5年前に出産してママクリエイターとなり現在は静岡県の海沿い地域で子育ての一方で創作活動に取り組まれている田中清代さんが登場。代表作「トマトさん」は多くの人を魅了し続けています。絵のうまい幼少期、スローライフな子育て、来秋発表の大作についてもお聞きしました。
田中 清代(たなか きよ)
1972年、神奈川県生まれ。絵本作家、銅版画家。多摩美術大学油画・版画専攻卒業。在学中に絵本の制作を始める。1995年、イタリア・ボローニャ国際絵本原画展でユニセフ賞受賞、翌96年同展で入選。作品に『おきにいり』(ひさかたチャイルド)、『おばけがこわいことこちゃん』(ビリケン出版)、『みつこととかげ』『トマトさん』(福音館書店)、『ねえ だっこして』(文・竹下文子、金の星社)、『長靴をはいたネコ』(文・石津ちひろ、ブロンズ新社)など著書多数。12年に出産し、現在は静岡県伊東市在住。
褒められる環境が才能をぐんぐん伸ばす。
――私は6年ぶりの再会ですが、母となった清代さんに今回改めてお話しを伺います。まず、絵本作家となったきっかけは?
大学時代に絵本創作研究会で絵本を創って発表する活動をしていました。自分で創った絵本を人に見てもらうようになり、卒業までに4~5冊創りましたがその作品は全く仕事にはつながりませんでした。でも自分が好きな絵本とか、絵本で表現したいテーマを培うことができ、創りながら「絵本っておもしろい!」と思いました。外で展示をすると「いいじゃない!」「プロになったら?」とギャラリーの人やお客様に結構褒めてもらえまして、それでその気になりました(笑)。
――繊細で緻密な絵は見入ってしまいます。褒められると伸びますよね。
絵本サークルでは、出版社の協力を得て絵本ができるまでを取材したり、絵本の専門店がどんな本を置いているかのリサーチ、公募展の情報シェアなどをしていました。その延長にプロデビューがあります。就活はせず、大学卒業後はアルバイトをしながら絵本作家として仕事をしていくつもりでしたが、何も決まっていたわけではなかったのです。突き詰めていくと幼少期に遡るのですが。
――絵本作家になる確信があったのはスゴイですね。幼少期のどんなことが絵本作家への道につながったのでしょう?
3~4歳の頃、塗り絵をする時に水性のマーカーしかなくて。塗っていたらたまたま隣同士の色が滲んできれいな色になった。本当にたまたまだったのに、それを見たおばあちゃんが「スゴイ!才能あるわ!」と褒めてくれた。「私、絵が描けるんだわ」と思って、それが今も強烈に記憶されている、自信をもった最初の出来事です。7歳上の姉と一緒に絵を描いたりしていましたが、親も小さい私の絵をよく褒めてくれました。褒められやすい環境があったのは振り返ると大きな要因だったかもしれません。
――6年前にお子さんを授かってから環境も心境も一変したと思います。絵本のテーマに変化はありますか?
テーマに変化はないのですが、子どもに寄り添うものを創りたいという欲望はあるものの手が動かなくて。子育て中で時間がないから、絵が少なめの作品や、軽い作品をやった方がいいのかな…などと思ってみたもののまったくモチベーションが湧かず…。自分の中で消化していないものがあって、そちらを先にやってからでないと次の段階へ行けないように思います。ですから出産前から作りたかった、ボリュームの大きな長編を創り続けています。子どもが2歳になった頃から作っているこの作品は、4年の歳月を経て来秋出る予定です。
漫画も本も読むのが好きな子ども時代。
――自然豊かな環境でどっしり構えて作品に取り組む一方で、子育てもとてものんびりとした親子関係に見えます。清代さんのお育ちになった家庭環境もそうでした?
そうですね。娘とはお腹にいたころから相性がいいと言われていて、赤ちゃんの頃から困ったことがなくて基本的には快適です。今は作品の中で女の子を描くと娘になります。昔描いていたのは幼かった頃の自分でしたから。娘はハサミの使い方が突出してうまくて、これは私の父がテーラーメイドの紳士服を仕立てる職人だったことも影響しているかも知れません。中1の頃に母を病気で亡くして、父は男手ひとつでお弁当作りを始め家事全般を器用にこなしていた人でした。
――早くにお母さまを亡くされて大変でしたね。やはり器用さは受け継がれます。小学校時代の清代さんはどんなお子さんでしたか?
基本的におとなしいのですが、内心すごく自信満々な子で、案外と人気者タイプでした。小学3年生の時に転校を経験しましたが、テレビで「転校生はいじめなど大変だ」という話題があり憂鬱だったんですが、転校してみたらまったくそんなことはなくて。絵を描くと皆が上手!と喜んでくれて、それでまず「絵の描ける子」と認められて、学級委員もやりました。でも、運動は苦手でした。
――その頃から絵がお好きで、ずっと描いていらした?
