おがさわら丸入港日。島は島でてんやわんや!【旅レポ】

tanoshimasan

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これから南の島の楽園タイムが始まる

穏やかに晴れた日の父島。やはり、晴れていると嬉しい。

 「遊びは終わりだ。」 島内に鳴り響いた汽笛はそう告げているかのようだった。父島に訪れる週に1便の定期船・おがさわら丸。小笠原諸島への唯一の交通手段であるばかりか、食糧や物資といった島民の生活必需品もこの船に乗せて送られてくる。それまで観光客が少なく静かだった島は、島民や長期滞在者にとっては、ひと息つける貴重な時間なのだ。だが、それももう終わり。船がやってきたことを示す汽笛が鳴り響いた。1000人近い定員のおがさわら丸※1が何人乗せているかは知らないが、また忙しい日々が始まる。

 午前11時過ぎ。おがさわら丸の汽笛を確認すると、僕ら宿のスタッフは港に向かう。お客さんの出迎えだ。港にはすでにそれぞれの宿の看板を持った、それぞれの宿のスタッフがずらーり。これは、初めてきたお客さんが迷わないようにするためで、僕も初めて小笠原を訪れた時はこの独特の光景に感動したものだ。 そんな感動も、長期滞在をしてしまえば遠い昔のこと。顔見知りの島民と顔を合わせて、「いやぁ今日はまた暑いッスねー」。仲の良い長期滞在者の子と話しながら、「え?今便はお客さん何人乗ってるの?」。すっかり島民モドキになっていた。

 一方お客さんは元気元気!なにせ、片道25時間半の船旅を経てようやくたどり着いたのだ。これから南の島の楽園タイムが始まるというのに、元気の無い人がいるはずもない。思い返せば、やはり僕もそうだった。 2つの下船口からぞろぞろ出てくる人を待ちながら、名簿と名前を確認していく。人数が揃ったらお客さんの荷物を預かり※2、宿へ送る。到着したお客さんは入館手続きを済ませると海へ山へ、早々に遊びに出かける。宿のお客さんもそれまで10人前後だったが、30人近くまで膨れ上がった。

※1 1000人近い定員のおがさわら丸 → 僕が働いていた当時のおがさわら丸の定員は1036名。現在は768名に変更されている。

※2 お客さんの荷物を預かり → 僕が働いていた宿は荷物を預かって宿まで送っていた。宿は徒歩圏内だが、ダイビング器材など、重たい荷物の人も多い。

おがさわら丸から見た港の風景。島内の宿のスタッフが看板を持ってお出迎え。

入港日の仕事はてんやわんや

 おがさわら丸は一度入港すると、そのまま3日後の出港日まで停泊する。この期間を小笠原では「入港中」と呼び、(島民にとって)忙しい時期を意味するのだ。 さて、昼休憩を過ごした僕らスタッフの “入り時間” も早くなる。16時入りで間に合った夕食の仕込みも14時入りになった。エプロンとバンダナを身に着けて、オーナーの指示を仰ぐ。さぁ、これから忙しい。オーナーは穏やかな人だが、それでも厨房には緊張感が走る。

 アツアツでなくても良いサラダ類から着々と仕上がっていく。作業量が多い。あれもやってこれもやって・・・。午後16時半。あと約2時間で夕食の時間だ。と、ここで問題が起こった。野菜が足りないのだ!! 「あれ?ナスがまだ届いてない?仕方ないなぁー。」

 苦笑いするオーナー。宿ではある程度まとめて食材を仕入れていた。入港日は島の宅配業者が段ボールいっぱいに野菜を詰めて配送してくれるのだが、この日はまだそれが届いていなかったのだ。 「うーん、じゃあちょっと小祝までひとっ走り行ってきてもらって良い?無かったら生協でもいいよ。」

父島の“食”を担うスーパー小祝。入港日の夕方は島中から客が押し寄せる!

入港日のスーパーはてんやわんや

 おつかいを頼まれた僕はエコバックとお金を持って、原付を走らせた。父島のメインストリートには、「スーパー小祝」と「生協」の2つのスーパーが立っている。言うまでもなく、島民の食生活を大きく支える両店だ。 が、今日が入港日という点を忘れてはならない。そう、 “1週間ぶりの仕入れ” を済ませた両店に、島中の奥様が押し寄せるのだ。1600人程度が暮らす島ではあるが、お買い得商品や数量限定商品は間違いなく人気。入港日の買いだめは、父島で暮らすうえでは基本中の基本なのである。

 店に入りきらない食材を置くために、売り場スペースと稼働レジの数を拡張するスーパー小祝。僕は頼まれたナスのほか、「あれば買ってきて」と渡されたメモに書いてある食材をかごに入れてレジに並ぶ。(並ぶ時間もまた長い!) 小笠原の面白いところは、菓子パンが凍って送られてくる点だ。なにせ、25時間の船旅を経て南国の島にやってくる菓子パンである。入港日のこの日が賞味期限日であることも珍しくないのだ。だからいっそ凍らせて、賞味期限は気にしない!これが小笠原流だ。それでも菓子パンは、入港日かその翌日でほとんど棚から消えてしまう人気商品だったりする。

 僕が遅れるだけ、仕事が進んで無いかも知れない・・・。急ぎつつも、恐る恐る宿に戻ると、 「ごめんね!買い物行ってもらってる間にナス届いたわ!(笑)」

入港日に所狭しと並ぶ “凍った菓子パン” 。1~2日でほぼ売り切れる人気商品だ。

入港日は島全体がてんやわんや

 17時半を過ぎた。料理が次々出来上がる。遊びに出たお客さんも戻ってくる。その日は「さっき魚獲ってきたから捌いてよ。」なんて、でっかいカンパチを渡された。昨日まで、「入港したら騒がしくなって嫌だなぁ」とか言ってた長期滞在のお客さん。口ではそんなことを言いながら、今晩の夕食にとカンパチを差し入れてくれる。 オーナーが作った料理を盛り付け、セッティングするのはスタッフの仕事。遊び疲れたお客さんが「お、良いにおい!」とか「今日はなんだ?」とか「あー腹減った!」とか。30数人前を急いで盛り付ける。できたてを提供するだけに、できあがりは当然ギリギリ。だからこそ、最後までてんやわんやだ。

 18時20分、ようやく準備完了。ふっとひと息つくと、自分もお腹が減っていたことに気付く。バタバタし通しの入港日だが、なんだかんだでこれも楽しい。観光客だけじゃなく島全体が、入港中は気合が入るのだ。 

 

 

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