「テキトー」とは投げやりなことでなく、ありのままを受け入れる姿勢。親も子どもも幸せになる「テキトー母さん」6カ条はシンプルで即実行に移せることばかり。子どもが自立すれば、お母さんもラクに。30年以上の教育現場経験をベースに机上の空論でない執筆や講演活動が人気の立石美津子さんに「テキトー母さん」になるアドバイスを伺いました。
立石 美津子(たていし みつこ)
子育て本作家・講演家。1961年大阪市生まれ。聖心女子大学卒。石井勲氏の元、幼稚園・保育園に漢字教育を普及。平成7年、株式会社パワーキッズ(教室名 エンピツらんど)を創業し幼児教室を主宰。現在は作家、講演家として活動。自閉症児の母。著書に『小学校に入る前に親がやってはいけない115のこと』『読み書き算数ができる子にするために親がやってはいけない104のこと』(ともに中経出版)、『心と頭がすくすく育つ読み聞かせ』(あさ出版)、『はずれ先生にあたったときに読む本』(青春出版社)『1人でできる子が育つ「テキトー母さん」のすすめ』(日本実業出版社)。
子どもは親の作品ではない。
――育児本と呼ばれる書籍がたくさんある中で、立石さんのご著書はタイトルからしてユニークです。「テキトー母さん」について今日はじっくりお聞かせください。子育てに悩むのは当然と思いますが、私が出産した18年前とは違って、ちょっと意識が変わってきていると感じます。今のお母さんの苦悩を、立石さんはどんなふうに捉えていますか?
『人に迷惑をかけない子に育てたい』『どこに出しても恥ずかしくないような子にしなければ』…と考えるお母さんは、「いいお子さんですね」と評価されることで、しっかり子育てしている自分を評価された気持ちがあるのだと思います。子どもの言動が、自分の成績のようになってしまっているのかもしれません。
これまでの育児本には、例えば叱らないで褒めるべし、絵本を毎日読み聞かせしなさい…など正論を掲げています。それができれば越したことはないけれど、そうそう簡単にはいきません。それが逆にお母さん自身を苦しめているのです。
――躾と押しつけは違うものですが、子育て中は自分を客観視できないことも多いので、テキトー母さんの緩さを取り入れてほしいですね。
しっかり子育てするのは大変ですが、テキトーに育てるのは簡単ですよね。「しなければならない」…というルールではなく、テキトーの術を知れば毎日が楽になれるのでは?と考えて書いたのが「テキトー母さんのすすめ」です。これまでなかった概念でしたので、書籍の反響は大きく、広く受け入れられています。現在10刷3万9千部。6月には“漫画 テキトー母さん”が出ます。
――立石さんには高校生になる自閉症の息子さんがおられシングルマザーでもあります。プロフィールを詳細に開示されている点は素晴らしいですが、覚悟もいることでは?
隠す必要はないと思っています。伝えないとわかってもらえないですし、公開することでたくさんの人から理解され手を差し伸べてもらえるからです。30年くらい前と比べて時代も変わって、シングルマザーは多いですし、障害に対する理解も深まっています。昔は“自閉症=鬱病”“殻に閉じこもっている””親の愛情不足で育て方の問題“と誤解されていた時代もありましたが、今はそんなことを言う人はいません。
息子は障害者なので将来働いて自立するのは難しいです。だから私のミッションは2つ。親である私がなくなった後のことを考えて……
・1. 息子が働けなくても生きていけるお金を残してやる。
・2. 息子を支えてくれる人脈を作っておく。
テキトーでない母さんに育てられた幼少期。
――立石さんご自身の幼少期についてお聞かせくださいますか?
勉強も運動もあまりできずビリから数えた方がはやい “出来の悪い子”でした。母は教育熱心で完璧主義でしたので「なぜこれができないの!」と言い続けました。私は記憶にないのですが幼稚園、小学校低学年の頃は椅子に座っていられないなど問題行動も多かったようで、親は学校に頻繁に呼び出されていました。余計に母は「どうして良い子にしていられないの!」と怒っていました。だから、私は「自分は皆と同じようにできないダメ人間だ」と思うようになり、すっかり自信のない子に育ってしまいました。
――目覚めの時期は個人差があります。背丈も勉強の意欲も一律ではないですよね。立石さんの場合は中学生頃に転機があったとか?