描くだけでなく、読むことも好きでした。幼年誌、学年誌の「あさりちゃん」「ドラえもん」、コミック誌ですと「りぼん」。自分で漫画も描いていましたが、小学3年生の時に、売っているような完成度の高い漫画が描けず、あっさりあきらめました(笑)。人生経験もなくてお話しも作れないから当たり前なのですが、イラストレーターという仕事もあるからそっちを目指そうと。
――大人びていましたね。漫画以外の本も身近にありましたか?
小学4年生の時に「私の10年後」というお題の作文を書いて、その内容もちょっと大人びていたかもしれません。その頃から小説を読み始めていたことが影響して、ほとんど口語体。作文ですから「ですます調」のはずが、エッセイのような小学生らしくない文体でした。「お酒はたしなむ程度に。のんべえにはなりたくない」とか「タバコはぜったいに吸わないつもり」「その頃、親は*歳だ」なんて他愛もない話でしたが。そうした作文でも、「生意気なんだよ~」とか言いながら、直さず自由に書かせてくれる先生でした。5年生に上がる時の新担任からは、「お前が田中か、良い話いっぱい聞いてるぞ」と(笑)。
銅版画の超大作に詰め込んだ想い。
――習い事はどんなことをされていましたか?
コーラス好きの母と一緒に3、4歳から小学2年生まで合唱団に所属していました。それと姉がやっていたのでヤマハのエレクトーンを幼稚園年長から。小学3年生から高校3年生まではピアノも。続けることが好きなのと、塾通いをしなかったので時間があった。小学1年生になる時、通信教育のテキストを取り寄せて勉強したいと親にねだって、小学生時代は勉強が好きでした。中学生になってすぐの全校テストで一番を取ったら、先生が「国立を目指そう」と言ってくれましたが、努力する習慣はなかったので(笑)。高校受験まで通信教育だけでクリアできたのでよかったですけれど。
――すごく親孝行!勉強をはじめ、育てやすいお子さんだったのですね。清代さん、自信があったのでは?
特別良い子ではありませんでしたが、基本は困らせない子でした。でも親との葛藤もありました。常に遠慮しがちで、我慢して言いたいことが言えず、10代の終わりから20代の終わりまで10年間位過食症でした。誰にも相談できず独りで抱え込んでしまったので治すのに時間も掛かりました。母を早くに亡くした寂しさや、父は献身的な人でしたから、人とぶつかったり発散する機会がなく、甘えられなかった。父とは話しにくい時期がありましたけれど、ある時ドバっと言葉にして吐き出したらスッキリして、関係は改善されました。それがトマトさんのテーマ「心の中を素直に言う」となりました。
――そうした心の葛藤があってこそ、人の心に響く創作ができる。今取り組んでいる作品について教えてください。
銅版画のモノクロームの世界で創りたいとやり始めたら、結構大変でして。古い家の屋根裏が舞台となった、女の子が知らない世界に行って帰ってくる冒険物語。64ページの大作で、ストーリーは単純で漫画のコマのようにページが進んでいきます。「くろいの」という声を出さない生き物が登場します。今は絵本のキャラクターが無数にあって、話し始めると身近になり過ぎて普通のキャラになってしまう。ミステリアスな部分を残した設定にしました。普段目にしたり経験した中で感覚的に惹かれるもの。押入れ、屋根裏の暗さ、古い家の梁…日常の向こう側にあるものは想像の世界ですが、本当の世界のように感じたい。ワクワクする気持ちを読者の方とも共有していけたらと思います。
――早く完成品を手にしたいです!では最後に、同じ子育て中の親へ清代さんからメッセージをお願いします。
うちは核家族で一人っ子なので、常に迷いがありながらやっていますけれども、それでいいかな、今の状態でオッケーと肯定しています。私が子どもの頃、習い事をして楽しかったので娘にも何かやらせてあげたいなと思いますが、こればかりは親の目論見よりも先生との出会いが大切であるようです。今家族で通っているのは「めだかの保護サークル」主催の月2回の田んぼ教室のみ。子どもに何か身につけさせてあげたい…と焦らなくてもいい。子どもはこれから身につけることより、今を褒めてもらいたいのだなと感じています。私自身は、都会と比べて選択肢が少ない地域で、お母さんたち自身が企画した幼稚園のワークショップやイベントをやったり、小学校で絵を教えたりと、どちらかというと講師として貢献しています。私もスマホやiPadを与えてしまいがちでしたが、ある時やめてみたら案外なくても大丈夫だとわかりました。映像やアプリを見るよりも、自分の手でモノを作る楽しさをもっと知ってもらえるといいなと思っています。
編集後記
――ありがとうございました!6年ぶりに再会した清代さんはとっても幸せそうなお母さんの顔になっていました。海のそばで時間の流れがゆっくりとした環境で自然を感じながら生活し創作に臨む日々。豊かさってこういうことだな~としみじみ。爪を研いできた時間を踏まえて、アーティストとしてこれからの活躍が益々楽しみです。秋の大作が待ち遠しい!応援しています。
2017年11月取材・文/マザール あべみちこ
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このページは株式会社ジェーピーツーワンが運営する「子供の習い事.net 『シリーズこの人に聞く!第143回』」から転載しています。
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