大きい爪あと、でも「小笠原を選んで住んでいるんだから、これくらい平気。」(小笠原諸島・台風シリーズその4)【旅レポ】

tanoshimasan

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(小笠原諸島・台風シリーズ) その1>その2>その3>その4 「小笠原に台風が上陸するらしい。」

 小笠原諸島に滞在中の2009年9月16日、そんなニュースが舞い込んできた。定期船は台風が通過するまで欠航が決定。本州から1000km離れた小笠原の地で、台風をしのぐことになった!

豪風を体感する

(前回より)

小笠原高校のアダンの木。ばっきり折れていた。

 17時ごろ。台風の上陸から7時間以上経ち、ほとんど雨は止んでいた。恐らく暴風域から離れたのではないか。僕らはしばらく漫画を読んでいたものの、避難勧告の解除がいつごろになるかと気になり始めた。

 「ちょっと外に出てみない?」 避難仲間の会社員・Mさんがそう言うのでついて行くことにした。

 外は既に日が傾いていて、足もとは強風に折られたであろう木の枝が散乱していた。なかには幹ごとばっきりと折れたアダンの木もあって驚いた。相当風が強かったのだろう。とは言うものの、上陸から7時間も過ぎたこの時点でさえ、風はかなり強かった。常に風が吹いているわけではないが、時折吹く急な突風が地面の砂を巻き上げ、目が痛くなる。木の枝がまるで真横に飛んでいるように見えたりもした。 「やだ、こんな風だとスカートめくれちゃうね!」

とテンションの高い避難仲間の女性・Hさん。ダボダボのスウェット穿いてるくせに何言ってるんですか! 「風に背中押されて走ったらむっちゃ速いですよ!」

と、こちらもテンションMAXな避難仲間の学生・Tくん。速いのは良いけど、足もと気を付けなよ! などなどツッコんでいる僕も、日ごろ体感したことの無い強風にテンションが上がってしまった。内地に台風が上陸したときとは別の、自然の底力を感じた気がした。これも小笠原パワーなのだろうか。

膝まで水が!海と陸の境目が分からない

水びたしの車道。それでも時々車が走っていた。

水びたしの道路。奥にはバス停がある。

 それから間もなくして避難勧告が解除され、宿のスタッフが迎えに来てくれた。高台の上にある避難所・小笠原高校と違い、宿は海の近い大村集落。車が坂を下りきると、バシャバシャと音を立てはじめた。台風の影響で海面が上昇し、海水が流れ込んでいるらしいのだ! 理科は苦手なのでよくわからないが、詳しい人が言うには、「気圧が10hPa下がるごとに海面は10cm上昇する」らしいのだ。そのため、海面が50cmほど上昇したという。水の勢いがあるわけではないのだが、海を流れてきたであろうブイや外国のごみが道路上に浮いていた。

 雨も風もほぼ止んでいたので、ぎょさん(島のサンダル)を履いて集落を歩いてみたが、場所によっては膝元まで水がきていた。避難所の体育館にはほとんど避難している人はいなかったが、それでも、台風の威力を感じずにはいられない。海の方まで歩いていくと、教わった通り、海面が上昇しており、ぱっと見ただけでは、海と陸の境目が分からなくなっていた。 宿に戻ると、思わずオーナーに「大変でしたね。」と声を掛けた。しかし、オーナーは、

 「床上浸水したわけじゃないし、大丈夫だよ。それより避難所は楽しかった?」と、意に介さない。これでも、まだマシな方らしいのだ。

海のごみが歩道に流れてきた。

海面が上がった海。陸地に海水が流れている。

腹を括って小笠原に住んでいる

 さて、台風から一夜明けた翌20日。台風は小笠原を離れると同時にスピードを上げ、東北地方の東側で温帯低気圧へと変わった。とは言え、この日もさすがにツアー業者はお休み。宿のお客さんたちは相変わらず暇を楽しんでいた。

 僕は宿の漫画を読み切っていたので、アテもなくバイクで島を1周してみることにした。

海水が流れ込んだ道路。海面が下がると砂だけが残る。

葉っぱや枝が散乱し、緑のじゅうたんと化した道路

 海面は下がり、海水も引いてはいたが、昨日の影響で道路が砂まみれになっていた。ところどころバイクではとても走れないので、結局、エンジンを切ってとぼとぼと歩く。また、そこを土木業者がせっせと掃除していた。沿岸部の道路はどこもそんな感じだった。

 一方、山の方へ入っていくと、道路が砂まみれということはないが、強風にやられたのか、木々がバキバキに折れている。恐らく人間の力で折ろうとしても、ビクともしないだろう。それが昨日の強風にやられ、倒れた木が道路をふさいでいた。中には根もとから倒れている木もあり、驚いた。 倒れている木を前に、何やら相談している人がいたので、話かけてみる。

 「道路がふさがれて大変ですね~」すると、

 「ほんとまいっちゃうよな。これがあるんだよ、この島の台風は。」と、おじさん。たしかに、南の島ということもあって、台風の被害は毎度大変なのだろう。僕自身、こうやって島を散策しただけで、内地では見たことの無いような爪あとの大きさを感じている。僕が次の言葉を言えずにいると、おじさんは続けて、

 「それでも小笠原を選んで住んでいるんだから、これくらい平気だけどな。仕方ないよ。」と、飄々としていた。

 元々は無人島だった小笠原。今でこそ2000人以上の人口が住んでいるが、元をたどればみんな移住者である。だからこそ、その割り切り方に思わず感心してしまった。 思い返せば、今回の台風で慌てている人を一人として見なかった。通過前も通過後も、淡々と対応しているのが印象的である。何と言っても、腹を括って小笠原の大自然を選んで住んでいる島の人々だ。台風被害など織り込み済みなのかも知れない。

台風で根っこから倒れた木

倒木を前に話し合う人々

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