当初の旅行計画では、ギリシャの次はクロアチアのドブロブニクを見てイタリアへ渡る予定でした。しかし、ふと東ヨーロッパも少し見てみたくなり、急遽、駆け足で東欧の一部の国を回ることにしました。
ギリシャを後にして、ブルガリア経由で立ち寄ったのがルーマニアの首都・ブカレストです。ブカレストは、バスか電車かを乗り換える際に少し観光しただけだったのですが、印象的な建物がありました。
それは、「国会宮殿」です。
国会宮殿は部屋数3000以上、延床面積で世界第二位の広さを誇る巨大な建築物です。ちなみに第一位はアメリカの国防総省、ペンタゴン。
驚くのはその大きさだけではなく、豪華絢爛という言葉がまさにぴったりと当てはまる内部の部屋にもあります。床は白亜の大理石、壁には金メッキや彫刻飾りが施され、そして天井にはクリスタルのシャンデリア……。
現在はルーマニアの国会で利用されているほか、国際的な首脳会議や博覧会の会場などに使われているのですが、なぜ、これほどまでに巨大で贅をつくしているのか、不思議に思われるかもしれません。
実はこの建物、あのチャウシェスク元大統領が建設を始めたものなのです。
若い方のなかには知らない人もいるかもしれませんが、元大統領は同国に20年以上も君臨した独裁者です。地方の貧しい農家の出身ながらもルーマニアの大統領まで登りつめた人物で、就任当初は国民の支持も高かったといいます。
しかし、しだいに言論統制や自由を抑圧し、国民が困窮を極めているにも関わらず、ひとり贅沢な暮らしをしていたために、1989年に起こったルーマニア革命で捕らえられ、処刑されました。
その最期はニュースで世界中に報じられ、当時中学生だった私も権力の座にあった一国のトップがこのような最期を遂げたことに衝撃を受けたのを覚えています。
つまり、国会宮殿は多くの国民が貧困で苦しんでいるにも関わらず、元大統領が私欲を満たすために造ったものだったのです。
国会宮殿は世界で2番目に大きいだけあり、その内部はとても広大です。観光客はガイドに従い、その一部を見学することができます。
豪華な内装は部屋だけではありません。廊下も同様です。赤い絨毯が敷かれ、壁には絵画がかけられているのです。建物内部は絶大な権力を誇った中世の国王の宮殿を思わせるような造りです。
そのきらびやかさと美しさには思わず息を呑みます。しかしそれと同時に、国民の血税に上に造られていることを考えると複雑な思いにも襲われました。
歴史にも登場するような豪華絢爛を極めている宮殿などは、国民の犠牲の上に造られているものも少なくないのかもしれません。しかし、長い時間の流れがその事実を薄めてしまうのか、そこまでは考えずにただその美しさに感動するものが多いように思います。
しかし、ブカレストにある国会宮殿は比較的最近に建設されたこともあり、多くの人の苦しみの上に造られていることをリアルに感じさせられた建築物でした。
その街並みから東欧のパリとも称されるブカレスト。もしこの街を訪れることがあるならば、独裁者が残した巨大な宮殿に足を運ばれてみてはいかがでしょうか。
国会宮殿
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