中2から高3は大学付属の中高一貫女子校へ編入して、静岡県裾野市で寄宿舎生活をしていました。修道院が一階にあり、その2階の寮でした。まるで修道女のようにチャイムで起こされ、私服は2着まで、洗面器は白かクリーム色、外出禁止…など厳しい規則がたくさん。部屋も中一~高校生まで縦割りの部屋で個室は与えられませんでした。学校と寮の往復しかない勉強漬けの生活は大変でした。でも過干渉な親から解放された喜びのほうが強かったのです。週末や長期休みは東京の家に帰りましたが、親元を離れて暮らせた5年間で母を客観視することもできました。
――テキトー母さんではないお母様がある意味で反面教師なのですね。
でも母に感謝はしています。母も子育てにいっしょうけんめいでしたから。習い事もピアノ、習字、お絵かき教室と何でも通わせてもらえました。
――お母様に反抗せずに従ってこられた立石さんもスゴイ…。では子育てする母にとって、何が一番だいじなことでしょう?
自己肯定感ですね。どんな状態でも認めてあげることです。成績が悪くても、自分の思い通りに育っていなくても、「元気で生きているだけで十分だ」と思ってやることです。私は親から他のお友達と比較され、叱られてばかりいたので自己肯定感や自信が全くありません。親にダメ出しばかりされてきたので、自分にもダメ出しをしてしまう。これを取り返そうと今、本を書いたりメディアに出たがったりしています。実はすごくストイックな性格で、結構自分自身はしんどいしきついんですよ。でも、「もっとこうしないと!」という葉っぱかけは自分にしても、息子にはしません。
「ありのままの姿」を受け入れよう。
――「テキトー母さん」6カ条はシンプルかつ笑えます。ちょっとだけ著書から紹介してください。
1. 期待しない 2.他の子どもやきょうだいと比較しない 3.親バカになる 4.ママ友と群れない 5.育児本に頼らない 6.世界中を敵に回しても子どもの味方になる…これを守れば親も子どもも幸せになれます。
――6歳前までの小さなお子さんを育てるお母さんへ向けた本ですが、思春期以降の子と対峙する上でも親はかなり気づきがあります。
「どうしてうちの子は○○できないの?」といちいち他の子どもと比べては心配になって欲求がどんどんエスカレート。子育て本を読んだり、子育てセミナーをハシゴしたり、ネットで情報収集したりして、理想の子育てを実現しようといっしょうけんめいになっているお母さんがたくさんいます。「理想のママ」や「理想の子ども」を追いかける子育てが、不幸な子をうむのです。
子どもを縛らず、親の価値観を押し付けない、力の抜けた「テキトーさ」をもって子どもと接することで、子どもを自立させ、お母さん自身が悩んだり苦しんだりすることのない、幸せな子育てになると思います。
――「テキトー母さん」は、自閉症という特性をもつ息子さんの子育てを通して、気づいた視点も多いのですね。
著書の最後に書いていますが、障がいは不便だが「不幸」ではありません。子どもにとって最も不幸なのは、唯一、誰よりも味方になってほしい親から、自分を受け入れてもらえないことです。「障がいがあるのに“できるだけ普通の子に近づけよう”」と育てられたら子どもは辛いです。
また、自閉症の子は一人で遊ぶことも多くお友達と遊ぼうとはしません。でも、本人がそれを望んでいるのですから、親が「友達がいないのはかわいそうだ」という固定観念を押しつけてはいけないと思うんです。人との関わりが苦手であれば野球やサッカーなどの団体スポーツではなく、個人で完結するマラソンや卓球やテニスなどをやらせる。その子の特性にあった好きなことをやらせてあげれば子どもは毎日が楽しいですし、「生まれてきて良かった」と感じることができます。
――その子がもつ「特性」は障がいの有無にかかわらず千差万別。子どもの幸せのために親ができることとは?
どんな子も幸せになる権利があります。否定されることが一番の不幸。子どもは自分から望んで生まれてきたわけでなく、まぎれもなく親の選択。人生は日々の積み重ね。否定をされる日々を送ることは、将来必ず悪い影響を及ぼします。長い子どもの人生を考えて、「いつも幸福感を味わえる環境」を準備してやることが、親の愛だと思うのです。
編集後記
――ありがとうございました! 歯切れよくシンプルに「テキトー母さん」を語る立石さんから、大切なキーワードをたくさん頂きました。取材後、自閉症の息子さんともご挨拶できました。しっかり目をあわせて握手もできてあたたかな手を感じられてうれしかったです。うちの息子は今春から幼児教育、初等教育を専門に学ぶ大学生になりましたが、高校3年間は特に親子バトルを派手にやらかしました。やっと今真っ暗な長いトンネルを抜けて微かな光が見えてきたところです。数年前から存じあげていた立石さんとようやくお目にかかれたことに心から感謝しています。
取材・文/マザール あべみちこ
活動インフォメーション
最終更新: