変わった看板に招かれて
千尋の滝を見学し終えると16時30分を過ぎていた。そろそろ薄暗くなる時間だが、翌日のお昼には屋久島を離れて口永良部島へ向かう。そう思うと、暗くなるギリギリまで島をめぐりたくなった。
バイクで車道を走っていると、何やら気になる看板がちらほらと目につく。杉の木の板や、タイヤのホイール、カカシのような人形など、なんだかやたらと目立っているのだ。その看板が「キャノッピまであと2分」などと道案内をしてくれている。
「おとぎの国か何か?」
とにかく看板のひとつひとつが手づくりで可愛らしい。ただ、あまりにも可愛らしいので、「20代半ばの男が、ひとりでその場所へ近づいても良いのだろうか」と思いつつ、看板の示す矢印の方向へ進んでみた。
「梢回廊キャノッピ」は、看板が立ち並ぶ車道の脇にあった。どういう建物だろうと覗いてみると、「目の前でしぼる生ジュース あります」なんて書いてある。
「喫茶店か何かかな?」
喉が渇いていたので、立ち寄ってみることにした。
100円でこんな贅沢・・・良いのかしら
時刻は17時ちょうど。シャッターを下ろしかけていたオーナーが僕に気付き、閉館間際にも関わらず、ジュースを絞ってくれた。島で採れるセミノールという品種のみかんで、皮が薄く、果汁がいっぱいだという。
「酸っぱいけど、大丈夫?」
と、聞かれたが、程よい酸味がちょうどよかった。
ちょうど建物の向かいにウッドデッキがあったので、そこでジュースを頂いた。ふと、周りを見渡して見ると、先ほどの看板はじめ、建物まで木材尽くしで手作り感が溢れている。セメントやレンガではなく、木材のみで建てられており、森の中にお邪魔しているような感覚だ。小鳥の鳴き声と風のざわめきが気持ちいい。そこに、この濃いめのみかんジュースがたまらない。
長居したいところだったが、閉館間際にお邪魔した申し訳なさが勝ち、僕はジュースを飲み干してその場を離れた。
が、翌日。僕は再び「梢回廊キャノッピ」を訪れた。例のウッドデッキがどうも気に入ってしまったのだ。
なにせ、ジュースは100円で生絞り。味が濃いぶん、なんだか屋久島のパワー(?)ってのを感じるのだ。そのうえ、屋久島の自然に溶け込むかのような、手づくりのウッドデッキである。しかもただ、落ち着いて癒されるだけでなく、ジュースの酸味が心身に気合を入れてくれるかのような、そんな力強さも兼ね備えている!(気がする。)
上から目線で屋久島体験「キャノッピ」
ここ「梢回廊キャノッピ」は、屋久島の山々を見上げる裾野あたり、いわゆる里地域に作られた遊園施設である。
山岳部の観光ルートばかりが目立つ屋久島。だが、その山岳観光への一極集中が、自然にかける負担も大きいという。そうした実情が出発点となり、千尋の滝近く、モッチョム岳の裾野にあたるこの里地域に遊園施設を開拓したのだ。
「たとえば40人が山道を歩くとして、それを半分の20人に減らせれば、山道への負担も半減するんじゃないかってね」
そう話すのは、ここのオーナーである中田隆昭さん。実はこの「梢回廊キャノッピ」は、ウッドデッキが入口となり、そのまま空中通路「キャノピーウォーク」が続く。島の木材だけで作られた通路はもちろんすべて手作りとのこと。木々の中を高い目線で楽しむコースになっているという。
「地表の上の次に生物が多いのは木の上、意外と見どころがあるんですよ」
と中田さん。「キャノッピ」とは英語“canopy”(キャノピー)を由来にした造語で、「樹のてっぺん」という意味だそうだ。300Mほどのコースになっていて、山岳部とはまた違う、屋久島の景色が見られるという。
「“上から目線”って言うとなんだかエラそうなイメージがあるけど、こういう“上から目線”なら楽しいよね」
と、中田さんは続けた。
聞けば、周辺の木の板や廃材を使った看板や人形もすべて、中田さんが作ったものだそうだ。自然に負担をかけることなく、別の視点から自然に親しむ。随所にそのこだわりが感じられた。
100円のみかんジュースをきっかけに、なんだかスケールの大きい話を聞いてしまった!酸味の効いたみかんジュースに、中田さんの熱いお話。居心地の良さも相まって、すっかり時間が経ってしまった。
そうか、そうとなれば、この「キャノピーウォーク」をぜひ体験して・・・、あっ。
予定の船の時刻が迫っている!・・・あぁ、時間が少ないのにくつろぎすぎてしまった。僕は中田さんにお礼を言い、泣く泣く「梢回廊キャノッピ」をあとにした。
せっかく見つけた癒し&パワースポットである。「また屋久島に来よう」、そう思う理由がひとつ増えた。
梢回廊キャノッピ
電話番号:0997-49-3232(送迎あり)、キャノピーウォーク体験料:(大人1,000円、大学・短大・専修生900円、中学・高校生700円、小学生500円)、生絞りジュース:1杯100円、アクセス:種子島・屋久島交通バス「原入口」停留所下車
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