子どもの本の専門店クレヨンハウス、女性の本の専門店ミズ・クレヨンハウスを東京青山、大阪江坂で主宰される落合恵子さん。1976年に開設され、全国各地からさまざまなお客様が絶えることなく集まっています。ラジオ局の人気アナウンサーとして活躍された後、作家として執筆活動に入り、その一方で膨大なエネルギーをもって立ち上げられた店舗は、いまや誰もが憩いの場として立ち寄る人気スポットに。常に多面的に物事を捉えることのたいせつさを説く、落合恵子さんにクレヨンハウスに託す思いをお聞きしてみました。
落合 恵子 (おちあい けいこ)
1945年、栃木県宇都宮市に生まれる。
明治大学英米文学科卒業後、1967年文化放送入社。アナウンサーを経て、作家生活に入る。
執筆活動だけでなく、東京・青山と大阪・江坂に、子どもの本の専門店[クレヨンハウス]と女性の本の専門店[ミズ・クレヨンハウス]を主宰。具体的なスペースを1976年から提案している。
オーガニックな育児雑誌[月刊クーヨン]発行人。
日本文藝大賞女流文藝賞、サンケイ児童文化賞その他、受賞。
最近の主な著書、『だんだん「自分」になっていく』(講談社)、『こころの居場所』(日本看護協会)、『メノポーズ革命』(文化出版局)、『サヴァイヴァー』(紀伊国屋書店)、『わたし三昧』(徳間書店)、『親の悩み方』(河出書房新社)、『午後の居場所で』(朝日新聞社)、『絵本だいすき!』(PHP研究所)、『人生案内 ―自分を育てる悩み方―』(岩波書店)、『「海からの贈りもの」が教えてくれたこと』(翻訳 大和書房)、絵本『犬との10の約束』(リヨン社)、『母に歌う子守唄 わたしの介護日誌』(朝日新聞社)、『絵本屋の日曜日』(岩波書店)など多数。
物事を多面的に見ること、一面だけ見て語らないこと
――落合さんは幼少期、どんな過ごし方をされていましたか?
戦後の焼け野原で、何もない時代でした。でも、遊びに関しては子どもは天才ですから、木の切れ端、釣り、野山を駆けたり、自然がたくさん残されていたので遊ぶのには事欠きませんでした。
――落合さんは、どんなタイプのお子さんだったのですか?
子どもをタイプに分けるのは間違っていると思います。つまり、活動的でもあり内気でもある。一人の人間がいろんな面をもちあわせている。大人が思うほど枠にはめられないでしょうし、はめてはいけない。私の小学生時代は、花や虫など図鑑が好きでした。当時、大人が喜ぶ本、お姫さまの本では満足いかず、事実をドラマティックに描いている本に惹かれました。絵本は戦中戦後ほとんど無い状態で、戦後しばらく経ってからやっとさまざまな作品が生まれた。私の幼少期には書籍そのものが少なかったのです。
――今、物が豊かになってクレヨンハウスにもたくさんの親子が訪れていますが、立ち上げられた当時は先駆け的な意味でも色々なご苦労がおありだったのではないでしょうか。
何でもそうでしょうけれど、何かを新しく立ち上げる時は思い入れもありますし、エネルギーは費やせるものです。でも、難しいのは継続していくこと。立ち上げた頃の思いを広げつつ、深めつつ続けるのは大変なことです。クレヨンハウスは、絵本と女性についての書籍と、オーガニックな素材にこだわった商品を販売しています。それらどれもたいせつ。どれかを一番にしないこと。誰かが幸せになるために、犠牲にならないこと。すべてがオーガニックの考え方に結びついているのです。
――お母様は落合さんにとってどのような存在でいらしたのですか。
身近な大人の中で一番尊敬できる大人でした。母と出会えたことは本当に幸せでした。感受性豊かな人で、声を荒げて怒るようなことはまずありませんでした。そして、教養のある人で、決して人を選別しませんでした。本に関して言えば、私はたくさん読みましたが、自分のお小遣いの中で計画的にどの本を買うか、考えるプロセスも『読む』うちに入っていました。机の上の学歴がすべてではないことを教えてもらいました。
――クレヨンハウスはいつもたくさんのお客様がいらして盛況ですね。クリスマス間近ですと、特に平日でもいっぱいです。
私は、立ちどまりの瞬間がクレヨンハウスなのだと思っています。例えば、環境ホルモンが今ほど騒がれる時代より前から、子どもが安心して口にでき、触れるおもちゃを見つけて販売していました。たちどまって、新しい気づきをもつことは生きていくことを豊かにします。気づける場所を提供しているのが、クレヨンハウスという場所です。今の時代、疲れている人、うまくいっていない人……『ウツの時代』ともいえます。皆が忙しい時代ですが、ちょっと休める所、しゃがんでしゃべる場所が求められているのではないでしょうか。クレヨンハウスはそうした社会的意味合いの場を提供するだけでなく、たくさんのお客様に育てられてきて今日があります。
――素晴らしいですね。今の子どもたちはクレヨンハウスのような場所でたくさんのいい本やおもちゃと出合えて幸せだなと思いますが、落合さんは今の日本の子どもたちをどのようにお感じでしょうか。
東南アジアは貧困だけれど、目の輝きがある。日本は豊かで恵まれていますが、格差は広がる一方。どこに生まれるかで人生決まってしまうくらいですが、子どもの目は淀んでいるかもしれない。『子どもたち』という集団で括るのではなく、一人ひとりの子どもに個性があるのです。それぞれの人間について語っていきたい。クレヨンハウスから発行している月刊誌『クーヨン』では、育児は親自身が育てられているという考え方をもとに、暮らしの情報を発信しています。
――子どもの習い事については、落合さんはどのように捉えていらっしゃいますか。
私は、子どもが選択すること。好きなことであれば、何でもやってみればいいと思います。子どもが選んでいるのか、あるいは社会が選ばせているのか。子ども自身が好きなことを選択できるのが大切なことで、子どもの習い事自体何を選ぶのがいいかではありませんよね。大人は、もっと大切なことを伝えるべきではないでしょうか。
何になるかより、どう生きるか
――大人の側に語るべきことばや経験がないと、なかなか子どもに伝えていくことが難しいのではないでしょうか。
一人の人間が経験できることは限られています。どれだけ自分が素敵な大人になっているか、なんですね。何になるかより、どう生きるかなのです。平和を実現するために、どうすべきか。人として命をどれだけ大切にできるか。戦争や貧困は世界からなくなっていない。自分に何ができるかを考えることのできる教育が本当は必要なのだと思います。
――物事の捉え方、一面だけを捉えない見方はすべてのテーマに問われますね。
――なるほど。では最後に、これから取り組まれたいテーマは?
これまで取り組んできたことを広めること。深めること。クレヨンハウスのテーマそのものです。
編集後記
――ありがとうございました!とても緊張しながらのインタビューでしたが、私の夢は「地元に小さなクレヨンハウスのような場所を作ること」ですので、おこがましいとは思いつつ、落合さんにそれをお伝えしたところ「次世代に伝えていくためにぜひやって」と応援してくださいました。ありがとうございます。何になるかより、どう生きるか。子どもよりも先に、親のほうが問われているのかもしれません。クレヨンハウスは、ほっと一息できる場所。そして、いろいろなことを考えるきっかけになる書籍や商品を取り扱っていらっしゃいます。どうぞたくさんの素敵なモノと出合いにお出かけください。
取材・文/マザール あべみちこ
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