人が減った仮設住宅でいまもイベントが行われるわけ

iRyota25

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被災地では災害公営住宅が次々と完成し、町では新しい市街地の整備が進む。被災した人たちは新たな生活を歩み始めている——。東日本大震災関連のニュースがめっきり伝えられなくなった昨今では、そんなイメージが一般的になりつつあるかもしれない。そのイメージ、一面では正しい。だが現状をまったく捉えていない面もある。

陸前高田モビリア仮設の紅葉(2016年11月)
陸前高田モビリア仮設の紅葉(2016年11月)

かつては100世帯を超えるほどの人たちが暮らした仮設住宅団地が、現在では数十戸に減少しているケースは少なくない。仮設で暮らす人が減ったのは、新しくできた災害公営住宅や自主再建した住宅に転居したり、あまりに長期にわたった仮設生活に見切りをつけて、生まれ育った町を離れていく人が増えているからだ。

住民が減少した仮設住宅団地では、冬の雪掻き要員が確保できないのではないかと危惧する声もよく聞かれるほど。

仮設住宅でのイベントも減った。震災後数年はたくさんの支援団体がやってきて、連日のようにイベントが開催される状況もあったが、いまではその数もめっきり減った。これもまた、仮設の住民の減少を示しているのかもしれない。

そんな状況でも、いまも変わらずずっと支援活動を行っている団体もある。2016年11月、そんなイベントに参加してきた。

陸前高田市のオートキャンプ場モビリアは、震災直後から避難所として、また仮設住宅が建設された場所として、被災した人たちが暮らしてきた場所だ。市の中心部からは車で30分近く離れている。しかし、そうだからこそ、この場所で生活してきた人たちの間には強いきずなのようなものがあることが、イベントに参加して実感できた。

イベントをコーディネートした団体の人によると、当日の参加者はその半数がすでにモビリアを出て行った人だったという。つまり仮設でのイベントは、いま仮設に暮らしている人たちだけを対象にするものではなく、かつて同じ場所で暮らしてきた人たちとの再会の場でもあったのだ。

「同窓会みたいなもんです」と九州出身というコーディネート団体の男性は言う。仮設を出て行ってしまうと、なかなか再会する機会がないから、仮設を舞台に開催されるイベントはとてもありがたいのだと。

震災からもうすぐ6年にもなる。長期にわたる仮設での生活は、決して「仮」のものなどではなくなっている。しかし、仮設で培われた人と人のつながりは、転出によって解かれてしまう。出て行った人たちは再び、新たな場所で新たなつながりを作っていかなければならなくなる。

仮設ではない本設での生活。そこで築き上げられて行くつながりはこれからの人生を支えて行くものになるだろう。しかし考えてみてほしい。たとえば中学から高校、高校から大学などに進んだ際、新しい環境で友だちを作って行くことが、たやすいことだったか、あるいは大変だったか。時には昔の友だちに連絡したり、会いたくなったりしなかっただろうか。

仮設住宅の住民の減少に伴い、支援団体の体制変換や撤退も課題になっている
仮設住宅の住民の減少に伴い、支援団体の体制変換や撤退も課題になっている

人は、人が考える以上に、つながりによって生きている。そのつながりがあった場所が「仮」のものだったかどうかは、あまり関係ない。人と人のつながりは、時間とともに培われて行く。だからこそ、仮設を出た人たちといまも仮設に暮らす人たちが旧交を温める機会として、仮設でのイベントの価値がある。

久しぶりの顔に出会った瞬間の瞳の輝き。おばあちゃんもおじいちゃんも若い人も子どもたちも、かつての友人との再会に目を輝かせていた。イベントが終わった後、「ここは紅葉が奇麗だったのよね」と連れ立って、周辺を散策するグループもあった。

別の仮設集会場でのイベントでも状況は同じ。いまも仮設に暮らす人、災害公営住宅に転居した人が肩を寄せてクラフトづくりを楽しんでいた。

右はいまも仮設に暮らす人。左は新しくできた復興公営住宅に転居した人
右はいまも仮設に暮らす人。左は新しくできた復興公営住宅に転居した人

イベントの後はお茶会。仮設から転出した人が、災害公営住宅の現状を話す。仮設に残っている人たちが相づちをうつ。その場にいるだけで、この土地で暮らして行くことの現実、実像が伝わってくる。

個人情報についてうるさくなった今日、誰がどこに行ったなんて連絡簿を作ることは許されない。親しい人には転居先を知らせるにしても、すべての人に伝えて回る人などいない。しかし、仮設であれどこであれ、人と人のコミュニティは、仲のいい人同士の関係に加えて、それほど仲良くなかった人、あるいは仲が悪かった人も含めてのもの。いろんな感情が交錯するからこそコミュニティは形づくられる。

だから、いまも続けられている仮設住宅でのイベントは、単に同窓会的な価値があるというだけにとどまらない。来てみたら「あらイヤだ、あの人もいるじゃない」ってこともある。苦手だった人も含めて、つながりとか関わりを再認識したり再考したりする機会にもなる。

イベントを主催する団体の担当者は、「仲良しサークルを支援しているわけではない」と言う。仮とされてきた環境が決して仮のものではなく、これからの新しい環境での人と人のつながりに結びついていくものであってほしいと。

仮のものなんかない。いまここにあることこそが、明日につながっていくのだと。

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