1.「地域ぐるみで働く」その理想形を見た気がした

tanoshimasan

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口永良部島・本村港
口永良部島・本村港

何気なくかわす挨拶「あ、この島もか」

「ようこそ口永良部島へ」

「ようこそ口永良部島へ」

鹿児島港から屋久島港と船を乗り継ぎ口永良部島へ。島を降り立つと「緑の火山島」という異名にふさわしい緑の山がズンと印象的です。

島に降り、どうしたら良いかわからないでいると、作業着の男性が近づいてきて、

「山地さんに会いに来た人?山地さんはこの先の建物で手が放せない仕事をしているんで、そっちまで行ってもらって良いですか?」

とのこと。僕が訪ねると、山地さんは船のチケット販売とその会計に追われていました。それがひと段落したかと思うと、今度は島の運送会社・久木山運送での仕事があると言います。山地さんは

「そこにバイクがあるから、好きに散策してもらっていいですよ」

と僕に告げ、仕事に戻っていきました。どうやらかなり忙しい様子です。

本村集落

本村集落

早速“島旅力”が問われている気がしました。とりあえずバイクにまたがったものの、「さて、どうしようか」というところです。このあたり、観光ツアーや送迎などに身を任せることもできる屋久島とは違って「自分で考えて動く」ことが求められている気がしました。僕は当初の目的のひとつ、「島での生活やその姿を、実際に見る」ため、とりあえず、集落内をバイクで走ってみることにしました。

しばらくバイクで集落を眺めていたところ、ふと島の商店(Aコープ)が気になったので入ってみました。お店には店主がひとりと、お客さんは僕以外に、ついさっきまで、船で一緒だった若い女性が買い物をしていました。この女性、船を降りるやいなや、そのまま久木山運送の事務所に入り、先ほどまで仕事をしていたはず。それなのに、今は主婦の目つきなのか、買い物かごを片手に商品を眺めています。いやはや、船が到着して1時間足らずでこのフットワークの軽さ!この後はどこへ行くんだろうとぼんやり眺めてしまいました。

商店の前では、島の奥様方が井戸端会議を繰り広げ、下校途中の島の子供たちは路地を駆けまわっています。そんな子供たちに「危ないよ」と笑顔で注意するのは、トラックを運転する島の男性。なんだか、既にできあがっている地域のコミュニティという印象を感じます。ただ、そんな中で子供たちが僕を見るなり「こんにちは」と挨拶をしてくれました。僕も思わず挨拶を返します。旅をしていると、時々こうやって見知らぬ観光客にも挨拶をしてくれる地域があるのですが、この島もそのひとつでした。「あ、この島もか」と思うと、なんだかほっとします。僕の小さいころを振り返っても、こんな光景に見覚えはないのですが、それでもどこか懐かしい気がしてなりません。

その後、僕が堤防の上に腰かけて海を眺めていると、すぐそばにある民宿・山波見の女将さんが声を掛けてくれました。声を掛けてくれたと言っても、本当に立ち止まって世間話をするような感覚で、「どこから来たの?」「私がここに移住して何年もたつけど」「そう言えばこの前ね」などなど。他愛のない会話だったのですが、見ず知らずの人と屋外で立ち話をするなんていつ以来だろうか、とふと思います。1時間くらい立ち話をしているとすっかり薄暗くなりつつありました。いやいや、たしか僕は人見知りだったんだけどなぁ。

そうしているうち、山地さんは仕事を終え、

「このあと20分ほど口永良部島未来創造協議会の会議があるんだけど、すぐ終わるから。それが終わったら牧場へ行きましょう」

と、僕を誘いました。

12月にお会いしたとき、山地さんは「へきんこの会」のほかにも、「いくつも肩書きと仕事がある」とおっしゃっていましたが、「口永良部島未来創造協議会」もそのひとつだそうです。島の活性化を目指す若手の有志団体のメンバーとして活動されているほか、牧場では牛飼いの仕事をしていると言います。先ほどの女性もそうだったように、山地さんもまた、そのフットワークが軽くて驚きます。

一人一人が、島にとってかけがえのない役割を果たしていく

「口永良部島未来創造協議会」の会議は久木山運送の倉庫にて、屋久島町役場へ出張へ行ってきたという久木山栄一さんを中心に行われました。口永良部島は隣島である屋久島を中心とした屋久島町に属するため、口永良部島での決め事に関しても、何かと役場と連絡を取り合い、すり合わせをする必要があるようです。屋久島への船「フェリー太陽」は1日1往復ですから、少し出かけるにも1泊がかりということになります。こういうことも、当事者の会話を目の前にするとなおのこと、その大変さをうかがい知れる気がしました。

