ。

 白谷雲水峡まで自転車で登った奴なんて、まず他にはいないだろうから! そして宿に着いたのは16時50分だった。先輩から「楽しかったよ」と告げられ、私は陰で涙をぬぐった。

 

 それはそうと、往路6時間、復路50分って・・・。

 
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