おかえりなさい故郷へ

iRyota25

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お盆が過ぎればもう秋、と言われるが、東北では「もうすぐ寒くなる」のが毎年のお決まり。しかし今年は七夕祭りの後も、お盆休みが終わっても残暑が続いている。お盆で里帰りしたひとたちの思いが、真夏日続きの町なかにいまでも残っているかのようだ。

お盆前、大船渡や陸前高田を中心に出店している地元スーパーの店内で、大きな看板を見かけた。入り口正面、野菜売り場の先の鮮魚コーナーの前にでかでかと。

おかえりなさい、故郷へ

もちろん、帰省してきた親戚や友人たちを迎えるストレートな気持ちの現れであるのは言うまでもないが、そのフレーズにさまざまな思いが去来する。

このスーパーマーケットではお盆期間中、変則的な営業時間をとっていた。お盆の入りと中日の開店時間は午前7時、まるで朝市みたいな時間からオープンしたにもかかわらず、店内はたくさんの買い物客で溢れた。

大きなスイカや桃など高級フルーツが売り場からどんどん姿を消していく。鮮魚コーナーのお刺身盛り合わせも高いものから売れていく。そしてレジは大混雑。買い物に熨斗をつけてほしいと希望するお客さんがたくさんいるのもその一因だ。

このスーパーマーケットは、大船渡でも陸前高田でも津波で大変な被害を受けた。罹災した建物は震災後もしばらく残っていたので、その無惨な姿を目にしたことがある。それは言葉で表現できないほどの惨状だった。しかし、その大変な状況の中、このスーパーの陸前高田店では隣あった100円ショップの屋上に避難した人たちと声を掛け合ったり、食べ物や衣類をロープで送ったりしていたことを後に知った。

「MAIYA」は、被災した人たちとともにある地元企業の象徴のようなスーパーマーケットだ。しかし、(ここから先は筆者の憶断に過ぎないのだが)お盆のMAIYAの賑わいはかなり異例なことだった。店舗にもよるが、いつものMAIYAの中にはお客さんの入りの少ないところもある。お店は広くても地の物、たとえばホタテやカキやホヤのような食材が置いてないこともある。おそらくお客が少ないことからくる悪循環だろう。ぜいたくを慎む人たちが多く暮らしている土地に立地しているという事情もあるのかもしれない。

それでも私は、私はビジターではあるけれどMAIYAを応援したい。

震災の前から地元のくらしとともにあったお店が、震災からの復興が進んでいくこれから先も、地元の人たちに頼りにされ愛される店であり続けてほしいと思う。

陸前高田にイオンができて2年になる。石巻や釜石のイオンのように巨大な店舗ではないが、毎日たくさんのお客さんで賑わっている。お盆期間中もまたしかり。地元スーパーのMAIYAと同様に、というかそれ以上にたくさんのお客さんで賑わっていた。

ひと頃は、被災地のまちづくりミーティングで「イオンのある町にしてほしい」という声がしばしば聞かれたという。「イオン」は抜群の集客力の代名詞なのだ。それくらい、全国規模の大企業に向けられる被災地の眼差しには熱い。なぜなら、とにかく「ひと」に来てほしいからだ。「ひと」がいなければまちづくりのプランも立てられない。つまりそれだけ、「ひと」がいないということでもある。

東日本大震災から5年5カ月になる。震災から21年半が経過した神戸はいわば震災からの復興の先輩ともいえるが、その神戸の町では大型店出店をめぐる問題が顕在化したという。しかし事情は東北の場合とは大きく異なる。

神戸で問題化したのは、再開発の名で進出してきた大手スーパーが次々に撤退していったことだという。撤退の原因は、狭い商圏に大型店が林立したことによる過当競争。しかし大手量販店に地元商店が太刀打ちするのは難しい。零細経営の商店は大企業に出店に翻弄され、徐々に客足を奪われ、その後大手が撤退した頃にはすでに疲弊してしまっていたのだという。再開発の旗手であった大型店舗の進出が、地元の活力を削いでしまう——。震災から21年の間には、そんな苦しい出来事ががあったのだと聞く。

むろん、そんな悲劇が繰り返されることはないだろう。

陸前高田のイオンは中規模の量販店として、地元に密着した商売を続けていくだろう。石巻や釜石のイオンのように近隣地域からたくさんの人を集客する絶大なパワーはないものの、日常生活に必要なもののほとんどが揃う陸前高田のイオンはとてもありがたいお店だ。地元にとってなくてはならないお店として未来を歩んでいってくれることだろう。

そして地場のスーパーマーケットとして、やはり地域に根ざしたお店として愛され続けることだろう。

震災から6回目の夏、被災地の景色はどこも大きく変貌している。かさ上げはどんどん進み、道路の付け替えもしょっちゅうだ。かさ上げされた土地での町づくりも進んでいる。しかし、止まらない人口減少という目に見えない変化も続いている。

お盆休み。人々が故郷に帰ってくるひと時。賑わいを取り戻したように見えたスーパーマーケットから、町の将来が案じられた。

カツオの刺身「58円」というのもおかえりなさい価格?
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