また、出張していたその栄一さんでさえ、久木山運送を支える社長という立場を担っています。本業の合間からその時間をねん出し、その間は島で一緒に働く従業員がサポートしているであろうことは、想像するまでもありません。

町営牧場、牛を牛舎へ戻す山地さん

町営牧場、牛を牛舎へ戻す山地さん

会議が終わると時刻は18時過ぎ。牧場へ向かう車の中、僕はようやく山地さんと落ち着いて話せるようになりました。

「今日はちょっとバタバタしててね。朝に仔牛が生まれて喜んでたんだよ。でも、午後には妊娠した別のメスが死んでてさ。今から埋めなきゃいけなくて」

先ほどまで、「口永良部島未来創造協議会」の会議の場で、町役場とのやりとりについて栄一さんと意見を交わしていた山地さん。今度は牛飼いとしての仕事があると言います。それも、生まれた死んだという話です。ただ、これもまた島の日常だと山地さんは言います。

牧場にたどり着くと、生まれた仔牛や死んだメス牛よりも先に、牛舎を抜け出して歩道でくつろいでいる牛が2頭いました。まずはこの2頭を牛舎へ戻さなければなりません。

「悪いけど、その牛を後ろから追ってくれるかな」

と、山地さんが言います。僕は見よう見まねで「行け!」と言うと、牛は素直に牛舎へと戻ってくれました。こんな大きな牛が僕の指示ひとつで・・・。動物と言えば犬猫しか知らない僕にとってなんとも不思議な光景でしたが、そんな感動に浸る間もなく、山地さんは「次は生まれた仔牛を立たせなきゃ」と言います。

なんでも、仔牛が生まれたのは良いものの、その朝、仔牛は自力で立てなかったとのこと。立てない仔牛は自己防衛もできないため、とにかく立たせてあげないといけないのだそう。山地さんは、牛の両脚を持ってなんとか立たせようとします。そうすると、最初は仔牛も子供らしく(?)グズるのですが、次第に脚を震わせながらも自分で踏ん張るようになっていくのです。それはテレビのドキュメンタリーのようで、僕なんかは「立て!頑張れ!」なんて思ってしまいます。とは言え、立てば立ったでホッとするのは束の間のこと。今度は死んだ牛を埋めなくてはなりません。

山地さんは、自分は牛飼いとしては素人だと言っていました。素人から始めたとして、かなり多忙な日々のなかで牛を飼うことは生半可なことではないと伝わってきます。

この牧場を訪れる前、本村にある牛のせり市場に立ち寄りました。

「つい先日、3月5日だったかな。ここも閉鎖になってしまってね」

と山地さん。口永良部島にとって、畜産業は重要な産業のひとつだったと聞いていましたが、島にとって当たり前だった風景の消えていく様子が垣間見えます。命を預かる仕事は容易ではないだけに、山地さんが牛飼いに挑む意気込みを痛感しました。

山地さんと共に、死んだメス牛のもとへ寄り、手を合わせます。人間よりも大きい亡骸は、ショベルカーを使って埋めるようです。ここで、山地さんと共同で牛を飼っている武石さんという中年の男性が合流しました。

「お願いします」

と山地さんが言うと、武石さんが操るショベルカーは大きな音を立てて、木々を掻き分けていきます。自分の知る限りでは、それは工事現場で聞くような機械音なのですが、音だけを聞いたら、牛を埋めているなんてきっと想像できない気がします。今回、にわかに島を訪れただけの僕は、黙って見ていることしかできませんでした。

こうして、大掛かりな作業を伴いようやく埋葬が終わりました。山地さんが武石さんにお礼を言っていました。牛飼いにおいて素人だった山地さんが、現在に至るまで、この武石さんのサポートも大いにあったはず。そして、山地さんのような担い手がいなければ、本当に近いうちに、この島から畜産業が無くなってしまったかも知れない。そんな気がしました。

町営牧場の牛たち

町営牧場の牛たち

一人一人が仕事を掛け持ちし、島にとってかけがえのない役割を果たしていく。その中で、必要に応じて話し合い、助け合い、小さな作業から時には大きな作業までこなす。その都度、島民が集まり、また離れていく姿は心臓の伸縮のようにすら思えます。まさに地域ぐるみで働く姿を間近で見た気がしました。

今日一日を見ても、仔牛が生まれた一方で、メス牛は死んでしまった。僕が見たその日がたまたまそういう日だったのかも知れませんが、やはりそれもこの島の日常。

この島で暮らし、生きていくこと。決して容易ではなく甘いものでもない。それでもそれは、とても尊いものに見えてなりません。

「島暮らし体験」から見た口永良部島【体験レポート】
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