6年目の卒園式

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神戸からのお客さんが言うのである。旅先では必ずスーパーマーケットに立ち寄ることにしていると。地元スーパーのマイヤを案内した後、イオンスーパーセンターにも行って産直コーナーの棚にリンゴがたくさん並んでいるのを見て回っていると顔見知りの人。

「緒川さん!」と声をかける。

「また会ったわね」緒川さんと会うのは災害公営住宅のお茶っこやイベント会場などなどで4日連続。

だけど、今日は普段着ではなくちょっとおしゃれな装い。神戸からのお客さんが「春っぽくておしゃれやわあ」と言うと、

「今日は末の孫の卒園式だったの」

「わあ、それはおめでとうございます」×2

「そうなの。背中におんぶして津波から逃げた孫だからね。式を見ていたらおの6年間のいろいろなことを思い出してしまって、涙、涙」

緒川さんはそう言いながら、また目頭を押さえている。

「6年ですもんね」

「6年て、そういう時間なんやぁねぇ」

緒川さんは陸前高田の公営住宅に住んでいるがお孫さんは隣町の大船渡。ということは、となんとなく状況が見えてくる。仮設住宅に三世代が入居することは困難だ。陸前高田に比べると建物や住宅が残った大船渡の方が小さなお子さんがいる家族は暮らしやすかったに違いない。緒川さんの言う6年間のいろいろなことって…

神戸からのお客さんの目も自分の目もうるんだ。

あらためて、もう一度「おめでとうございます」と伝えると、緒川さんの話には続きがあった。

「本当はね、孫たちとお昼を食べる予定だったの。予定だったのだけれど、じいじが帰ってこいって急に言い出して」

陸前高田は圧倒的な男性社会。外から来た人が驚いてしまうくらい。ご主人に帰ってこいと言われれば帰らないわけにはいかない。帰ってご主人のためにお昼を作らなければならない。たとえ孫たちとお昼を食べる約束をしていても。たとえご主人が了解していたとしても。緒川さんの言葉はそういう意味だ。本当に残念そうな緒川さんに、「一緒に食事する機会はまたあるだろうから気落ちしないで」と言うしかなかった。

「そうね、来月には入学式もあるものね」

6年という時間も現実なら、男尊女卑という言葉すら聞かれるほどの男社会であることも現実。そして、そんな状況の中でもお母さんたちが明るく元気に日々を過ごしていることもまた現実。

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