へきんこ亭新館にあるロケットストーブ
口永良部島・湯向(ゆむぎ)集落にあるへきんこ亭新館。このへきんこ亭新館を管理する山地竜馬さんが、ご飯を作ってくれると言うのでそのお言葉に甘えることにした。
「何ができるんだろう?」と、すっかりくつろいでいると、山地さんは冷蔵庫から野菜や鹿肉やらを取り出した。これらは島の人に分けてもらったものだと言う。それらを手際よく炒めだした山地さん。この人口10人程度の小さな集落で一人暮らしをする、山地さんの馴れた手つきにも感心したが、僕にはそれ以上に目を奪われるものがあった!
それが、山地さんの使っている鍋の下。安定した火力を維持するコンロだった。いや、正確にはコンロでもない。空の一斗缶を3個ほど組み合わせて作ったL字のような見た目で、下の方で薪をくべると、上からコンロのように火が出てくるのだ。山地さんは薪をくべては炒め、くべては炒めを繰り返していた。
「うわ。なんですか、それ。初めて見ました!」
僕が思わずそう言うと、それが“ロケットストーブ”だと教えてくれた。
嗚呼、学生時代
僕は学生時代、部活動を通じてそれなりにアウトドア経験があるのだが、キャンプなどで「ご飯をつくる」と言えば、もっぱら火起こしの役割だった。
火起こしと言ってもそう簡単なものでは無く、キャンプ場で買えるような薪は火の通りが必ずしも良いとは限らない。おまけに燃えかたにもムラがあり、鉄板にしろ、飯ごうにしろ、火が通りすぎるところもあれば、まったく火が及んでいないところもあったりした。
それでも、女の子たちからは「男の子なんだからー」とか言われ、新聞紙を燃やしては薪の様子を伺ったものである。結果的に、できる料理はそれほど美味しくなく、それでも、「素人だから」と開き直り、その場の楽しい雰囲気で誤魔化していたのだ。
ところがところが、このロケットストーブはどうだろうか。
「その辺で拾ってきた」
という竹を7~8本、ロケットストーブに入れて火を点けただけ。あとは中の様子に応じて継ぎ足すだけで、ガスコンロとあまり変わりの無いスタイルで調理ができているのだ!何といっても火の効率が素晴らしく、薪も「それだけでいいの?」と思うほどの少量で済んだ。
人間の知恵って素晴らしい!
外から見る限り、一斗缶の見た目そのままであり。ただ、中ではちょっとした工夫が施されているらしい。道具さえそろえば、わりと簡単に作られるそうだ。
キャンプ慣れした人にとって、それほど珍しいものでは無いかも知れないが、都会で日々暮らしているならば到底見られない代物である。プロパンガスを導入するとしても離島なら高くつくと聞いていただけに、口永良部島にとってはかなり相性の良い道具かも知れない。
見れば見るほど「コイツは凄い」と思えてきたので、翌朝、キッチンを借りてロケットストーブを使用してみた。
しかし、やってみると意外に忙しい。野菜を切って、火を起こし、炒め始めて、薪追加、再び炒めて、薪追加・・・。いつもの料理に比べれば、ばたばたしてしまった。
とは言え、これが面倒だったかと言えばそれほどでもない。十分、一人で作ることが出来たし、料理も旨いのだ。男女で役割を分担し、仲間の顔色をうかがいつつ、必死になって火を起こした学生時代のキャンプに比べたら、これは感動ものである。
食べることの苦労とありがたみはもちろん、その上で、人間の知恵にも敬意を払いたくなる。そんな食事になった。
へきんこ亭新館(移住・交流体験施設)
管理:山地 竜馬さん(一般社団法人へきんこの会代表理事)、Tel:080-1492-1720
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