群馬のペンションで体感した一期一会【旅レポ番外編】

tanoshimasan

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2008年の冬ごろ、僕は群馬県みなかみ町のペンションで働いていた。僕は一人旅の道中だったのだが、「せっかくだから寒い時期は寒い場所にいたい!」と思い、なんとなくみなかみ町をチョイス。泊まった宿が素敵な宿だったこともあり、なりゆきで2ヶ月ほど働かせてもらうことになったのだ。

「台湾からお客さんが来ることになったよ。」

みなかみ町と言えば、群馬県の北端に位置し、北関東で一番と言われるほどの豪雪地帯。夏は谷川岳登山、冬はスキーにスノーボード、通年で温泉が人気の観光地である。僕が滞在していた宿では、主に温泉客をおもてなししつつ、日々雪かきや館内清掃に努めていた。

ある日、宿のオーナーが「たぶん台湾から?お客さんが来ることになったよ。」

と告げてきた。「台湾から!」

宿で働くのは初めてだった僕。それまで大学生として過ごしてきたが、一人旅好きのくせに海外にはあまり興味がなかった。もちろん台湾の人と出会うことも初めてである。まぁ、オーナーがなんとかしてくれるだろう・・・。漠然とそんな風に考えていた。が、「じゃあ、会話は全部任せたよ!話せるでしょ!」

と、オーナー。僕は大学で何を学んでいるかと聞かれたので、なんとなく「中国語を勉強している」と話してしまっていたのだ!勉強しているといっても、必修科目なので渋々中国語を選んだだけである!オマケに成績だって良くはない!何より台湾と中国を一緒と考えて良いのだろうか!(いろいろややこしそうだ!)こうして僕はオーナーから無茶振りをされてしまい、台湾からのお客さんを出迎えることになってしまった。大丈夫なのだろうか・・・。

何を話せばいいかわからない!

台湾からのお客さんは「ウェイさん」という3人だった。年齢と名前がメモされた宿帳を見ると、お母さん、娘、息子にも見えるのだが、ウェイさんが叔母さんで、残りの2人はいとこ姉弟という3人らしい。しかし、ここまでは事前に知らされていた情報である。実際に出迎えるとして、何から話せば良いのだろう。朝からそんなことを考え、気づけば16時。チェックイン受付開始の時間になった。そして・・・送迎車に乗って戻ってきたオーナーが3人を連れてきた。

「ウェイさんが来たよー!」オーナーは堂々と日本語で話しかけているが、確実に伝わっていない雰囲気だった。ただ、オーナーは明るく気さくな性分だったので、3人ともリラックスしている様子である。なるほど。僕も明るく振る舞えば良いのかもしれない!

勢いのまま玄関に行く。笑顔を意識する。「・・・・・・・・!」

「・・・・・・・・。」「・・・・・・・・・・・・・・・・(言葉にならない声)」

何を話せばいいかわからない!「あ、あ、あー・・・あー(ひきつった笑顔)」

僕はとっさに身振り手振りで受付へ案内する。とりあえず、向こうも笑顔なのでほっとした。ウェイさん一行はスキーウェアを着たまま、チェックインした。どうやらスキーをしに来たらしい。僕はこれを手がかりに話しかける。僕はスキーウェアを指さし、渾身の一言!

「スキー?」するとウェイさんはうなずきながら、

「スキー」「オウ、スキー!」

我ながら格好悪いやりとりである。。ただ、この拙い英語がカギになった。最初こそ大学で習っていた中国語を試したが、どうやら発音が酷いらしくすぐに諦めた。しかし、台湾でも日本と同じように、それなりの英語教育が行われているようで、ウェイさん側も「得意ではないが・・・」と英語を話してくれた。僕は英語と台湾の知識を総動員である。何も話せないでいるとお互い無言の笑顔が続いたが、そんな時は観光ガイドブックや、お互いの持ち物を指さしながら、字とイラストを繋ぐ遊びに興じた。

例えば、ミッキーマウスのイラストを指して、文字を書いてみたりしたが、台湾ではミッキーマウスを漢字で書くと「米奇」となるらしい。僕はなんだか驚いてしまったが、こちらがカタカナで「ミッキーマウス」と書くと、「日本人は何種類かの文字を使いこなして凄い」と言われた。おそらく、ひらがな、カタカナ、漢字のことを言っているのだろう。こんなやりとりがいちいち新鮮に感じた。

台湾から群馬県?

話しているうちに気になることがあった。彼らはなぜ、台湾からの旅行で群馬、しかもみなかみ町を選んだのだろうか。みなかみ町は冬には必ず訪れたいほど、雪と温泉が魅力的だが、海外の人間が日本を旅行する際に選ぶような場所ではない気がしたのだ。それについてはオーナーも同意見で、僕らは「渋いねェ」と言い合っていた。

温泉かな?と、思ったが、温泉は苦手だと言う。そもそも大衆浴場みたいな文化は台湾には無いらしい。(僕はこういったことにもいちいち驚いた)料理かな?と、思ったが、代表的な名産品はねぎとそばくらいしかなく、そのねぎも苦手だと言う。そばに至ってはよく知らないらしい。

やはりスキーだと言うが、そうだとすれば、東京から3時間以上かかる群馬を選んだ点が渋い。他にも選択肢があっただろう状況で、群馬に惹かれた理由はなんだったのだろうか。色々質問してみたが、結局最後までわからずじまいだ。改めて、旅の事情は色々だなぁと感じた。そう言えば僕自身、関西の実家を出発して、ふらふら移動しているうちに群馬の宿で働き始めたのだ。その道程を詮索するなんて野暮なことかも知れない。

拙い会話と新鮮な時間と一期一会

ウェイさん一行は5日間の滞在を経て台湾へと帰っていった。学校でネイティブの英語の先生と話すくらいしか、外国の人と話した経験が無かっただけに、拙い会話ながら新鮮な時間だった気がする。3日後、ウェイさんより写メが届いた。それは都内にあるとある牛丼専門店で食事をしている3人だった。と言うのも、群馬から羽田空港へ向かう際、東京でオススメのお店を聞かれていたのだ。片言の英語と筆談でなんとか道案内しただけだったが、ちゃんとたどり着いてくれたらしい・・・。少し感動してしまった。

以来、旅先の出会いが楽しく感じるようになった。あの時間こそ、旅先での一期一会を大切にするようになったきっかけかも知れない。

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